2016/07/12

Predicting diuretic response

 ADHF(急性非代償性心不全)における利尿薬のボーラスと持続を比較した論文については書いたが、そのあとでた利尿薬と限外ろ過を比較するスタディ(CARRESS-HFトライアル、NEJM 2012 367 2296)は読んだだけで書いていなかった。Cr 1.5-2.5mg/dl程度の心不全増悪で入院した患者を、末梢カテーテルを用いるAquadex®というUFマシン群と、尿量や血圧に応じて利尿薬の量や種類、昇圧剤などを調節するstepped pharmacological care群にわけて96時間後の尿量と腎機能悪化を比較ところ、マシン群で腎機能悪化が多かった。マシンを使い慣れなかったのと、薬剤調節のアルゴリズムがけっこうよく出来ているのでそれが効いたのかなとも思う。一日尿量3リットル未満、3−5リットル、5リットル以上で治療を動かすかなり大味なものではあるが、これで腎機能が動かなかったんだからいいのかもしれない(日本人は体重も小さいし利尿薬の効きが倍くらいなので、そのままは当てはめられないが)。

 またTolvaptanを心不全症例につかったことはある(いま読み返すと相当抵抗しているが、すくなくとも私が向こうにいた時にこの薬をつかうことはほとんどなかった)が、Tolvaptanを入院患者に用いたEVERESTトライアル(JAMA 2007 297 1319)のことは書いていなかった。いまさらだが、ベースラインCr不明(3.5mg/dl以上は除外)のADHF患者を通常のケアと30mg/dのTolvaptan群とプラセボ群にわけたところ、all-cause mortalityで非劣性(プラセボと比較して非劣性というのもどうかと思うがまあ害はないということ)で、心血管系イベント、心不全再入院などに有意差が見られなかった。入院翌日の呼吸苦改善、退院時・7病日の浮腫改善は有意だった(利尿剤を追加したんだから当たり前といえば当たり前だが)。低Na血症の改善にも有意差があって(6mEq/l程度あがった)、高Na血症の頻度は有意差は不明だがTolvaptan群でたかかった(口渇も)。

 EVERESTスタディをみる限り、入院医療費がTolvaptanよりもずっと高くて、使うことで日数が短くなるなら使ってもいいのかなと思うが、それはアウトカムにみつけられなかった。あとNa値をあげて認知機能や歩行障害が改善するならいいが(先日SIADHを対象にしたINSIGHTトライアルのパイロット結果がでたが、3週間の介入で精神運動スピードに差があったものの総神経認知機能には差がなかった、AJKD 2016 67 893)。あとTolvaptanもhANPと同じで、急性期に使って効くのはいいけれど退院後も十分な利尿を得るために使い続けることが技術的に金銭的に難しいので、結局ループとサイアザイドでお帰しすることになる。やはり再入院を防ぐには患者教育(水分、塩分モニター、体重に応じた利尿薬調整またはこまめな訪問看護、外来フォロー)なのかなと思う。

 というわけで特別にいい薬とおもっているわけでもない(作用後の揺り戻しNa保持傾向、RAA系亢進なども指摘される)がやっぱりループ利尿薬が心不全治療の基本だ。しかしその効きは腎機能が低いほど悪くなる。というところへ、ループ利尿薬を少しでも使いやすくするために反応量を予測できないかと調べた論文がでた、と教えてもらった(Circ Heart Fail 2016 9 e002370)。どんな魔法かと思ったらコロンブスの卵で、クリアランスCがUcr x V / Pcr、変換してV = C x Pcr / Ucrなことを元にして得た式だった(Ucrには静注後2時間のスポット尿を用いた)。このVは微分的な尿生成速度(instantaneous rate)になるが、ここでCにCKD-EPIのeGFR(ml/min/1.73m2)を当て、時間を2.5時間に(静注ブメタニドの半減期 x2、よく効いているあいだということ)、また体表面積を補正(BMIが40kg/m2以上では理想体重を使用)すると、2.5時間あたりの尿量が次式で得られる。
 
V(ml/2.5h) = eGFR x BSA / 1.73 x Scr / Ucr x 60 min x 2.5 h

 さらに、この尿にいくらのNaが含まれているかを計算するには尿Na濃度(mmol/l)をかけてミリリットルとリットルを同じにすればよい。

Na(mmol/2.5h)= eGFR x BSA / 1.73 x Scr / Ucr x 60 min x 2.5 h x UNa / 1000

 ブメタニドを用いたのは薬理学的により計算予測がより立ちやすいためだという。で、ADHFの入院患者さんで蓄尿とスポット尿採取を行い、式と6時間反応Na利尿量(mmol)の相関に関わる信頼性をvalidateした。患者さんは多くがEF 40%以下、フロセミド静注換算量で平均100mg/dを使われており(25%でサイアザイドも)、Crは1-2mg/dlだった。なお留置カテーテルを使ったかは書いていないが「朝ブメタニドを打つ前に膀胱を空にしてもらった」とあるのでおそらく使っていない(こんな正確さを求める実験でも使わないんだから、いかに留置カテーテルが無駄に使われて合併症を起こしているかを改めて考えさせられる)。その結果、12%で大失敗した(とこっそり書いてある)が、うまくいった例を集めるとNa利尿量予測、Na利尿不良群予測、Na利尿良好群予測に関して非常にAUCが高いROCが得られた。式の定数2.5時間はコンピューティング予測で3.25時間にしたほうがよいとか細かいこともわかった。

 この臨床上の意義はなにか。ループ利尿薬は本来1日2回用いる薬なので、朝の反応をみて夕の用量を調節できるかもしれない。その際に午後まで蓄尿して看護師さんに6時間尿量を報告してもらうのを待たずに、より正確に(今回の論文は尿量や体重と式を比較しているが式のほうがNa利尿量の予測に優れていたという;ただし体重とNa利尿量でどちらが臨床的に意義があるかは疑問だが)回診の時点で静注2時間後のUNaの結果がでて予測が立つのは便利かもしれない。また、K利尿量もVにUKをかければ同様に求められるはずなので、K値低下の予測に応用できれば補正に活かせるかもしれない。高いミラクル薬がなくても、ちょっとした生理学の知識をつかって昔からの診療を洗練させることはできるのだな、そういうのかっこいいなと思った。Cardiorenalresearch.netにcalculatorが置いてある。