2008/09/29

生物系

 クマが冬眠中に水分も取らずほとんど尿もせずに体液のバランスを保てるのはなぜか。冬眠中の代謝で生じる老廃物(おもに窒素)や尿はどうなるのか。腎臓内科の先生が講義をしていた。この先生は、以前にペンギンがなぜ足元まで体温をたもてるのか、という話もしていた。動脈と静脈を併走させて温かい血液と冷やされた血液が対向して流れることで、熱が循環し末梢も冷たくなりにくいそうだ。

 冬眠中は脂肪をエネルギー源にして、たんぱく質が分解されて老廃物がでるのを防いでいるそうだ。また、エネルギーを消費して生じる水を水分として再利用するので、尿をほとんど作らないで済む(少し作られても膀胱でほとんど吸収される)らしい。また、アミノ酸が分解されて老廃物にならないような、リサイクル回路があるという。こういう話は面白く、食後のレクチャーでも眠くなりにくい。


[2019年10月4日追記]あれから11年、筆者共著の『腎臓診療の考具箱』にも、これを考具の一つとして紹介させていただいているので、よろしければ。

 なお上述のアミノ酸(窒素化合物)のリサイクルについては、クマが冬眠前に食べるベリー類に多く含まれる、quercetin(クエルセチン)が大切だと考えられている。尿素代謝に大切なSIRT5(サーチュイン5)やCSP1といった酵素を活性化するそうだ。

 さらに、補足すると・・。

 近頃は、こうしたクエルセチンやサーチュイン5についての腎臓領域での研究が、よく見られる!

 クエルセチンは、チロシンキナーゼ阻害薬dasatinib(ダサチニブ)と組み合わせることで老化細胞や老化物質を抑えることが期待され(senolyticsと呼ばれる)、糖尿病性腎臓病患者の皮下組織や血中から老化物質が選択的に減ったという第1相試験結果が報告されている(EBioMedicine 2019 47 446)。

 またサーチュイン5は、近位尿細管で脂肪酸がβ酸化される細胞内器官を、ペルオキシソームからミトコンドリアにスイッチすることが示唆されており、サーチュイン5遺伝子ノックアウトマウスはミトコンドリアの負担が減ってAKIになりにくい(doi:10.1681/ASN.2019020163)。


 これだけ真に受けると、「ベリー(写真は、クマもヒトも食べるランゴンベリー)を食べると老化しないけどAKIになりやすい?」となってしまうように、いまだ未解明の部分は多い。しかし今後も、この領域から目が離せない。