2012/04/28

mineralocorticoid receptorのS810L変異

腎臓内科のような専門科に入ると、「学ぶ」だけでなく「知っているかどうか」という知識を見につけることもとても大事だ。たとえば「妊娠中の女性がrenal K wastingによる低カリウム血症になったら考えることは?」と問われれば反射的に「mineralocorticoid receptorの変異によりprogesteroneがaldosteroneに代わりrenal K wastingを起こすから」と答える。治療はK補充とamiloride(妊娠中の女性にはclass B)だ。
 スタッフによれば、腎臓内科医が集まる席でのクイズ大会でこの症例が出たが、誰もが「mineralocorticoid receptorの変異」と即答したらしい。でもただ知っているだけなら誰でもできる。それで専門科医なんだからせめて文献をと調べるとmineralocorticoid receptorのS810L変異の女性が妊娠中に異常な高血圧と低カリウム血症をきたしたというのが一本みつかった(Science 2000 289 119)。
 mineralocorticoid receptorのS810L変異があると、ligand binding siteにあるhelix 5のside chainが異常になるとか(この辺のくだりは学生時代なら興奮しただろうが、今はそうでもない)で、aldosteroneのみならずステロイドなら何でも、さらにはaldosterone antagonistのspironolactoneにまでも結合してしまう(gain-of-mutation)。
 それによりS810L変異がある患者さんは小さな頃から高血圧を発症する。検査値はやや低K、やや高HCO3(ただし変異のない群に比べて有意差はなかったが)でprimary hyperaldosteronismを疑うがaldosteroneレベルは極端に低い。妊娠中は高濃度のprogesteroneがmineralocorticoid receptorを刺激するので、降圧剤にも関わらず血圧は上がり続け、報告された症例では34週までに210/120mmHgになったので緊急帝王切開になった(赤ちゃんもお母さんも無事)。