2011/10/14

Bead journey

 小児腎のローテーションも終わろうとしている。最初は、回診のときに指導医もフェローもnurse practitionerも皆、子供の前で小劇団のようにおどけたり冗談を言ったりするのに戸惑った。しかし、今はそれが分かる。大学病院の小児病棟ともなると、難治の血液腫瘍や先天疾患など、あまりに重いのだ。入院期間も信じられないくらい長い。みんな修行しているようなものだ。学校にも行けず、友だちも来ず、ビデオゲームをしながらヒマをもてあそぶ姿に、めげないなと心から感心した。
 一つ面白かったのは、治療の記録をビーズでつなげていくものだ。日本にもあるのだろうか。私の記憶ではステッカーをあげていた様な気がする。これは、一日一日過ぎる度にビーズ(8mmくらいの大きさ)を紐に通していくものだ。採血に耐えた日はピンク色のビーズ、化学療法に耐えた日は大きなビーズ、幹細胞移植に耐えた日は特別なビーズ、などバリエーションがある。それでどの子も2-3メートルはあろうかというカラフルで長い長いビーズ紐がベッド脇に置いてあり、見た目はちょっと千羽鶴のようだ。

補体の色々

 こないだのatypical HUSから色々派生した。あのとき学んだC3 convertase、それを制御するCFHやCFIの異常はdense deposit diseaseにも見られる。Dense deposit diseaseとは別名membrano-proliferative gromerulonephritis type IIとも呼ばれるまれな腎臓病の一つで、その名の通り電子顕微鏡では墨で黒々と塗ったような帯状の太いelectron-dense depositが基底膜に見られる。
 また補体の話から「そういえばどうして移植腎の抗体拒絶反応(antibody-mediated rejection)ではC4d染色が陽性になるのだろう」という問いが起こり、Handbook of Kidney Transplantation(5版、2010年)を調べると補体のclassic pathwayのことが勉強になった。すなわち抗体が細胞表面に付くとC1qrsが寄ってきて、それがC4とC2を割ってC4b2aができる。
 C4b2aが取りも直さず古典経路のC3 convertaseであり、ここから前に述べたような細胞破壊と炎症惹起が始まる。ところで仕事を終えたC4b2aは様々な仕組みで不活性化され、C4dになる。Factor IとMCP(membrane co-factor protein)はその一つ。C4bもC4dも、細胞表面に共有結合でくっ付いているのでチョットやソットでは取れない。だから抗体による一通りの拒絶反応が起こった後でもC4dは足跡のように残る。

2011/10/12

testable hypothesis

 "Long Interdialytic Interval and Mortality among Patients Receiving Hemodialysis"(NEJM 2011, 365, 1099-107)を読んだ。透析セッションの間隔が開く月曜日(月水金の場合)や火曜日(火木土の場合)に死亡率や入院になる頻度が高いという結論だ。それ自体は「まあそうだろうね」と思う。

 この論文は私がスタッフの先生とscholarly activitiesについて話していたときに取り上げられたので、その観点から学ぶことがあった。第一には、これがUSRDSという米国腎疾患患者の巨大なデータベースを分析したものであること。そういう研究もあるのかと改めて思った。

 この種類の研究はepidemiology、あるいはdata-miningとも呼ばれる。retrospective in natureだが、膨大なデータから問いに対する答えを抽出するのでおおきなpowerが得られる。人々をenrollする必要もないし、fundもそんなに要らないし、公衆衛生や疫学・統計学の人達が助けてくれる。

 第二には、研究はいかに問いを立てていかにその答えを見つけられるかを考える、頭の使いようだということ。たとえばこの論文の問いは、「米国だけ透析患者の生存率が極端に低いのはなぜか」という問いを、「米国の透析患者はいつどのように死亡するのか=それを見つければ死亡率の改善につながるのではないか」と応用できる形に言い換え、「Long Interdialytic intervalが悪いんじゃないか」という仮説を立てた。

 この仮説を検証するにも、いろんなやり方があるだろう。例えば、日曜も関係なくevery other dayで透析した群と週三日の群で死亡率を検証する前向きスタディだって考えられないことはない。でも実現困難そうだし、それならUSRDSのデータベースを解析したほうが手っ取り早い。出生と死亡はpublic record(入院や診断、治療はprivateだが)なので、患者さんの許可なしに手に入れることもできる。

 研究で大事なことは、だから、「検証できる仮説をたてること」「データを集めることのできる質問をすること」と言えそうだ。そうでないと禅問答になってしまう。何にせよこの話のあとで、フェローシップのあいだにまずはデータを解析する力を身につけたいと思うようになった。だから私はおそらくその手のプロジェクトに参画しているだろう。

2011/10/11

Atypical HUS

 HUSといえばO-157などの出血性病原性大腸菌の毒素によるものだと思っていたが、10%位の例はatypical HUSと呼ばれ、補体の制御異常によることがわかった。この疾患はヨーロッパで盛んに研究・治療されているが、うちの病院に米国でこれを初めて報告しかつ治療経験も豊富な先生がいるので症例に接しかつ学ぶことができた。NEJMのレビュー(NEJM 2009 361 1676)を復習してみよう。

 Atypical HUSはShiga-like toxinともStreptococcus pneumoniaeとも関係ない。典型的なHUSにくらべ予後が悪い。補体の、なかでもalternative pathwayに異常があってC3のみが低下しC4は正常だ。というのもclassic pathwayとlecithin pathwayではC2、C4 fragmentによってC3 conversatesが作られるのに対し、alternative pathwayではC4が消費されないからだ。

 Alternative pathwayではC3がC3a、C3bに加水分解するところから始まる。C3aは好中球を呼び寄せ、C3bはC5をC5a、C5bに分解する。C5aはやはり好中球を呼び寄せ、C5bはC6-C9を引き連れてMAC(membrane-activating complex)を形成し、opsonizationを起こす。

 これを制御する様々な仕組みがあって、ひとつはCFH(complement factor H)で、C末端で細胞膜にくっつきN末端でfactor Bと競合してC3 convertaseが出来ないようにする。またCFI(complement factor I)はC3bを不活性化する。ThrombomodulinはCFHやCFIの働きを助けるほか、TAFIa(thrombin-activatable fibrinolysis inhibitor)によりC3aとC5aを不活性化する。

 いまのところatypical HUSの原因として知られているのは、CFH遺伝子の異常、CFI遺伝子の異常、C3遺伝子の異常(C3bが不活性化されにくくなる)、他にもTHBD、MCP、CFHR1/3など補体制御遺伝子の異常やCFHに対する自己抗体などがある。これらの異常があると、感染(URIなど)を契機に補体の活性化が止まらなくなる。それで血管内皮細胞の障害から血栓が起こる。

 治療は血漿交換で、患者の多くは血漿交換-dependentになる。腎不全に陥る例が多く、移植しても遺伝子異常のタイプによっては90%で再発することがある。ヨーロッパで様々な治療が検討されているが、anti-C5 monoclonal antibodyのeculizumabは患者さんを血漿交換-independentにしたり(Pediatr Nephrol 2011 26 621)、移植後の再発を防止することができる(Pediatr Nephrol 2011 26 613)と注目されている。

2011/10/08

NGAL

 今日は小児腎領域でAKI研究の中心人物から話を聞くことができた。この人は"renal angina"という考えを提唱している(CJASN 2010 5 943-949)。AKIの研究で分かっているのは、Scrが0.3mg/dl上昇しただけでも死亡率が4-5倍に跳ね上がるということだ。つまりScrの上昇はAKIのlate markerで、そのもっと前からAKIは起こっているのである。

 心筋梗塞では、CKが上昇するより早期に上昇するマーカーTroponin Tなどが用いられ、さらに狭心症またはangina equivalentといった症状、リスクファスターを総合してできるだけ早期に診断しようとする。AKIも、そのようなバイオマーカーはないものか。AKIを発症するリスク因子はないか。

 マーカーは、NGAL(Neutrophil gelatinase-associated lipocalin)、IL-18、KIM-1、L-FABPなどが実験で用いられ始めている。NGALはとくに早期のマーカーで、たとえば心肺バイパス術後2時間で上昇する。心肺バイパスはinsultの起きる時間がはっきりしているので研究対象にしやすいのだ(Lancet 2005, 365, 1231-38)。またKIM-1は尿細管細胞の膜貫通タンパク質なので、腎臓に構造的なダメージが起き始めてから上昇する。

 この先生はとくにNGALに注目しており、先生の病院では尿NGALレベル(point of care)が試験的に臨床応用されている。NGALが陽性だがScrが上昇していない例は、Scrが上昇している例と同様に予後が悪いことわかった。これを先生はsubclinical AKIと呼んでいる(JACC 2011, 57, 1752-61)。

 リスク因子はどうか。心臓とちがってAKIになっても腎臓は痛まないので、「この症状がある患者さんはAKIの可能性が高い」という症状はない。だが、ICUの患者層を分析すると、人工呼吸器管理、昇圧剤の使用、fluid overload(15%)、造血幹細胞移植後、などはindependentなリスク因子と判った。これらを総合してリスクを層化し、マーカーを使ってAKIをrule inまたはrule outする研究が行われている。

 Scrが0.3mg/dl上昇しただけで死亡率が跳ね上がるということで、腎臓がいかに重要な臓器か分かる。また腎臓がものすごい予備能をもっており、最後の最後までScrは上昇しないことも分かる。また、他の臓器は働きがおちたら負荷をかけないようにするのに、腎臓は働きが落ちても輔液に利尿剤にと鞭打たれるのが可哀そうだ。でもそれでも黙って頑張るのが腎臓だ。

2011/10/06

Page kidney

 Page kidneyというのを習った。これはいわば腎タンポナーデで、subcapsular hematomaなどによりGerota筋膜内の圧が上がり腎血流が途絶することだ。イギリスのIrwin Pageという人が1939年、動物の腎臓にセロファンテープをぐるぐる巻きにして、その結果腎血流が低下しrenin、angiotensinの産生が増えて高血圧を起こることを示したのが最初だ。最初の症例は1951年に発表された。
 現在では、腎生検や様々な侵襲的手技、外傷などによるsubccapsular hematomaでこれが問題になる。早急に認識し経皮的なドレナージを行えば腎機能を回復することができる。とくに片腎の患者さんではこれがいっそうcriticalだ(Nephrol Dial Transplant 2006 21, 1740)。腎内圧が高ければ、少しの低血圧でも腎灌流圧がさらに低くなる。これはintra-adominal hypertensionにおけるabdominal perfusion pressure(MAP - intraabdominal pressure)と同様だ。

アミロイド

 今週はBiopsy conferenceで、アミロイドーシスの症例がでた。といっても、一般的なAL amyloidosis(light chain由来だが異常タンパクでbeta-pleated sheetを形成する)でも、AA amyloidosis(serum precursor protein SAA、二次性アミロイドーシスと呼ばれていた)でもない、fibrinogen amyloidosisだ。略してAfibともいう。

 fibrinogen amyloidosisは、fibrinogen A-alpha chainの蓄積で起こる病気だ。病理的にはCongo red陽性、lambda light chain陰性、fibrinogen陽性で診断する。蓄積するのは腎臓だけではなく、全身の沈着により動脈硬化、末梢神経障害、自律神経障害、胃腸蠕動障害なども起こる(Blood 2010, 115, 2998-3007)。さらにこの著者Dr. Arie Stangouは肝臓移植によって異常アミロイドの産生そのものを止めて病気を治癒できるかもしれないという。

 さらに話は他のアミロイドに及んだ。そのひとつは、2008年に発見されたLECT2(leukocyte chemotactic factor 2)だ。この分子が腎臓で何をしているのかは分かっていない(好中球の遊走ではないようだ)。組織学的には、congophilia(Congo redが強陽性)と広範で非特異的な沈着(糸球体のみならず、血管や間質にも)が特徴らしい(KI 2010, 77, 816-819)。