きょうの内科Grand Roundは集中治療医の情熱と知識、経験が詰った質の高いものだった。
テーマは中心静脈カテーテル(central line)。慣習的に行われている医療行為にEBMのメスが入って痛快だった。たとえば「INRが高ければ出血のリスクが高い」「FFPをあげればINRはさがる」などは迷信で、FFPによるTRALI、TACO(transfusion-associated circulatory overload)による害のほうが大きい。「Trendelenburg位にすれば内頚静脈が血液で充満し拡がる」というのも正しくない。
そして「大腿静脈ラインのほうが内頚静脈ラインよりも感染症が起こりやすい」という通念もEBMで検証された。これについては腎臓内科コンサルトの診療でついこないだスタッフと議論になった点であり、かつ彼の取り上げたスタディが透析カテーテルでもあったので、興味深く聴いた。
この論文はフランスの大学病院と市中総合病院が行ったスタディ(JAMA 2008 299 2413)だ。ICUでacute dialysisを要した症例に関して、内頚静脈にカテーテルを挿入した重症患者群と大腿静脈に挿入した群にrandomizeした。そしてカテーテルが不要になる(腎機能が回復または死亡)、新しいカテーテルが必要になる(感染症や血栓)などで抜去する際にそのtipを培養してcolonizationがあるかを調べた。
深部静脈カテーテルのtip colonizationはライン感染のsurrogate markerとして認知されているようで、感染症雑誌に「~菌のtip colonizationの何%がのちに菌血症になった」という論文が、色々な菌に関して出ている(二匹目のどじょうという感じがするが)。
このスタディの基本的な情報として、どちらの群も超音波を使わずに挿入され、平均して5-6日間留置された。またどちらの群も約80%がantiseptic-impregnated catheterだった(うちの病院はMediComp社のを使っているが、impregnatedなのだろうか)。
結果、colonizationは大腿静脈の群で40/1000 catheter-days、内頚静脈の群で35/1000 catheter-daysと有意な差を認めなかった。ラインの留置期間とcolonization-freeかどうかのKaplan-Meier曲線(Figure 2)では10-15日を過ぎるまで両者に差はなく、それを越えると大腿静脈の群で内頚静脈の群にくらべてcolonization freeでない可能性が増えてくると判った。
さてここからsubgroup analysisをしたら、BMIが高い人達では大腿静脈ラインでより感染症が高いと判った。これは太った人ではソケイ部が肉と肉の間で蒸れて感染したり汚れたりするからだと合点が行く。一方BMIが低い(<24)人達では逆に内頚静脈ラインでより感染症が高いと判ったが、これについては再検が必要だろうと著者は言う。
このスタディは「大腿静脈は緊急時だけ、そして三日で他の場所に新しいラインを取れ」という教えを変えるか?「三日といわず一週間くらいはいいんじゃないかな」とは思える、実際そういうポリシーの病院もあるらしい(Pittsburghにいた頃は三日と戒めていたが、Iowaはそうでもない)。
私が大腿静脈カテーテルを入れるのは、基本緊急時だけだ。Pittsburghでは、患者さんが目の前で死にかけている時に、超音波も何もなくてかすかな脈(大腿動脈)を頼りにほんの数分で中心静脈ラインをとった。
透析カテーテルはそこまでの緊急性で挿入されることはまずないので、右内頚静脈を選ぶ。大腿静脈カテーテルは患者さんの動きが制限されるからできれば挿入したくない。たとえ既に右内頚静脈に他のラインが入っていても、ICUチームにお願いしてそれを左内頚静脈に移してもらっている。