2016/07/13

Lost in translation

 UEFA EURO 2016のファイナルではフランスが延長戦で惜しくも敗れた(写真はイメージ)。サッカー延長戦の勝敗決着方法は2004年からゴールがあっても前後半までやりきるよう変更されたが、それまでは変遷があって、昔はサドンデス(突然死)方式だった。その突然死(院外目撃CPA)に対して高用量エリスロポエチン(Epoetin alpha:そういえば国産バイオ後発品の安価なEpoetin Kappaがあるらしいが、透析業界では長時間作用型が便利でまだあまり使われていないようだ)を行うことで脳の虚血後再灌流障害が改善するのではないかという、フランス多施設EPO-ACR-02トライアルのPhase 3結果がでた(JACC 2016 68 40)。
 どうしてエリスロポエチン?と思ったが、効果に時間のかかる赤血球造血とは別のメカニズムが想定されているらしい。エリスロポエチン受容体は二量体で、ちゃんとしたアイソフォームでは細胞質ドメインにJAK2がついてSTAT5をリン酸化するだけでなく、STAT1、STAT3、CRKLとも結合できる(EPOR-Tなどちぎれたアイソフォームもある)。いろんなところにあって、内皮細胞にもあるので腫瘍の血管新生に関与するといわれ、FDAが担癌患者への使用を注意するblack-box warningをつけている理由のひとつだ。
 とにかく機序はまだわからないのだが、10年以上前に動物の脳虚血モデルで脳細胞のアポトーシスをレスキューしたという報告(PNAS 2001 98 4044)、ヒトの脳梗塞例でペナンブラの縮小と脳ダメージマーカーの低減に相関したという報告などがでた(Mol Med 2002 8 495)。しかし数年前にSTEMIでの虚血後再灌流障害の改善を狙ったREVEALトライアルがでたが、両群で梗塞サイズに差はなく(70才以上ではむしろ大きかった)、介入群で死亡やステント内塞栓が多かった(JAMA 2011 305 1863)。
 さてEPO-ACR-02トライアルは、院外目撃CPA(60才前後、約半数がshockable、約6割にbystander CPRがなされ、ROSCすなわち循環の復活までの平均時間は25分、そして約4割が緊急でCPIを受けた)をクーリングを含む標準治療+EPO 40000単位を12時間ごと5回までうつ群と、うたない群で分け、60日後のCPCスケール1(ほぼ正常、5が脳死状態)の割合を比較した。結果、両群にほとんど何の差もなかった。60日後までに約60%が死亡、CPCスケール1は約30%。つまり生き残ったひとの多くは脳機能がたもたれたということで、EPOにかかわらずそれはよい結果なのだが、悪いのはREVEALトライアルよろしくEPO群でステント内塞栓が多かったことだ。
 個人的には、心肺停止の場合には組織の低酸素が刺激になって十分に内因性のEPOが分泌されるので、そこに大量療法をおこなっても受容体も飽和して効かないし、EPOが多すぎて副作用がつよくでるのではないかと考えてしまう。EPO濃度を測っていたらはっきりしただろうが。オーディオサマリーを聴いてみると、エディトリアルには「もうEPOの話はおしまいではないか(用量やタイミングの問題ではないのではないか)」と書いているそうだ。REVEALトライアルのこともあるし。でも心肺停止の脳保護にはいまのところクーリングしかなく、いろいろ調べてもまだ何もみつからない。基礎実験の結果が実臨床に反映されず残念だが、それが当たり前だから探し続けてほしいと思う。