2年前に触れた論文(CJASN 2006 1 441)を、また読み返す機会があった。これはacetaminophenによって5-oxoprolineが蓄積してアニオンギャップアシドーシスをきたした症例をまとめたものだ。前の病院でレジデンシーをしていたときに尊敬するMICUのフェローが教えてくれて読んだが、当時は何のことやらよくわからなかった。いまは少し分かる。
アセタミノフェン(タイレノールのこと)は含硫アミノ酸(システインなど)を枯渇させ、cysteine-glycineが細胞内に少なくなり、それによりdipeptidaseによって出来るはずのglycineも少なくなる。Glycineが少なくなるとglutathione synthaseによって出来るはずのglutathioneが少なくなり、それによりγ-glutamyl-cysteine synthaseの活性阻害が起こらなくなる。
γ-glutamyl-cysteine synthaseが阻害されないので、この酵素活性によりγ-glutamyl-cysteineがたくさんできる。増えたγ-glutamyl-cysteineはγ-glutamyl-cyclotransferaseにより分解され、こうしてできる代謝産物が5-oxoprolineというわけだ。私は大学時代に生化学でglutathioneの代謝経路についてあまりよく勉強した記憶がない。酸化還元反応に関わる大事な経路なのに。
臨床的に知っておくべきことは、報告例がほぼすべて女性ということだ。酵素活性に性差があるのかもしれない。またmalnutrition、肝障害(いずれもglutathioneが減る状態)を合併していることが多い。腎機能が悪化した人も、尿中から5-oxoprolineを排泄できないのでリスクが高い。治療法については、アセタミノフェンの服用を中止する他にはあまり書かれていない。
なお今まで書いてきたのは後天性の5-oxoproline蓄積症だが、先天的な酵素欠損(glutathione synthase、それに5-oxoprolinase)によってなる場合もある。ただしこれらはautosomal recessiveで、homozygoteな人達がかかり、heterozygoteな人達は無症状だ。スタッフは「後天性と思われている人達はheterozygoteで、それにアセタミノフェンによる更なるglutathioneの枯渇が加わって発症するのだ」と言っていたが、そうだろうか。