2016/07/01

DVT prophylaxis for ESRD patients

 日本でも深部静脈血栓症の皮下注予防に非分画ヘパリン(UFH)、低分子量ヘパリン(LMWHのうちEnoxaparinだけだが)、ペンタサッカライド(Fondaparinux)が承認されている。この三種類の違いはこの図(NEJM 1997 337 688)が有名で、改変していろんな論文で使われている。


 しかし血液透析患者さんへの深部静脈血栓症の予防については、米国胸部学会(ACCP)のガイドラインにも腎臓のKDIGO、KDOQIガイドラインにも記載が見つからない。尿毒症による血小板機能低下や透析時のヘパリン使用などで、出血のリスクが高く塞栓のリスクは低いと考えられてきたが(Dialysis and Transplantation 2008 37 439)、ホスピタリスト向けの商業誌(Hosp Pract 2015 43 245)にはエキスパートが「末期腎不全は過凝固状態でありDVT予防は必要(根拠なし)」「UFHが好まれるが少用量LMWHの安全性を調べた研究もある(KI 2013 84 555)」と書いている。
 LMWHは主に腎代謝なのとモニタリングが困難(Factor Xa)なので不意に出血しうるのと、拮抗薬がないのが心配され、FDAはEnoxaparinの透析患者さんへの使用を認可していない。が禁忌ではないしCrCl 30ml/min/1.73m2以下の腎不全には使える;LMWHのもうひとつDalteparinは適応1番目が血液透析回路の凝固阻止(日本、カナダなど、米国はoff-label;米国のほうが厳しいのは珍しい)で、血液透析患者さんにも普通に用いられている。
 前述の研究はドイツ資本の透析大手Freseniusがもつ米国支社の観察データでUFH使用群とLMWH使用群に出血による入院や死亡の差があるか調べたところ、出血に有意差がなかった(なおLMWH 31-60mg/dと30mg/dでも有意差がなかった)。塞栓症の予防については非劣性で、数字上は優れていたが有意差を示すパワーがなかった。著者は「Factor Xaをモニターできたほうがより安全だが高いし一般的ではない」と書いているが、そもそも皮下注のいいところはモニタリングが不要なところなので微妙だ。Editorial(KI 2013 84 433)は「Factor Xa活性は出血と相関しない」と言っている。
 FondaparinuxはCrCl 30ml/min未満の腎機能障害と透析患者さんには禁忌となっている(分子量とVdは小さいがATIIIにほぼ結合している)。Fondaparinuxは直接トロンビン阻害薬Argatroban(肝代謝)、Bivalirudin(肝腎代謝・透析性あり)、ヘパリノイドのDanaparoid(日本ではDICの適応で透析患者に禁忌だが米国は透析用量がある)などとともにHITの治療薬でもあるが、Fondaparinuxを使って血液透析患者に使用して大丈夫だった(Factor Xaを測ったものもそうでないものも)という報告もいくつかある。