2012/12/16

Fanconi syndrome

 1g/d(Up/Ucr 1)程度の蛋白尿を”tubular-range proteinuria”などと言い、腎からの喪失による低K血症、低P血症、AG正常アシドーシス、低尿酸血症、そして尿糖などFanconi featureが(全てででなくてもいくつか)を併発していたらFanconi syndromeを疑う。

 先天性のFanconi症候群もあるが、成人腎臓内科が臨床上出会うのは後天性のほうが多い。少なくとも知っておくべき後天性Fanconiの原因は骨髄腫などplasma cell dyscrasiaによるlight-chain deposition disease、それに薬剤性だ。

 薬剤性Fanconiのリストは、長い(AJKD 2003 41 292)。有名なのはifosfamide、cisplatin、carboplatin、streptozocinなどの抗悪性腫瘍剤だが、tetracyclines、aminoglycosidesなどの抗生剤、valproic acid、ddI、tenofovir、cidofovir、防已黄耆湯(ぼういおうぎとう)なども。

 なお本症候群は1903年にAbderhalden 、1924年にLignacが症例を報告している。ただスイスの小児科医Guido Fanconiは1936年にこれらの症例をnephrotic-glucosuric dwarfism with hypophosphatemic ricketsと名づけ発表し、病態に少し迫ったため、「名付け親」になっている。


[2020年5月27日追記]上記のようにテノホビルといえばファンコニ症候群・近位尿細管アシドーシス(先週の投稿も参照)が有名であるが、このほどCJSANにテノホビル関連の乳酸アシドーシスの報告が載った(doi:10.2215/CJN.14781219)。

 症例は76歳女性で、HIVに対してインテグラーゼ阻害薬bictegravir、 核酸逆転写酵素阻害薬(NRTI)のemtricitabineとtenofovir alafenamideを服用していた。倦怠感と頻脈に気づかれ受診した病院でアニオンギャップ上昇(22)と肝障害あり入院。循環不全と乏尿に陥り、12時間後は以下のデータとなった。

Cr 2.0mg/dl
HCO3- 9mEq/l(入院時は22mEq/l)
アニオンギャップ 35
pH 7.14
乳酸 14mmol/l
NRTIはミトコンドリア障害によるとみられる無症候性の高乳酸血症をきたすことが以前から知られているらしく(Lancet Infect Dis 2003 329 329)、肝障害・腎障害・循環不全で乳酸産生上昇と代謝・排泄障害をきたしたのだろう。

 このあと本例では、体重から求めた水分量とHCO3-濃度変化から酸の産生量を31mEq/h(72kg×0.4×13÷12)と見積もり、安全にこれだけの酸をバッファーするにはCRRTがよいと結論している。

 薬剤性乳酸アシドーシスであるから、テノホビル除去率についても議論されているが、本例のテノホビルは第1世代のtenofovir disoproxil fumarateよりも半減期がながく蛋白結合率の高い第2世代(tenofovir alafenamide fumarate)で、透析性は低かった。


抗HIV薬のレビュー(CJASN 2019 14 435)より


 透析液・置換液のHCO3-濃度は32mEq/lで血液との濃度差は23mEq/lだから、QD2L/h・QF4L/hのCVVHDFにすれば最初の1時間で23×6=138mEq/lのHCO3-を授けることができる。これが、この論文の本題である彼らの計算だ(なお、日本の保険適応量は15L/d)。

 乳酸の産生速度や除去速度が変わること、HCO3-の分布容積もpHなどで変わることを無視していることは、論文著者も認めている。それでも、CRRT開始10時間後にHCO3-濃度は22mEq/lとなり(QD1.5L/h・QF1.5L/hに減)、48時間以内にCRRTを終了。肝酵素・腎機能も改善し、ぶじ退院された。


 抗HIV薬に触れる機会は少ないかもしれないが、今後抗ウイルス薬の使用は日本の臨床でも増えていくかもしれない(何のウイルスであれ、だ)。そのためにも、こうした腎臓内科としての基本的な考え方は、押さえておきたい。



出典はこちら