2008年に冬眠するクマ(図)が尿毒症にならない仕組みにアミノ酸リサイクリングが考えられていると聴いて腎臓に興味を持っていたら、2013年にクマの論文が腎臓内科雑誌にでて、腎臓内科医は動物好きだなと改めて思った。しかしアミノ酸リサイクリングをしているのはクマだけではないらしい。アイソトープで標識したアミノ酸を用いた実験などで、じつは60kgのヒトで毎日250−300gのたんぱく質が入れ替わっており、そのうち100−120gが筋肉だという(CJASN 2016 11 1131)。しかし、それだけのたんぱくを全部CO2まで異化分解して1から作りなおすのは大変なのでアミノ酸リサイクリングをしており、結局1日に補うたんぱく必要量は50-80gで済んでいる。
さてこのたんぱくターンオーバーのバランスは加齢やCKDで崩れる傾向にあり、加齢では同化合成にかかわるmTOR-p70s6kシグナリングの抑制が関与しているといわれる。実際健康な70代の被験者にω3脂肪酸を8週間摂らせたところこの系が再活性化したんぱくが増えたという小さなスタディがある(Am J Clin Nutr 2011 93 402)。またCKDでは、たんぱく分解が増えミオシン重鎖合成パターンが変わることがわかってきている。いまのところそれらに対して打つ手はないが、ω3脂肪酸はCKD患者で摂取も少なく血中濃度も低い(ω6/ω3比は炎症や死亡と相関する)ので、これを補ってはどうかというスタディが最近でた(CJASN 2016 11 1227)。
ω3脂肪酸とは要するにfish oilである。肉食文化のためか欧米でfish oilは有難がられており、抗炎症作用がIgA腎症に試されたりしているが(NEJM 1994 331 1194、KDIGOガイドラインの推奨レベルは低い)、EPAとDHAを2対1で配合した1日2.9グラムのω3脂肪酸を透析患者さん(CRP 0.5mg/dl以上)に12週間投与したところ、たんぱく分解は減ったが合成も減ってしまい(プラセボ群では合成は増えた)差し引きは変わらなかった。この結果はOmega-3 Fatty Acid Administration in Dialysis Patients Studyの一部で、これから他の結果も出るだろうが、ω3脂肪酸(とくにEPAとDHA)の透析患者さんへの効用については古くからまことしやかに伝えられてきたらしい(CJASN 2006 1 182)。
ω3以外のサプリメントはどうか。よく聞くのがカルニチンとクレアチンだ。紛らわしいが、カルニチンはラテン語で肉を意味するcaro、クレアチンはギリシャ語で肉を意味するkreasに派生する(フランスの化学者Michel-Eugène Chevreulが肉汁から発見し命名した)ので無理もない。カルニチンはリシンが腎臓と肝臓でビタミンB6、ナイアシン、ビタミンC、鉄などの存在下にメチオニンのεアミノ基がトリメチル化されて生合成されるが、肉(とくにヒツジ、ヤギ、ウマなど)からも摂取される。長鎖脂肪酸がミトコンドリアの外膜を越え内膜を越えTCA回路にたどり着くためのシャトルの役割をしており、長鎖脂肪酸は安静時の骨格筋・心筋の主エネルギー源なので、よくダイエットに効くなどと言われる。
カルニチンは水溶性で分子量が161g/molのため透析で喪失されることから、静注で補うことがある。ただし血中濃度を測って補うことは稀だ(カルニチン欠乏症という長期絶食、酵素異常、肝疾患、腎尿細管異常などに関連した病気があるので測れる;ある検査会社では総カルニチンの基準値は45-91μmol/l、遊離カルニチンは36-74μmol/l、アシルカルニチンは6-23μmol/l)。一方でカルニチンが動脈硬化に関連するという心配があるが、ひとつの研究では腸内細菌で代謝されつくられるTMAO濃度が高い場合に限るという結果だった。静注ならいいのかもしれない。
一方のクレアチンも筋肉のエネルギー源(CKすなわちクレアチンキナーゼによりリン酸化されATPが消費される)で、何段階か経て筋肉まで届く。生合成の場合、まず腎臓の近位尿細管でアルギニンとグリシンからAGATによりguanidinoacetate、GAAができる(マウスとちがいヒトでは肝臓などにもAGATがある)。GAAはGAT2を通って肝臓に入り、GAMTによりS-adenosylmethionine(SAM)からメチル基を受け取りクレアチニンになる(SAMはS-adenosylhomocysteine、SAHになるがメチオニン回路でSAMに戻る)。
こうしてできたクレアチンが筋と脳にSLC6A8遺伝子にコードされたCRT(Na+/Cl-依存クレアチントランスポーター)を通って入る。筋と脳でCKのタイプが違う(CK-M、CK-B、心筋はCK-MB)のはよく知られているが、CKは細胞質で二量体、ミトコンドリアで八量体だそうだ。ほかに食事から50%くらい摂取される。腎機能が低下すると、腎臓のAGAT活性が低下しGAAが減る。また尿毒素物質のグアニジン化合物、とくにβ-GPAはCRTを阻害しクレアチンの取り込みを落とす。CKD、透析患者さんにカルニチンやGAAを補充して筋肉がつくかは、まだわからない。ただしクレアチンが非酵素的に分解されたのがクレアチニンなので、補充すればクレアチニン値はあがる(クレアチンサプリメントをのむ人の急性腎障害でクレアチニン38mg/dlというのをみたことがある)。
なおカルニチンを細胞質に取り込むOCTN2(organic cation/creatine transporter novel type 2)の常染色体劣性遺伝異常ではカルニチン欠乏になり、カルニチン大量投与を行う。クレアチンではAGAT(をコードするGATM遺伝子)とGAMTの常染色体劣性遺伝、SLC6A8のX-linked異常で脳のクレアチン欠乏症になる。前者ふたつはクレアチン大量投与で治療できるが、SLC6A8異常は脳への取り込み異常なので反応しにくいようだ。それにしても栄養や代謝の話は複雑で、私の文章など専門の人からみればベイビートーク(あのねー脂肪酸がねー、というレベル)だ。彼らはどれだけ勉強するんだろう…すごいなと尊敬する。