2016/07/08

Heparin-grafted membranes

 Nafamostat(フサン®)、凝固線溶でついでにいえばCarbazochrome(アドナ®)、Tranexamic acid(トランサミン®)は、薬理学で教わらなかったがよくつかわれるので、少し調べておきたい。NafamostatはProstacyclinアナログで血圧低下作用がなく、セリンプロテアーゼ阻害薬としてフィブリノゲンからフィブリンへのたんぱく分解をおさえる。CRRTサーキットの開存は10-30時間(J Artif Organs 2013 36 208、Int J Artif Organs 2016 39 16)で、ヘパリンとくらべて出血は少ないようだが開存性の優劣はスタディによりまちまちだ。ただ24時間ごと膜を交換する日本ではそこまで問題にならないかもしれない。
 いっぽう、CarbazochromeはAdrenalineの酸化物Adrenochromeと尿素の化合物Semicarbazineが付加脱離反応して生成し、血小板のα受容体を刺激する。それにより細胞内Ca濃度があがり、PLA2を介したアラキドン酸カスケードのup-regulationとCalmodulinを介した血小板収縮(凝集物質の放出)を起こし止血作用を示す。Tranexamic acidはlysineの合成アナログで、プラスミノーゲンやプラスミンにある複数のlysine receptorをブロックしてフィブリンとの結合を防ぐ。価格と効果から、WHOの必須薬リストにも載っているキードラッグだ。知らなかったのは、これが戦時中にすべてを破壊されたあとの慶応義塾大学医学部生理学教室で(今年4月にご逝去なさった)岡本歌子先生が開発なさったことだ。
 さて、ヘパリンを使いたくない時の血液透析といえば日本ではNafamostat、米国では回路内クエン酸抗凝固(通常HDなら人手がいればpre-filter 生食ボーラス)が慣習だが、そろそろ新しい方法はないかなと思って調べてみたら(Semin Dial 2015 28 474)いくつかあった。なかでも、ダイアライザ中空膜の表面積は血液ライン内腔の20倍あるのでメインの膜部分をヘパリンでコーティングしようというのが熱い。膜技術の向上が医学の発展につながると堅く信じているのは欧州か日本だが、欧州のがみつかったので紹介する(日本にもあるのかもしれない、大手会社が今年「抗血栓性を飛躍的に向上させた新規高分子材料を開発」というプレスリリースをしている)。
 Heparin-grafted membrane(HGM)の歴史は古く、セルロース膜に陽荷電のN, N-diethyl-aminoethyl group (DEAE)をつけプライミング時に液に含まれるヘパリンでコーティングする技術は前からあった。しかしCTA、PSなどのメジャー膜が技術的に困難なので研究がやめになり、最近になってPAN膜でふたたび開発が始まった。有名なAN69ST膜はpolyethyleneimine polycationによりプライミング時にヘパリンをコートできる。さらに、PANとmethallylsulfonateのコポリマーにヘパリンを編みこんだHeprAN膜(Evodial®)がでて、proof-of-conceptのRHODESスタディ(Hemodial Int 2013 17 282)で通常HDにおいて有意にUFH、LMWH用量を減らした。
 つづけて多国籍オープンレーベルHepZeroスタディ(KI 2014 86 1260)がでた。出血リスクの高い透析患者さん約120人ずつで、HeprAN膜使用と通常膜(主にPEAS膜とPS膜)+生食ボーラスを比較したところ、成功率(血栓トラブルなく透析を終える)は生食群より有意に高かったが68%だった。また+15%の閾値をまたいでしまい、非劣性しかいえなかった。出血事象、その他の有害事象(PAN膜なのでアナフィラキシーとか)の差はかかれていない。出血や術前後で透析されたのでほとんどのひとは1回しか無ヘパリン透析を必要とせず、こういう人が病院にいたときに看護師さんに生食ボーラスの手間をかけるか、同じ効果でいつもとちがう高い膜を使うかは微妙なところだ。やはりNafamostatか。