2016/07/07

It's not that simple

 腎臓内科医をしていてなんとなく居心地が悪いのが泌尿器科のお話と血管外科(ブラッドアクセス)のお話だ。きちんと教わる機会がないのでもどかしい。ほんとうは腎瘻・尿管ステント留置・シャント造設・グラフト造設はひとりでは難しくても、せめてシャントエコー・シャントPTAくらいできたほうがいいなと思う。ASNのOpen Forumでも最近「フェローシップではinterventional nephrologyは教えないわけ?」というinterventional nephrologistからの問題提起があって、教えたほうがいいよねという意見が多く出ていた。

 さてその泌尿器科関連で、腎の単純のう胞は感染するか?という話題が出た。理論上のう胞は尿細管とつながっているので尿路感染で菌が入り込むことはあり得るけれど、ADPKDでもないとあまり聞いたことがない。システマティックレビュー(NDT 2015 30 744)によれば、119例(81例:definite、38例:probable)の感染のう胞のうち、definiteの68%、probableの91%がADPKDだった。逆にdefiniteの32%は単純なのう胞(29%が単一のう胞、3%が複数のう胞)だった。けっこう多いが、ADPKDののう胞感染ぐらいで報告しないだろうから単純のう胞の報告がover-representされているかもしれない。別のレビュー(JASN 2009 20 1874)には単純のう胞の総合併症率(出血・感染・破裂など)が2−4%と書いてある。

 いろんな診断基準があって症状(腹痛:約半数ではないことも、持続する発熱、抗生剤に不応など)、炎症反応(WBC、CRP)、培養結果(血液、尿)、画像(CT:のう胞内のCT値50HU以下で出血を除外、超音波、MRI、18F-FDG CT/PET)などが項目にはいっている(日本のADPKDセンターがだしたのはClin Exp Nephrol 2012 16 892、ROCなどはないが)。画像でよく用いられ信頼度がたかいのは造影CT、超音波と単純CTでの診断はむずかしい、MRIもいいのだろうが経験が少ない、CT/PETは他のモダリティで証明できないが必要なとき、ということだった。ちなみに肝のう胞の感染にはCA19-9が提案されているが腎にはそのようなバイオマーカーはないようだ。

 起炎菌は大腸菌が多く、緑膿菌、Klebsiellaなどが続く。大腸菌の単純のう胞感染からの脳膿瘍まで報告されていて、あなどれない(BMC Neurology 2014 14 130)。大腸菌による二次性脳膿瘍、硬膜下膿瘍はまれだが、尿路、胆道、整形外科手術などで血行性におこる(in vitroの実験で脳微小血管内皮細胞にエンドソームとして取り込まれ脳に入ると考えられているらしい)。半分以上の場合は高齢者、ステロイド内服、脾摘後、糖尿病、化学療法中などの免疫低下リスクがあった。

 感染した単純のう胞をどうするか。ADPKDの場合、抗生剤で4−6週間押す、穿刺は①腎周囲膿瘍、②どののう胞が感染しているか明らかで、大きく(3−5cmより大きいと抗菌薬は届きにくいとされる)、かつ経皮的に穿刺可能な場合が慣例という。単純のう胞もそれに準じるが、どののう胞が感染しているかはわかりやすいと思われる(前述の脳膿瘍報告ではMEPM 6g/dを6週間と、のう胞穿刺をおこなっていた)。なお、単純のう胞をエタノールや酢酸などの硬化療法でつぶすことがあるが、これは痛みがコントロールできないときなどのレアケースだ。