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2018/03/18

腎臓内科にとっての糖尿病③ :メトホルミン製剤の使用について考える。

では、①.②で話した話題に関して、今回腎不全患者のメトホルミン投与に関しての論文が出たので紹介する(Diabetes Care 2018)。

まず、2016年4月にメトホルミンとCKDに関して、FDAが勧告をだし、

・メトホルミン投与がeGFR<30mL/min/1.73m2の時は推奨されていない

・eGFRが、30-45 mL/min/1.73m2の時はメトホルミン開始は推奨されていない

・メトホルミン内服者が
 >eGFR<45mL/min/1.73m2になった場合:利益と不利益を天秤にかけて判断。
 >eGFR<30mL/min/1.73m2になった場合:メトホルミン内服は中止する。

という推奨になっている。

メトホルミンは1977年にPhenforminの投与が開始となり、メトホルミンは乳酸アシドーシスを危惧されながらもCKD患者さんに1944年に承認された。

まず、メトホルミンのCKDに対する研究を見ていくと
まずは、2017年度のAnnals of Internal Medicineのsystematic reviewがある。
詳細に関しては割愛はするが、moderateのCKD(eGFR30-60まで)に対するもので、メトホルミンの死亡率低下効果が示されている。この研究では、6つの研究で、うち1つは45未満のeGFRを含んでいる。
メトホルミンのCKDに対するSystematic review
上記のFDAの勧告に対してメトホルミン投与はCKD3-4の人にどうなのか?を研究したのが今回の論文である。
本題のDiabetes careの研究では、3つの研究が行われ、

1:CKDステージ1-5のメトホルミン投与量の研究:CKDステージには関係なく、メトホルミン投与量を下記のように増量していく。


2:CKDstage3A,3B,4に対する4か月のメトホルミン投与治療:下図のようなCKDstageによって決まった投与量を行い、血清メトホルミン濃度・乳酸HbA1c濃度測定

3:CKDstage3A,3B,4へのメトホルミン単回投与(500mgの投与)での薬物動態(0,0.5hr,1hr,2hr,4hr,6hr,8hr,12hr,24hrでフォロー)。

ものが行われた。

1では、下図のようにCKDのステージとメトホルミンの血中濃度には関連性があった。
2では、下図のようにメトホルミン血中濃度はFDA推奨の5mg/L以下に抑えられていた。

また、血中乳酸濃度も下図のようになっており、乳酸値2.5mmol/Lを超えるものもいたが、統計学的な有意差は認められていない。

3では、メトホルミンの血中濃度にCKDstageがかわっても統計学的な有意差は認めなかった。

まとめると、CKDのstageがあがればメトホルミンの血中濃度はあがるが、量をまもればとくに乳酸アシドーシスなどの発生は高くない(CKDstage4であっても)。

推奨として
CKDstage3では1.5g/日のメトホルミン投与を行い、腎機能の推移をしっかりと行い、乳酸値が5mmol/lを超えるようであれば中止し、2.5mmol/l以上であれば注意深く観察する。

CKDstage4に関しては、今後の前向き検討を行い証明していく必要はある。

この研究自体は単施設であるので、今後多施設や人種なども加味した研究をおこなえればいいなと感じる。
ただ、メトホルミンは非常に重要な薬であり、腎不全であってもしっかりと使えるようになればいいと考える。

2018/02/13

腎臓内科にとっての糖尿病② : 薬物療法の介入について

今回は糖尿病の患者さんの薬物療法の介入について触れたいと思う。


糖尿病の薬は本当に日進月歩で色々と薬が開発されている。
そこのところも踏まえて書ければと思う。
今回、ADAのを中心に話すが、おおまかな流れは下図のようになっている。
・HbA1cの値によって
 -9%未満:単剤治療を考慮
 -9%以上:2剤治療を考慮
 -10%以上で血糖値が300を超える場合:3剤の治療を考慮
治療効果判定は大体3-6か月毎で評価を行う。
また、9%以上ではとくにASCVDリスクをしっかりと評価することが重要である!
ADAガイドより
また、ここで治療の第一選択薬にメトホルミンが必ず入っている。


メトホルミンが第一選択になる理由としては心血管死を減らすエビデンスがあることや安価であること、単独では低血糖をきたさず、体重増加を来さない点などが優れていると言える。
また、最近では岡山大学などからも悪性腫瘍の抑制にはたらくのではないか(制御性T細胞の増加と機能を抑制する)ことも報告されている。


各薬剤の効果に関しては下記のようになっている。



ADAガイドより


ここで、SGLT2阻害薬は最近様々なstudyで心や腎への保護効果が言われている。




各薬剤に関してまとめた表をのせる。
糖尿病ガイドより


ここでは、腎機能障害の部分に印をつけた。
メトホルミンと主に使うものに関してつけている。

ADAガイドより
各薬剤に関しては、それぞれの特徴がある。


腎機能低下時に使用できる薬剤は極端に少なくなってくる。とくに第一選択のメトホルミンに関しても同様に使用が困難になる。


メトホルミンが腎機能低下で使用を控えた方がいい理由は乳酸アシドーシスであるが発症頻度はまれなことも有名である。
日本ではメトホルミンの最大投与量が2250mgであり、乳酸アシドーシスの発症例は50例で、10例が死亡している(発症頻度は1.9例/10万人と低い)。


手術直後、肝硬変、腎機能低下、感染症などは使用を控えるべきとなっている。
また、高齢者は乳酸アシドーシスの頻度が高くなるため注意が必要である、


日本のメトホルミン使用の推奨に関しては、下記のようになる。
腎機能を推定糸球体濾過量eGFRで評価し、eGFRが30(mL/分/1.73m2)未満の場合にはメトホルミンは禁忌である。eGFRが30~45の場合にはリスクとベネフィットを勘案して慎重投与とする。




では、乳酸アシドーシスも頻度が低いし、CKD stage5の人はダメだとして、CKDstage3や4の人はどうなの?というものを見た研究を次のブログでお話ししようと思う。




2018/02/12

腎臓内科にとっての糖尿病 ① :まずは基礎

腎臓内科をしていると糖尿病の患者さんの診察も必然的に多くなる。また、腎機能が悪くなった時に薬の相談も受ける頻度が増えるのではないかと思う。
その時にやはり相談を受ける頻度として上位に来るのは下記のようなコンサルトではないか?


A先生「慢性腎不全の患者さんで患者さんの病態とかを考えると第一選択になっているメトホルミン製剤を使用したいのですが、乳酸アシドーシスはどこまで気にしなくてはならないのですか?どこの腎不全から使っちゃだめですか?」


少しこのあたりに関しての知識の整理ができればと思う。


まず、ガイドラインから振り返ってみる。
日本でも毎年糖尿病治療ガイドというものが出されており、非常に安価に情報をUP dateすることができる。


米国ではADAが毎年standard medical care in DMを出しており、今年も1月に改訂されている。


まず、糖尿病治療を行うときに重要なことは
①コントロール目標
②介入(今回は薬物中心)
③合併症管理


である。


①まずはコントロール目標である。
下図はADAのものであるが、目標としてはHbA1c<7.0未満である。
ちなみに7.0がどれくらいの血糖なのかは平均血糖で154程度である。これをみてこれを調べていて、このくらいのHbA1cでこのくらいの血糖なのかと知ることができたのは本当に勉強になった。
ADAガイドラインより
続いて日本では高齢者なども分けて下記のような目標値になっている。
高齢者のポイントはその人のADLや認知機能や合併症などを考慮しての数値目標になっている。
糖尿病ガイドより
糖尿病ガイドより
ただ、腎不全患者では腎性貧血などに伴い著明な貧血になった場合には血糖管理目標に関しては注意をする。その際にはGA(グリコアルブミン)を用いた管理をした方がいいという報告が多い。




次回に②を簡単にお話をして、最後に文献を用いてメトホルミンに関しての有用性などをお話ししたい。



2012/12/16

Fanconi syndrome

 1g/d(Up/Ucr 1)程度の蛋白尿を”tubular-range proteinuria”などと言い、腎からの喪失による低K血症、低P血症、AG正常アシドーシス、低尿酸血症、そして尿糖などFanconi featureが(全てででなくてもいくつか)を併発していたらFanconi syndromeを疑う。

 先天性のFanconi症候群もあるが、成人腎臓内科が臨床上出会うのは後天性のほうが多い。少なくとも知っておくべき後天性Fanconiの原因は骨髄腫などplasma cell dyscrasiaによるlight-chain deposition disease、それに薬剤性だ。

 薬剤性Fanconiのリストは、長い(AJKD 2003 41 292)。有名なのはifosfamide、cisplatin、carboplatin、streptozocinなどの抗悪性腫瘍剤だが、tetracyclines、aminoglycosidesなどの抗生剤、valproic acid、ddI、tenofovir、cidofovir、防已黄耆湯(ぼういおうぎとう)なども。

 なお本症候群は1903年にAbderhalden 、1924年にLignacが症例を報告している。ただスイスの小児科医Guido Fanconiは1936年にこれらの症例をnephrotic-glucosuric dwarfism with hypophosphatemic ricketsと名づけ発表し、病態に少し迫ったため、「名付け親」になっている。


[2020年5月27日追記]上記のようにテノホビルといえばファンコニ症候群・近位尿細管アシドーシス(先週の投稿も参照)が有名であるが、このほどCJSANにテノホビル関連の乳酸アシドーシスの報告が載った(doi:10.2215/CJN.14781219)。

 症例は76歳女性で、HIVに対してインテグラーゼ阻害薬bictegravir、 核酸逆転写酵素阻害薬(NRTI)のemtricitabineとtenofovir alafenamideを服用していた。倦怠感と頻脈に気づかれ受診した病院でアニオンギャップ上昇(22)と肝障害あり入院。循環不全と乏尿に陥り、12時間後は以下のデータとなった。

Cr 2.0mg/dl
HCO3- 9mEq/l(入院時は22mEq/l)
アニオンギャップ 35
pH 7.14
乳酸 14mmol/l
NRTIはミトコンドリア障害によるとみられる無症候性の高乳酸血症をきたすことが以前から知られているらしく(Lancet Infect Dis 2003 329 329)、肝障害・腎障害・循環不全で乳酸産生上昇と代謝・排泄障害をきたしたのだろう。

 このあと本例では、体重から求めた水分量とHCO3-濃度変化から酸の産生量を31mEq/h(72kg×0.4×13÷12)と見積もり、安全にこれだけの酸をバッファーするにはCRRTがよいと結論している。

 薬剤性乳酸アシドーシスであるから、テノホビル除去率についても議論されているが、本例のテノホビルは第1世代のtenofovir disoproxil fumarateよりも半減期がながく蛋白結合率の高い第2世代(tenofovir alafenamide fumarate)で、透析性は低かった。


抗HIV薬のレビュー(CJASN 2019 14 435)より


 透析液・置換液のHCO3-濃度は32mEq/lで血液との濃度差は23mEq/lだから、QD2L/h・QF4L/hのCVVHDFにすれば最初の1時間で23×6=138mEq/lのHCO3-を授けることができる。これが、この論文の本題である彼らの計算だ(なお、日本の保険適応量は15L/d)。

 乳酸の産生速度や除去速度が変わること、HCO3-の分布容積もpHなどで変わることを無視していることは、論文著者も認めている。それでも、CRRT開始10時間後にHCO3-濃度は22mEq/lとなり(QD1.5L/h・QF1.5L/hに減)、48時間以内にCRRTを終了。肝酵素・腎機能も改善し、ぶじ退院された。


 抗HIV薬に触れる機会は少ないかもしれないが、今後抗ウイルス薬の使用は日本の臨床でも増えていくかもしれない(何のウイルスであれ、だ)。そのためにも、こうした腎臓内科としての基本的な考え方は、押さえておきたい。



出典はこちら



2012/07/19

How turtles survive lactic acidosis

先日、カンファレンスで誰かが「亀とアシドーシス」がどうのこうのというのを聴いて調べてみたら、すばらしい亀の知恵についての研究に出会うことができた。さっそく英語でコラムにしたら、もう他の人が発表していた(論文は2000年だし、無理もない)。残念だが、せっかくだからここに書いておく。

  Can you imagine a patient with lactic acid level of 1800mg/dl and pH of 7? Don’t worry, I am not talking about a human being. It’s about a turtle.
  The painted turtle (Chrysemys picta), a freshwater species in North America, spends the whole winter in an ice-covered pond. Lactic acid inevitably accumulates as a byproduct of anaerobic metabolism, even though its metabolic rate is at minimum in a cold temperature (its heart rate can go down to 1 beat per 5-10 minutes!). 
  The lactic acid is an acid with pKa of 4, stronger than the acetic acid. Yet the pH of a turtle still remains at 7. A turtle doesn’t breathe or urinate when hibernating. How could it be possible? This article (News Physiol Sci 2000 15 181) explains the 2 surprising mechanisms of this natural wonder. 
  First, it has a body fluid buffering. Its plasma bicarbonate concentration (normally) is 40mEq/l! It also has large amount of peritoneal fluid and pericardial fluid that are very high in bicarbonate (80mEq/l and 120mEq/l, respectively). 
  Second, it uses its shell as a buffer! It’s not just a protective armor. When the pH goes down, its shell releases carbonate with calcium and magnesium. Protons are buffered with carbonate and CO2 diffuses out into the water. The shell also sequesters lactic acid (both lactate and proton).
  The endogenous buffering system is seen across species. In a case of Homo sapiens, the bone is our biggest buffer. However, it is obviously not large enough to compensate this extremely high lactic acid level! 
  A turtle is a symbol of longevity in many cultures. In Japan it is said to live 10,000 years. Maybe what doesn’t kill you makes you stronger.

2011/02/27

Lactic Acidosis

 私が一般病棟で診ていた腎不全と肝不全がある人が、非特異的な消化器症状を訴えていたら乳酸値が2-3日の間に10mg/dlに達した。非常に不安な気持ちで腹部CT(とCT血管造影)を行ったが腸管壊死や虚血のサインは全くない。そもそもこの患者さんに腸管壊死があったら、残念な言い方だがすでにこの世にいないはずである。それで他の原因を考えなければならない。肝不全、腎不全とも乳酸値を上昇させうるのは無論だが、それだけでは説明できない何かがあるはずだと思っているうちに患者さんはICUに行ってしまったのだ。

 それで、ICUにいって指導医とこの患者さんの話をしたら論文をくれた。Critical Care Clinicsというサイトにある"Lactic Acidosis: Recognition, Kinetics, and Associated Prognosis"という記事だ。読むと、1976年にCohenとWoodsが乳酸アシドーシスをType AとType Bに分類したとある。Type Aは虚血・壊死・低酸素によるもので、Type Bは肝不全・腎不全・薬物や中毒・酵素異常など解糖系・クエン酸回路・酸化的リン酸化のどこかに支障をきたしている状態だ。その中で、私の患者さんに当てはまりそうなものにThiamine deficiencyがあった。

 Lactic acidといえば予後不良因子として有名である。ICU Bookなどを読んでも、「乳酸値(mg/dl)は死亡率(割)」、すなわち4mg/dlなら40%、8mg/dlなら80%という恐るべき線形的なグラフが載っている。しかし、乳酸血症は非常事態を意味するものの、虚血・壊死・低酸素を除けば乳酸そのものが必ずしも死をもたらす産物というわけではない。むしろ必死にATPを作ろうと非常電源が入っているようなものだ。

 じつはこの患者さんは、私が月の初めに診て入院当日にprotein-losing gastroenteropathy(PLGE)を疑った患者さんなのだ。もはやアルブミンは1.0g/dl、肝不全の精査で消化器内科がめくら滅法オーダーした検査でもceluroplasminが低値、そしていま乳酸血症の原因にthiamin欠乏が浮上し、消化管の吸収障害を強く示唆している。大腸内視鏡は非特異的所見を示したのみで、生検は正常。これらはIBDを除外するのに十分で私からしたら疑いなくPLGEなのだが。

 リウマチ内科も同意して、さあステロイド治療しようと思ったら消化器内科が「どうしても違う」と言い張って、それで(一般内科がそれに従い)何もできないまま患者さんが徐々に悪化してICUに行ってしまった。診たことのない疾患を診断するに勇気がいるのは分かる。確かに稀な疾患だ。しかし疫学・症状・所見・検査結果をもとに診断するという基本に従っておのずと導かれた診断を、消化器内科医が「そんなの診たことない」とか「沽券に関わる」というような詰まらない理由で否定することはできないはずだ。それにたとえ診断が誤っていたとしても、患者さんがステロイドを開始して失うものは何もない。

 弱い、弱い、Hospitalistは弱い。専門内科に頭も上がらないし、患者さんを守る気概にも欠ける。アテンディングが平気な顔をして"She's a mess"とか言う。悲しくて腹が立って仕方がなかった。私はHospitalistが大嫌いだ。アルブミンシンチグラフィができれば診断を証明できてよかったのに、うちの病院では出来ない。彼女が入院した翌日に核医学の先生に相談したら「うちにはアルブミンのtracerなんかないし、作れる核医学専門の薬剤師もいない」と言われた。でもICUの指導医は私と同じ考えで、しかもちゃんとCritical Careの専門だがら外野を黙らせて正しい治療をしてくれそうで嬉しかった。まだ間に合えばいいけど…。