2019/03/29

カテーテル留置にあらまほしき事

 腎臓内科フェローが当直で緊急に透析カテーテルを挿入するのは、日本でも米国でも同じだ。しかし米国では「やりたい人がやればよい(そのほうが患者も安全だ)」という風潮が高まっており、CJASNでも2018年に賛否両論が掲載された(「必修であるべき」がCJASN 2018 13 1099、「必修でなくてよい」がCJASN 2018 13 1102)。

 筆者は、8年前のある出来事がいまだに忘れられず(123)、その後も「カテ道」で経験を積ませていただき、現在の施設でもカテを入れている。そんなわけで、大腿静脈からガイドワイヤーの付属していないCVカテーテル(透析用ではないもの)キットを挿入したある日のこと。

 そのキットは、穿刺針の外筒がシース・イントロデューサーのような役割を果たし、その内腔からカテーテルを挿入する(挿入後は外筒を剥いて除去できるようになっている)ものだった。

 しかしカテーテルだけでは操作性がわるく、少しでも抵抗があると(左で総腸骨静脈と動脈が交差するなど)進まないし、一旦細い静脈に迷入するとバックはできるが方向転換ができない。抜いたり出したりするたび位置確認にポータブルX線を撮っても、埒が明かない。

 しかし、CVカテーテルは「カテーテル」というだけあって、どれも「何ゲージ」という以外に、内腔に「何インチ(0.025、0.035など)」のガイドワイヤーが入るか明記してある。そこで、透視下にカテーテル内腔からガイドワイヤーを進めると、するすると容易にIVCに入ってカテーテルを導いてくれた。

  吉田兼好の『徒然草』第52段は仁和寺の和尚が石清水八幡(写真)に行った時の話で、「少しのことにも、先達はあらまほしき事なり」とある。




 ガイドワイヤーもまた、あると大変ありがたいものである。

 しかし、注意すべき点もある。それは、先端がどこにいるかわからないガイドワイヤーは、却ってあぶないということだ。

 たとえば内頚静脈からCVカテーテルを挿入する場合、ベッドサイドでガイドワイヤーの先端位置を確認することはむずかしい。「心電図モニターで不整脈(心室性期外収縮や非持続性心室頻拍)が出れば心室内だから、引きましょう」などというが、それ以外にも迷入してほしくない(穿破してほしくない)場所は沢山ある。

 だから筆者は、最近もっぱら(透析用か、短期・長期用かを問わず)CVカテーテルはカテ室で挿入することにしている。安全には替えられないからだ。

 「少しのことにも、ガイドワイヤーと透視はあらまほしき事なり」とでも言おうか。