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2020/06/02

1/2の魔法(速報 MAINRTSAN3スタディ)

 ANCA関連腎炎の治療一覧でよく目にする、下図。内科学会誌5月号の腎炎特集(日内会誌 2020 109 886)にも、『専門医を目指すケース・メソッド・アプローチ 腎臓疾患(3版、2017年)』にも出てくるので、これが日本の標準的なケアなのだろう。


最下段は、追加治療や第二選択


 今回は、それを尊重しながら、以下の2点を考察したい。


1. 点滴シクロホスファミドの量


 「0.75g/m2」と聴くと、ループス腎炎のNIHレジメンを思い出す読者も多いだろう(Ann Intern Med 1996 125 549、こちらも参照)。もちろんANCAでこのレジメンを試したスタディはある(Arthritis Rheum 1998 41 1835)し、2012年のKDIGOガイドラインも以下のようになっている。


  • 0.75g/m2、3-4週ごと
  • 初回は0.5g/m2に減量(60歳以上、GFR 20ml/min/1.73m2未満も)
  • 投与2週後の白血球数が3000/mm3以上になるよう用量調節


 しかし、RAVEスタディ、RITUXVASスタディなどの代表的なスタディはいずれも、CYCLOPSスタディで用いられたレジメン(Ann Intern Med 2009 150 670、経口CYとの毒性・効果比較が目的)を使っている:


  • 15 mg/kg、2週あけて3回
  • そのあと3週あけて寛解後3ヶ月まで
  • 年齢・腎機能で減量(下図)


出典はこちら


 NIHレジメンは回数が少なくて済むが、体表面積の算出が手間だ。また日本のはKDIGOの「0.5g/m2に減」を半分にした、「0.25-0.75g/m2」と減量幅が大きい。

 医師の裁量と経験が反映しやすくなっているともいえるが、その根拠は不詳だ。日本人患者に欧米量のクスリを投与すると効きすぎることは確かに多く(フロセミドなど)、経験的な「1/2の魔法」なのかもしれない。


公開が待たれるディズニー映画、『1/2の魔法』
(出典はこちら

 
2. リツキシマブによる維持療法


 ANCA関連血管炎に対するリツキシマブの維持療法を延長したMAINRITSAN3スタディの結果が、きょう米国内科学会誌に発表された(doi:10.7326/M19-3827)。フランスの39施設が参加したものだ。

 対象は、ANCAの種類(PR3-ANCA:MPO-ANCAは約7:3)、初期治療の種類(シクロフォスファミドが6割、リツキシマブ4割、1例がメソトレキセート)を問わず、リツキシマブ維持療法(6ヶ月ごと0.5gを4回)を受けた97例。約半数がPSL 5mg/dを処方されていた。

 彼らをランダム化し、介入群は同様のリスキシマブ維持療法(4回、18ヶ月)を延長した。なお、介入群もプラセボ群もmPSL100mg・アセトアミノフェン1000mg・クロルフェニラミン5mgの前投薬をうけた。すると、延長28ヶ月後の無再発率は以下のようであった。




 有害事象の総報告数に有意差はなかったが、敗血症性ショックの発症は介入群にのみ2件あった(肺炎の発症は介入群で1件と、プラセボ群の4件より少なかった)。延長を正当化できるか、リスクと利益は考えなければならない。

 またスタディ患者は若く(平均63歳)、寛解後で腎機能も良好(eGFRは約60ml/min/1.73m2)、RTXの忍容性も高かった。やはり、日本でよく診る症例には、なんとなく「ステロイド±アザチオプリン(ミゾリビン)」が安全なようにも思える。

 しかし、同じ時代に「それで本当にいいんですか?」という文脈で行動し発表している人たちがいるのもまた確かである。その流れのなかにアバコパンがあり(こちらも参照)、リツキシマブがある(アザチオプリンと比較したスタディは、NEJM 2014 371 1771)。

 米国内科学会誌は「標準的なケアがまた変わる(again, changing the standard of care)」と題するエディトリアルを載せているが、こうした流れが日本の標準的なケアに(どんな魔法をかけて)波及するか、注目したい。

 


2019/07/30

膜性腎症診療の未来

 MENTORトライアルの興奮に沸く腎臓内科界だが、世界的にはその先を行っている。すなわち、原発性膜性腎症の「誰に」、「どれだけ」リツキシマブ(RTX)を投与するか、が検討されているのだ。まず「誰に」であるが、その道しるべとなるのが抗PLA2R抗体の抗体価だ(発見の経緯などはこちらも参照)。

 抗PLA2R抗体陽性の原発性膜性腎症といっても、その自己抗体が認識するPLA2Rの部位(エピトープ)は一つではない。まずB細胞はPLA2R蛋白のN末端にあるシステイン豊富領域(CysR)を認識するが、そのあと抗原分子を咀嚼し、CTLD1、CTLD7などの他部位も抗原として認識できるようになる(下図はJASN 2017 28 2579)。





 この現象は「エピトープ・スプレッディング(epitope spreading)」と呼ばれ、SLEや尋常性天疱瘡など多くの自己免疫疾患でも知られているが、こうした疾患では、スプレッディングの有無によって治療が変わることはない。しかし、原発性膜性腎症においては、変わるかもしれない。

 というのも、スプレッディングのない群(ノン・スプレッダー)は、ある群(スプレッダー)にくらべて予後がよく(JASN 2016 27 1517)、低用量RTX(375mg/m2を1週おき2回)を試して寛解率の低かったGEMRITUXスタディ(JASN 2017 28 348)においても、ノン・スプレッダーに限れば全員が寛解していたのだ(DOI: 10.2215/CJN.11791018)。

 つまり「ノン・スプレッダーには低用量RTX、スプレッダーには高用量RTX(375mg/m2を1週おき4回、あるいはMENTORのように1gを2週おき2回)」というような使い分けがあり得るということだ。そしてその見極めには抗体価が代用されるようになるだろう(前掲論文では抗体価>321RU/ml以上で95%がスプレッダーだった)。

 近い将来に日本で(抗PLA2R抗体の保険収載と)RTXの適応拡大が実現した際には、どのようなRTX用量が通るかも注目したい。用量に幅があると、現場では喜ばれるだろうが、副作用を怖れてのunder-treatmentは増える。かといって体格を考慮しない1gでは、375mg/m2に比べover-treatmentになりやすい。日本の試験ではないので、これらは市場にでてから検証していく必要がある。







2019/07/18

速報 MENTORトライアル

 14日間も遅れて恐縮だが、7月4日付のニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシンにMENTORトライアルがでた(NEJM 2019 381 36)。原発性膜性腎症に対するリツキシマブとシクロスポリンの比較試験で、よい中間報告を受けて世界的に結果が注目されていた(こちらも参照)のだが、やはりよい結果だった!


(NEJMのツイートより)


上図にもあるように、参加したのは北米の原発性膜性腎症(生検で確定診断、約70%が抗PLA2R抗体陽性、RTX群の1例で抗THSD7A抗体陽性)で、3ヶ月のACEI/ARBによっても5グラム/日以上(平均約8グラム/日)の蛋白尿が持続する患者。平均年齢は約50歳、男性が約7割だった。

 介入はRTXが1000mg点滴を14日空けて2回。6ヵ月後に蛋白尿が25%以上減少したが完全寛解(下記参照)していなかった場合には、もう1クールだけ追加できた。シクロスポリンはトラフ125-175ng/mlを目指し、Cr 30%以上の上昇がみられた場合はプロトコルに従い減量した(それでもCr値が戻らなければ中止となった)。

 なお、RTXがmPSL100mgの前投薬を受けたものの、両群ともステロイドはレジメンに含まれなかった。

 結果は、完全寛解(蛋白尿0.3グラム/日以下+アルブミン3.5g/dl以上)と部分寛解(蛋白尿が50%以上減少して0.3-3.5グラム/日になった)が24ヶ月経過時にRTX群で60%と、シクロスポリン群の20%よりも有意差に多かった(非劣性を前提に組んだスタディであったが、より優れている結果になった)。

 副作用報告の割合は両群とも70-80%であったが、Grade 3以上ではRTX群で17%と、35%のシクロスポリン群より有意に少なかった。RTX群の主な副作用は点滴時のアレルギー反応と皮膚のかゆみなどで、シクロスポリンの主な副作用は消化器症状と腎機能低下であった。

 なお、RTXの販売会社が薬を無償供与していること、オープン・レーベルなこと(剤形が違うので無理もない)はさておき、RTX1回量は多く(ANCA関連腎炎などは375mg/体表面積m2)、血球減少や劇症肝炎などには注意が必要だ。またコントロール群であるシクロスポリンの中止基準は厳しめかもしれない。また、治験患者は比較的若く、80歳以上は除外されていた。

 それでも、「2回注射したらネフローゼが治る」なんて、夢みたいだ。わが国のリツキシマブ添付文書には「成人期に発症したネフローゼ症候群の患者に対する有効性及び安全性は確立していない」とあるが、書き換えられる日もそう遠くないと期待される。





[2019年7月24日追記]昨日、FDAがリツキシマブのバイオシミラー、rituximab-pvvr(RUXIENCE®)を承認した。同国のバイオシミラーとしては、2018年11月に認可されたrituximab-abbs(TRUXIMA®)以来2件目になる。ただし、1件目は腫瘍領域のみの適応申請であったのが、2件目はANCA関連血管炎の適応も通った。

 じつは、欧州のFDAにあたるEMAは、すでに6件のリツキシマブ・バイオシミラーを認可している。いっぽう米国はバイオシミラーの認可に保守的で、市場にでているバイオシミラーは数えるほどしかない。オリジナル企業の利権を守っているとも、創薬インセンティブを削がぬよう配慮しているとも言われる。下図によれば、日本のほうが多いほどだ。


(出典はこちら


 そんなわけで、日本にもバイオシミラーは1件認可されており(リツキシマブBS®)、薬価は500mgで約12万円(オリジナルは約15万円)。前述のrituximab-abbsが治験中で、これが通れば2件目になるかもしれない(今回FDAを通ったrituximab-pvvrのほうは、試みられたようだが予定は立っていない)。

 ただし、少なくとも1件目は腫瘍領域のみの適応である。バイオシミラーが独自の適応を取得するとは考えにくいが、すくなくともオリジナルが持っている適応までは拡大しうる。また、オリジナルの治験がすすみ膜性腎症などにまで拡大すれば、バイオシミラーまで波及するかもしれない。今後の展開に注目したい。




2017/12/28

腎臓内科 with B 2

 腎炎などに対して免疫抑制をかける時には、HBV再活性化が問題になる。歴史的にはリツキシマブでとくに問題になったようで、劇症B型肝炎にいたった症例もある。治療と副作用のリスクを勘案するのはどの病気でもおなじだが、この場合どうすればよいのか?

 これについて調べるのはそんなに難しくなくて、「リツキシマブ B型肝炎」とでも検索すればいくらでも資料がみつかると思う。ここでは、日本のガイドラインに載っているアルゴリズムを添付しておく。


 
 ほかにも、HBV感染腎移植レシピエントのマネジメント(肝生検の意義、肝腎移植の選択肢、抗ウイルス薬の選択など)や、透析患者へのHBVワクチンで留意すべきこと(反応がよくない、用量をふやす)なども考慮が必要だ。ちゃんとbrush upしておかなければならない。