この先生はおそらく60才前後であろうが少年のような目をした人(こちらも参照)で、症例で面白い点があったり、学ぶ意欲のある学生をみると目を輝かせる。そして毎日自転車通勤だ。そんな先生の発表は、やはり聴衆を引きつけた。
うまく言えないが、違いが他のスタッフにくらべて明らかだった。話す様子に情熱が溢れている。そして分かりやすい。それを聴きながら、似たものを感じた。自分も教育、発表のアートをこんな高みに持っていけたらと思った。
さて、発表の中心はAKA、アルコール性ケトアシドーシス。難しいテーマだが、AKAが起こるには「①アルコール、②飢餓、③体液量減少、の三つが必要」と言われれば、理解もしやすい。
講義スライドをもとに作成 |
①では大量に摂取したアルコールを代謝することでNAD+が消耗され、大量のNADHが産生される。NAD+が消耗されると糖新生が起こりにくくなる。②ではglycogen storeがなくなり、③ではカテコラミン、コルチゾール、成長ホルモンの分泌促進になり、結果的に体内が低インスリン・高グルカゴン環境になる。
こうして起きる低インスリン・高グルカゴン環境によって脂肪酸が一斉に(carnitine acyltransferase I、IIにより)ミトコンドリアに取りこまれ、β酸化を受ける。β酸化により生じたketo-acidであるacetoacetateは大量のNADHにより還元され、すぐさまβ-OH butyrateとなる。大量のNADHはまた、pyruvateをlactic acidにしてしまう(NAD+がないのでpyruvateはTCA cycleに入れない)。
Am J Med 1991 91 119を参考に作成 |
それでAKAでは尿検査のケトンが陰性(dipstickはacetoacetateを検出するから)で血液のβ-OH butyrateレベルが非常に高く、lactic acidosisを呈することもある。ただlactic acidosisについては、論文によれば肝臓にくらべてまだNAD+が残っている末梢組織で乳酸がpyruvateに戻るので、sepsis、thiamine deficiency、seizureなどが併存しない限りuncommonという(Emerg Med J 2006 23 417)。
それにしても腎臓内科にいると何から何まで勉強しなければならないから、飽きなくてよいが結構大変だ。
[2020年5月13日追記]元原稿は図がなかったので、当時の講義スライドなどから図表を挿入・加筆しています。また、診断・治療については前掲のレビュー(Emerg Med J 2006 23 417)が秀逸ですので、よろしければそちらもご参照ください。
筆者が当時愛飲していたケベックの9%ビール、 La Fin du Monde (世界の終わり) |