2012/04/15

LN

 Lupus nephritis(LN)の講義があった。この先生も教育熱心で、2012年バージョンのスライドは旧バージョンからエビデンスをupdateしてあった。いままで部分的にかじった知識しかなかったものを、診断と治療について、まとまって学ぶことができた。まずは診断で、2003年にできたISN/RPS classificationについて学ぶことができた。これはmodified WHO classification(1982年)に比べてよりルールが単純で覚えやすい。

 Class Iはminimal mesangial LN、光学顕微鏡は正常だが免疫蛍光染色でmesangial depositが見られるもの。電子顕微鏡で見られても良いが、ISN/RPSは電子顕微鏡がない地域の診療にも適用できるように、また電子顕微鏡所見の読みが病理医によってマチマチなのを防ぐために、電子顕微鏡についてはオプショナルとしている。Class IIはmesangeal proliferative LN、mesangial hypercellularityあるいはmesangial expansionがみられるだけのものだ。scarring、sclerosis、necrosisなどが見られたら、Class III/IVに分類される。

 Class III/IVはfocal/diffuse LN、糸球体の50%未満/50%以上(sclerosedなものを含む)に病変が見られるものだ。IIIもIVも、急性病変のみが見られたら(A)、慢性病変のみが見られたら(C)、どちらも見られたらその割合に関わらず(A/C)とする。Class IVはまた、segmental(S)/global(G)に分けられる。Class Vはmembranous(WHO分類とちがってsubcategoryがない)、VIはadvanced LN(90%以上の糸球体がsclerosedでactivityがないもの)だ。分類の他にも、wireloop病変がLNの典型的な病変とされていること、免疫染色所見は典型的には"full house(何でも陽性になる)"だが文献によってはfull houseは20数%しかないこと、C1q陽性がとくにLNに特異的ということなどを習った。

 Prognostic factorについて、常識的なもの(診断時の腎機能が悪い、など)の他にblack/hispanic、anti-phospholipid syndromeがあると教わった。そしてraceとethnicityによる病気のheterogeneityゆえに、治療方法もraceとethnicityによって代わる(後述)。治療については、1991年の論文以来cyclophosphamide(CYC)が導入治療の基本であった(Arthritis Rheum 1991 34 945)。その後、CYCとMP(methylprednisolone)の併用が単独よりも優れている論文が出て(Ann Intern Med 1996 125 549、長期データはAnn Int Med 2001 135 248)、これはNIH regimenと呼ばれている。CYCは0.75 g/m2 body surface area(白血球減少に応じて0.5-1.0に増減)静注、monthly x6、そのあとquarterly x2yrs、MPは1g/m2 body surface area静注、daily x3、そのあとmonthly x12。

 NIHスタディのあと、2002年にEuro-Lupusというスタディが出て(Arthritis Rheum 2002 46 2121)、NIHレジメンよりlow-doseでも成績は変わらないという結果が出た。すなわちCYCは500mg静注、biweekly x6、MPは750mg daily x3、maintenanceにはprednisoneとazathioprine(欧州は伝統的にazathioprineが好きらしい)。ただこのスタディの対象は100%Caucasianだった。NIHスタディもEuro-Lupusもエビデンスの質は高く、現時点で白人のLN Class IVのinduction therapyとしてはどちらのレジメンも同程度に推奨されている。

 では白人以外ではどうか。MMFがよりinductionとして優れているというエビデンスがいくつもある。最初に出たのは香港/広州のスタディ(NEJM 2000 343 1156)で、100%Chinese populationでMMFが完全寛解81%、CYCが76%(有意差なし)で両者は同等という結果だった。長期の追跡調査(JASN 2005 16 1076)でも、MMF群は再発の割合が低く、白血球減少や感染症のリスクが低いという結果に。他にもいろいろなprospective studies(NEJM 2005 353 2219など)が出たが、最も知られているのはALMSスタディ(JASN 2009 20 1103)だ。

 このスタディのMMF doseは0.5 g twice daily x week、1.0 g twice daily x week、それから1.5 g twice dailyあるいは1.0 g three times to two times dailyだから、目標の3g/dは移植後のdoseにくらべて少し多い。ともかくALMSスタディは、全体としてMMFとCYCで寛解率に差はないものの、非白人、非アジア系の群(論文ではotherと書かれている、すなわち黒人とヒスパニック系のこと)でMMFのほうが断然CYCより優れているという結果を示した(人種・民族・地域差などにより注目した論文はReumatology 2010 49 128)。これを受けて黒人とヒスパニック系にはMMFが推奨されている。  

 維持療法については講義の時間が終わってしまったので聴けなかったが、調べた限りではlow-dose prednisone + (MMF or azathioprine)らしい。MMFとazathioprineを比較したスタディ(NEJM 2011 365 1886、これもALMSグループによるもの)が出て、MMFのほうが再発防止に優れていたらしい。MMFは消化器症状が多く、またcongenital malformationがblack-box warningなため妊娠を希望する患者さんには使いにくい、azathioprineは血球減少が多く、妊娠を希望する患者にも使えるので、患者さんに合わせて選択することになるだろう。なお維持療法のMMF doseは1.0g twice dailyだ。

[2015年5月追加]この講義を受けた時に導入療法にステロイド+MMF+タクロリムスを試した(移植後の免疫抑制と一緒だ;LNは移植後の再発が比較的少ないから理にはかなっていると思うが)スタディも習ったが忘れてしまった(たぶんJASN 2008 19 2001)。他にもいろんな組み合わせが試されているが、最近このレジメンの別のスタディがでた(Ann Inern Med 2015 162 18、ステロイド+cyclophosphamideに比して24週のフォローで有意性が示された)。