透析液のカリウム濃度は「7 - 患者さんのカリウム濃度」にせよという不文律がある。しかし今日のJournal clubで紹介された論文(Kidney International 79 218 2011)を知って、「8 - 患者さんのカリウム濃度」にしといたほうが患者さんが突然死せずに済むかもしれないと思った。この論文は、大手透析会社DeVitaがもつ膨大な患者さんと透析情報を解析した、case-control studyだ。読んでみて、これは結果よりも解釈が重要だなと感じた。
たとえば「患者さんのカリウム濃度が5.1より1以上高ければ突然死のリスクは46%あがり、1以上低ければ55%あがる」と言われても、このカリウム濃度はイベントが起こった日のカリウム濃度ではなく、月一回計る血液検査時のものだ。カリウム濃度が高い患者には、低いK濃度の透析液を使うために不整脈が起こり突然死するのか。カリウムが低い患者は、日頃から透析をアグレッシブにやりすぎているからいけないのか。カリウムが低い患者は栄養状態が悪いのか。考えられることが色々ある。
[2019年2月追記]上記の透析前カリウムと突然死リスクの相関は下図のようなUカーブで表現されていた。
透析患者さんは透析前の高カリウム血症もさることながら、透析中の低カリウム血症も心配で、透析前のカリウムは5mEq/l程度でよいのかもしれないというメッセージだった。
そしてこれを振り返るきっかけになったのが、ahead of printのお知らせメールが昨日届いた(腎臓内科学会メーリングリストでも話題の)CJASNの論文だ(doi.org/10.2215/CJN.08580718)。
欧州各国とアルゼンチンのDIET-HDコホートから約8000人の血液透析患者さんについて野菜と果物の摂取量をアンケートし、1日5.5以下、5.6-10、10 servings以上の三群にわけると、平均2.7年のフォローで摂取が多いほど総死亡・非心血管系死亡が有意に低かった。
心血管系死亡は有意差が出なかったが、じっさいの数字(1000人・年あたりの死亡率)は心血管系のみで下がり、感染・がんなどの非心血管系死亡はどの群の数字も同じだった。
なにがよかったのか?ということで、「ビタミンとか繊維とかがよかったのでしょう」といういつものお話が(相関と因果関係に注意しながら)各所ではじまっていると思われる。カロリー摂取が3群で1700、2000、2400kcal/日と大きく違うのが気になるが、著者は多変量解析でその影響を排除したといっている。
また透析前カリウムの値はいずれも5-5.1mEq/lで変わらなかった。カリウム吸着薬についての記載はないのでわからないが、「カリウム吸着薬をのんで野菜と果物のいいとこどりをしましょう」という提案も(新規K吸着薬の登場とあわせて)これからなされるかもしれない。
ただ、「果物の美味しい季節はカリウムに気をつけよう」というわけで、梨でも柿でもイチゴでも旬に高カリウム血症で運ばれる患者さんを診た経験がどの透析施設にもあると思われる(わたしのいた米国施設では「夏はトマトに気をつけろ」といわれていた)。
せっかく患者さんの食生活と予後を改善しうる結果がでたのだから、慎重に前向きに採用して検証したい。