うちの腎臓内科は毎月麻酔科インターンがローテートして、SICUのAKIなどを中心に様々な病態を学んでいく。そんな彼らがRenal Grand Roundで発表するのはたいてい麻酔科と腎臓内科のボーダー領域で、いままで何人もがPRIS(propofol infusion syndrome)の話をしてきたが、こないだのが一番よくまとまっていた。とはいえ私はたいてい発表者に参考文献(J Intensive Care Med 2011 26 59)を聞いて裏を取る。
Propofol、あるいは2,6-diisopropylphenolは、ベンゼン環が胴体、OH基が頭、二つのイソプロ基が腕のように見える。PropofolはGABA受容体を刺激したりNMDA受容体を阻害したりして鎮静する。PRISは、飢餓やcritically illな患者さんにおいて主要なエネルギー源となる脂質代謝による細胞内エネルギー産生をPropofolが阻害して起こると考えられている。
現在考えられている二つの主要な機序の一つは、TCAに入るAcetyl-CoAを減らすこと。遊離脂肪酸はAcyl-CoAになりミトコンドリア外膜を通過し、Acyl-CoAがAcylcarnitineになりCarnitine-Acylcarnitine Translocaseによってミトコンドリア内膜を通過し、Acylcarnitineが再びAcyl-CoAになって、β酸化を経てAcetyl-CoAになってTCAに入る。PropofolはAcyl-CoAをAcylcarnitineに変換するCarnitine Palmitoyl Transferase Iを阻害する。
もう一つの機序は、ミトコンドリア内膜で起こる酸化的リン酸化(respiratory chain)の阻害だ。酸化的リン酸化は爆発的なATP産生で生命維持を可能にするプロセスで、ここを阻害する薬は青酸とか劇薬が多い。PRISにおいてPropofolはなんと4つあるComplexのうちIIとIVを阻害する(青酸はCytochrome Cを阻害)。
PRISは稀だが起こると重篤になりえる(症状は低血圧、徐脈、致死的不整脈、横紋筋融解、急性腎障害、代謝性AGアシドーシスなど多岐に及ぶ)から、ICUでAGが上昇し始めたら、数ある代謝性アシドーシスの原因のなかでもPRISを疑う必要がある。リスク因子は若年、高用量(4-5mg/kg/hr以上)、持続静注(48時間以上)、カテコラミン使用、ステロイド使用など。