2011/08/07

ある夜の出来事 2/3 

 (前回からの続き)さて、透析するには透析用の太いカテーテルが必要だ。最も効率よく透析を回せるのは右頚静脈カテーテルだが、当然この静脈はすでにMICUチームの挿入した中心静脈カテーテルが入っている。スイッチしてもいいが、すでに昇圧剤もそこから流れているし、他を探したほうがよさそうだ。オプションは左頚静脈か大腿静脈だ。

 大腿静脈で持続透析すると、患者さんがずっと臥位でいなければならいのが不都合だが、今はそんなことを言っている場合ではない。それで右大腿静脈からアクセスすることにした。しかし、どういうわけか手技中に超音波が浅いところしか映さなくなってしまった。しかも脚の血色が悪く、livedo reticularisのように見える。仕方ないから左大腿静脈に場所を変えてカテーテルを挿入した。これが夜中の1時。

 しかし、折角透析看護師さんが夜中に来て組み立ててくれたCVVHDFマシンが、つないですぐさまhigh access pressure(-200mmHg)を示す。この患者さん、劇症膵炎で腹腔内圧があがり、どうやらIVCから下は全部ペシャンコになっているみたいだ。外科チームは何度か見に来たけれど、横隔膜はよく動いているから減圧手術の適応はないという。

 横隔膜は動いても腎臓と静脈はペシャンコなんだけど…と思いつつ、仕方がないので左頚静脈にアクセスすることにした。腹腔内圧は上がり続け、血圧は下がりはじめていたので、アクセスすべきかはとてもためらった。しかし、いまだ昇圧剤を増やしたりして最大限の治療をしているので、ここで私がテクニカルな理由で「もうだめです」とは言えない。家族に事情を説明し、左頚静脈カテーテルの同意を得る。

 超音波を当てると大きく丸い左頚静脈が皮下8-9mmの浅いところを走っている。これは簡単だろうと手技を始めると、なんど試みても静脈内に入らない。超音波で目の前に見えていながら、こんなに浅いところを、こんなに大きな静脈なのに入らない。そんなバカな…、と起きていることが信じられない。集中治療のフェローに代わってもらったがやはり入らない。続く。