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2018/04/05

1年後のアミノ酸トランスポーター

 昨年4月に近位尿細管のアミノ酸トランスポーターについて書いたのを覚えておられる読者がどれくらいいるかはわからないが、アミノ酸トランスポーターのうちで基底膜側にあるTAT1、LAT2/CD98hcをダブル・ノックアウトしたマウスの実験結果がJASNに報告された( doi: 10.1681/ASN.2017111205)。

 それぞれ直接には芳香族アミノ酸と(非芳香族の)中性アミノ酸の再吸収にかかわるが、両方をノックアウトするとこれらのアミノ酸排泄、とくにチロシンが単独時よりも大幅にふえることから、両者は協力しあっているのではないかと考えられた。

 さらにこのダブル・ノックアウトマウスでは、TAT1とLAT2のいずれも通過しない陽イオンアミノ酸とイミノ酸のプロリンの排泄がふえていた。これらの機序は不明だが、前者については陽イオンアミノ酸を通過するトランスポーターのひとつY+LAT1/CD98hcの転写と発現がふえていたことが関係しているかもしれない。

 後者は、未知のプロリントランスポーター(イミノ酸トランスポーターIMINOや、イミノグリシン尿症の原因遺伝子PAT2とは別の)があるのかもしれない。

 ここまで書くと、どこにどんなトランスポーターがあるかの図が欲しくなると思う。この論文でも図を挙げているが分かりにくいので、昨年の記事で紹介した参考文献(Biochem J 2011 436 193)から下図を挙げておく。




 ちなみに今年でた論文の著者と昨年あげた参考文献の著者は、同じだ。アミノ酸トランスポーターは研究施設が少ないのだろうか。近位尿細管のしくみは複雑で変数が多く難解な印象があるが、インパクトをあたえる臨床応用に結びつくことを期待したい。

(下図は腸管のトリプトファン吸収障害によって高カルシウム血症をきたすBlue Diaper Syndromeに特徴的な、インジゴブルー尿。TAT1やLAT2の関与が推定されているが原因遺伝子は特定されていない)




2017/12/05

甘い水はお好き?中心静脈栄養と腎臓内科

 「あっちの水は苦いぞ、こっちの水は甘いぞ」という言葉をご存知だろうか。『ホタル取り』という唄の歌詞だそうだ(わたしはてっきり、おばあさんのこの言葉で川を流れていた桃太郎の桃が寄ってきたのかと勘違いしていた)。実際にホタルが甘い水を好むかは知らないが、いかにも風雅な慣習だ。

 日本ではあまり見られなくなったホタルだが、米国ではfirefly(lightning bugとも)と呼ばれ、初夏のちょっとした芝生や木立にたくさんいる(写真)。風物詩として、Rodney Atkinsの"It's America"にもfireflies in June and kids sellin' lemonadeという歌詞がでてくる。こちらは軽快な愛国カントリーだ。




 さて、腎臓内科の輸液といえば電解質ばかり考えているイメージかもしれないが、じっさいには糖とか他のものも入っている。というわけで、そんな輸液の代表である中心静脈栄養をオーダーしていたら、組成のところにこう書いてあるのに気づいた。

・1000mlあたりの電解質

Na+ 50mEq
K+ 22mEq
Mg2+ 4mEq
Ca2+ 4mEq
Cl- 50mEq
SO42- 4mEq
Acetate- 41mEq
L-Lactate- 12mEq
Citrate3- 8mEq
P 5mmol

 陽イオンの和は80mEq。陰イオンの和は、115mEqだから、あわない。どういうことか?これについて添付文書は明示していないが、おそらく差である「陽イオン・ギャップ」はunmeasured cationで、その多くはアミノ酸と思われる。アミノ酸は陽性荷電するアミノ基と陰性荷電するカルボキシル基をもっているけれど、輸液のpHがひくいので多くが陽性に荷電していると考えられるからだ。

 以前は、アミノ酸の陽性荷電にマッチする陰イオンの多くはCl-で、身体に入るとアミノ酸が分解されるのにCl-が残って高Clアシドーシスの原因になっていた。しかし、酢酸やクエン酸などの有機酸イオンにしてアシドーシスが避けられたという論文(Nutrition 2000 16 260、日本の研究)もでて、Cl-でマッチさせる製剤はあまり見なくなった。

 ほかにも中心静脈栄養には、アシドーシスを起こしうるメカニズムがいくつかあるので参考文献(Indian J Crit Care Med 2015 19 270)なども参考にしてほしい。私は上室と下室というように隔てて保存され、直前に混ぜるようになっている理由すら知らなかった(知らない人がもしいたら、メイラード反応を避けるため)ので、反省だ。腎臓内科に関係ないもんねと思っていた。

 「蛍の光」といえば日本では卒業式(英国では大晦日で、蛍は関係ない)だが、腎臓内科の卒業は遠い。苦手分野の克服しながら一歩一歩学んでいきたい。



 

2017/04/19

アミノ酸トランスポーター

 アミノ酸だけで20種類ありほかにもイミノ酸(プロリン)、GABA、オルニチン、シトルリンとか仲間もいれると数が多い。だからそれらを通すトランスポーターも種類がおおいし分類も複雑だ。分かる範囲、腎臓に関係ある範囲でまとめてみよう(参考にしたのはBiochem J 2011 436 193;Brennerなどにも詳細な解説があるので参照されたい)。

 まず近位尿細管でグルタミン取り込みに関係するB0AT、Y+LAT-4F2hc、LAT-4F2hc、TATを解読してみる。

 B0ATのATはアミノ酸トランスポーターのこと。Bはbroad、つまりいろいろなアミノ酸が通過できる。大文字なのはNa+に依存する、小文字なのはNa+に依存しない。ゼロは、電気的に中性のアミノ酸が通過できる(グルタミンは中性)。

 Y+LATもATは同じ。Y+は生理的なpHで陽性に荷電したアミノ酸(アルギニン、ヒスチジン、リシン)、Lはロイシンに代表される大型中性アミノ酸をそれぞれ通すということ。LATはY+を通過しない。どちらも大文字だからNa+依存。4F2hcは表面抗原の一種で(hcはheavy chain)、これとヘテロマーをつくることでY+LAT1もLAT1も機能できる。

 TATもATは同じ、最初のTは芳香族アミノ酸(フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン)の通過を意味する。大文字だからNa+依存だ。なおB0、Y+のほかに陰性荷電のアミノ酸(アスパラギン酸、グルタミン酸)の通過を意味するX-、側鎖にN原子をもつアミノ酸を通すN、プロトンとアミノ酸の共輸送を意味するPなどがある。

 これらのアミノ酸トランスポータの変異でおこる腎疾患もあるし、近位尿細管の生理はこれからもっと注目されるだろうから、NHE3とかNBCe1とかと同じように少し親和性をもつと役立ちそうだ。下に主な疾患を整理しておく。

ジカルボキシルアミノ酸尿症
・興奮アミノ酸トランスポーター3(X-通過のアミノ酸トランスポーターのひとつ)、遺伝子名はSLC1A1

シスチン尿症
※尿中の結晶は下図(Renal Fellow Networkより)
・B0,+AT-rBAT(中性と陽性荷電のアミノ酸を通すヘテロマーのアミノ酸トランスポーター)、遺伝子名はそれぞれSLC3A1、SLC7A9

Hartnup病
・前述のB0AT1、遺伝子名はSLC6A19

LPI(リジン尿性タンパク不耐症)
・前述のY+LAT1、遺伝子名はSLC7A7

イミノグリシン尿症
・PAT2(H+とともにプロリンやグリシンなど小さな中性アミノ酸を通すトランスポーターのひとつ)、遺伝子名はSLC36A2

シスチン症
・シスチノシン(シスチントランスポーター)、遺伝子名はCTNS





2016/07/09

Renal Supplements

 2008年に冬眠するクマ(図)が尿毒症にならない仕組みにアミノ酸リサイクリングが考えられていると聴いて腎臓に興味を持っていたら、2013年にクマの論文が腎臓内科雑誌にでて、腎臓内科医は動物好きだなと改めて思った。しかしアミノ酸リサイクリングをしているのはクマだけではないらしい。アイソトープで標識したアミノ酸を用いた実験などで、じつは60kgのヒトで毎日250−300gのたんぱく質が入れ替わっており、そのうち100−120gが筋肉だという(CJASN 2016 11 1131)。しかし、それだけのたんぱくを全部CO2まで異化分解して1から作りなおすのは大変なのでアミノ酸リサイクリングをしており、結局1日に補うたんぱく必要量は50-80gで済んでいる。

 さてこのたんぱくターンオーバーのバランスは加齢やCKDで崩れる傾向にあり、加齢では同化合成にかかわるmTOR-p70s6kシグナリングの抑制が関与しているといわれる。実際健康な70代の被験者にω3脂肪酸を8週間摂らせたところこの系が再活性化したんぱくが増えたという小さなスタディがある(Am J Clin Nutr 2011 93 402)。またCKDでは、たんぱく分解が増えミオシン重鎖合成パターンが変わることがわかってきている。いまのところそれらに対して打つ手はないが、ω3脂肪酸はCKD患者で摂取も少なく血中濃度も低い(ω6/ω3比は炎症や死亡と相関する)ので、これを補ってはどうかというスタディが最近でた(CJASN 2016 11 1227)。

 ω3脂肪酸とは要するにfish oilである。肉食文化のためか欧米でfish oilは有難がられており、抗炎症作用がIgA腎症に試されたりしているが(NEJM 1994 331 1194、KDIGOガイドラインの推奨レベルは低い)、EPAとDHAを2対1で配合した1日2.9グラムのω3脂肪酸を透析患者さん(CRP 0.5mg/dl以上)に12週間投与したところ、たんぱく分解は減ったが合成も減ってしまい(プラセボ群では合成は増えた)差し引きは変わらなかった。この結果はOmega-3 Fatty Acid Administration in Dialysis Patients Studyの一部で、これから他の結果も出るだろうが、ω3脂肪酸(とくにEPAとDHA)の透析患者さんへの効用については古くからまことしやかに伝えられてきたらしい(CJASN 2006 1 182)。

 ω3以外のサプリメントはどうか。よく聞くのがカルニチンとクレアチンだ。紛らわしいが、カルニチンはラテン語で肉を意味するcaro、クレアチンはギリシャ語で肉を意味するkreasに派生する(フランスの化学者Michel-Eugène Chevreulが肉汁から発見し命名した)ので無理もない。カルニチンはリシンが腎臓と肝臓でビタミンB6、ナイアシン、ビタミンC、鉄などの存在下にメチオニンのεアミノ基がトリメチル化されて生合成されるが、肉(とくにヒツジ、ヤギ、ウマなど)からも摂取される。長鎖脂肪酸がミトコンドリアの外膜を越え内膜を越えTCA回路にたどり着くためのシャトルの役割をしており、長鎖脂肪酸は安静時の骨格筋・心筋の主エネルギー源なので、よくダイエットに効くなどと言われる。

 カルニチンは水溶性で分子量が161g/molのため透析で喪失されることから、静注で補うことがある。ただし血中濃度を測って補うことは稀だ(カルニチン欠乏症という長期絶食、酵素異常、肝疾患、腎尿細管異常などに関連した病気があるので測れる;ある検査会社では総カルニチンの基準値は45-91μmol/l、遊離カルニチンは36-74μmol/l、アシルカルニチンは6-23μmol/l)。一方でカルニチンが動脈硬化に関連するという心配があるが、ひとつの研究では腸内細菌で代謝されつくられるTMAO濃度が高い場合に限るという結果だった。静注ならいいのかもしれない。

 一方のクレアチンも筋肉のエネルギー源(CKすなわちクレアチンキナーゼによりリン酸化されATPが消費される)で、何段階か経て筋肉まで届く。生合成の場合、まず腎臓の近位尿細管でアルギニンとグリシンからAGATによりguanidinoacetate、GAAができる(マウスとちがいヒトでは肝臓などにもAGATがある)。GAAはGAT2を通って肝臓に入り、GAMTによりS-adenosylmethionine(SAM)からメチル基を受け取りクレアチニンになる(SAMはS-adenosylhomocysteine、SAHになるがメチオニン回路でSAMに戻る)。

 こうしてできたクレアチンが筋と脳にSLC6A8遺伝子にコードされたCRT(Na+/Cl-依存クレアチントランスポーター)を通って入る。筋と脳でCKのタイプが違う(CK-M、CK-B、心筋はCK-MB)のはよく知られているが、CKは細胞質で二量体、ミトコンドリアで八量体だそうだ。ほかに食事から50%くらい摂取される。腎機能が低下すると、腎臓のAGAT活性が低下しGAAが減る。また尿毒素物質のグアニジン化合物、とくにβ-GPAはCRTを阻害しクレアチンの取り込みを落とす。CKD、透析患者さんにカルニチンやGAAを補充して筋肉がつくかは、まだわからない。ただしクレアチンが非酵素的に分解されたのがクレアチニンなので、補充すればクレアチニン値はあがる(クレアチンサプリメントをのむ人の急性腎障害でクレアチニン38mg/dlというのをみたことがある)。

 なおカルニチンを細胞質に取り込むOCTN2(organic cation/creatine transporter novel type 2)の常染色体劣性遺伝異常ではカルニチン欠乏になり、カルニチン大量投与を行う。クレアチンではAGAT(をコードするGATM遺伝子)とGAMTの常染色体劣性遺伝、SLC6A8のX-linked異常で脳のクレアチン欠乏症になる。前者ふたつはクレアチン大量投与で治療できるが、SLC6A8異常は脳への取り込み異常なので反応しにくいようだ。それにしても栄養や代謝の話は複雑で、私の文章など専門の人からみればベイビートーク(あのねー脂肪酸がねー、というレベル)だ。彼らはどれだけ勉強するんだろう…すごいなと尊敬する。


2013/02/22

酸塩基平衡の本質 1/2

 クマが冬眠できるのも、ペンギンの脚が凍らないのも、サケが淡水と海水を行き来できるのも、スナネズミが砂漠で生きられるのも、全部腎臓と関係ある(まだ詳しくわかってない部分もあるが)。ペンギンの話などは、ヘンレ係蹄のcounter-current exchangeを説明する際に多くの医学部の授業で取り上げられていることだろう。

 腎臓は恒常性を守り、環境に適応する臓器。腎臓を学ぶと、世界の見方が変わる。先日、日本で酸塩基平衡についてレクチャする機会に恵まれたときも、それを強調したくてタイトルを『世界は酸塩基平衡でまわってる』にした。要は酸塩基平衡をbig pictureで捉えようということだ。その一部を説明してみよう。

 まずはツカミでイルカの尿酸結石について説明した(J of Zoo and Wildlife Med 2012 43 101)。イルカの尿管結石は原因不明だが、水族館で飼育の群に見られ野性では稀だ。そして研究により水族館群では尿中のcitrateがほぼゼロなことがわかった(Comparable Med 2010 60 149)。これと酸塩基平衡の関係は、大有りだ。

 Citrateは酸のバッファーだから、酸の大量摂取により枯渇する。これは私の推察だが、水族館で飼育の群は野生に比べて魚ばっかり食べて、しかも訓練のご褒美などでたくさん食べているのかもしれない。といわれても「魚がなんで酸なの?」と思うだろう。で、生物と酸(摂取と排泄)について話を始めた。続く。

 [2013年3月追加]クマの冬眠の話がレビューされた(KI 2013 83 207)。例の尿素→アミノ酸リサイクリングのみならず、骨代謝や血管・血栓・創傷治癒についても記述されている。

2008/09/29

生物系

 クマが冬眠中に水分も取らずほとんど尿もせずに体液のバランスを保てるのはなぜか。冬眠中の代謝で生じる老廃物(おもに窒素)や尿はどうなるのか。腎臓内科の先生が講義をしていた。この先生は、以前にペンギンがなぜ足元まで体温をたもてるのか、という話もしていた。動脈と静脈を併走させて温かい血液と冷やされた血液が対向して流れることで、熱が循環し末梢も冷たくなりにくいそうだ。

 冬眠中は脂肪をエネルギー源にして、たんぱく質が分解されて老廃物がでるのを防いでいるそうだ。また、エネルギーを消費して生じる水を水分として再利用するので、尿をほとんど作らないで済む(少し作られても膀胱でほとんど吸収される)らしい。また、アミノ酸が分解されて老廃物にならないような、リサイクル回路があるという。こういう話は面白く、食後のレクチャーでも眠くなりにくい。


[2019年10月4日追記]あれから11年、筆者共著の『腎臓診療の考具箱』にも、これを考具の一つとして紹介させていただいているので、よろしければ。

 なお上述のアミノ酸(窒素化合物)のリサイクルについては、クマが冬眠前に食べるベリー類に多く含まれる、quercetin(クエルセチン)が大切だと考えられている。尿素代謝に大切なSIRT5(サーチュイン5)やCSP1といった酵素を活性化するそうだ。

 さらに、補足すると・・。

 近頃は、こうしたクエルセチンやサーチュイン5についての腎臓領域での研究が、よく見られる!

 クエルセチンは、チロシンキナーゼ阻害薬dasatinib(ダサチニブ)と組み合わせることで老化細胞や老化物質を抑えることが期待され(senolyticsと呼ばれる)、糖尿病性腎臓病患者の皮下組織や血中から老化物質が選択的に減ったという第1相試験結果が報告されている(EBioMedicine 2019 47 446)。

 またサーチュイン5は、近位尿細管で脂肪酸がβ酸化される細胞内器官を、ペルオキシソームからミトコンドリアにスイッチすることが示唆されており、サーチュイン5遺伝子ノックアウトマウスはミトコンドリアの負担が減ってAKIになりにくい(doi:10.1681/ASN.2019020163)。


 これだけ真に受けると、「ベリー(写真は、クマもヒトも食べるランゴンベリー)を食べると老化しないけどAKIになりやすい?」となってしまうように、いまだ未解明の部分は多い。しかし今後も、この領域から目が離せない。