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2020/02/05

救急室と酸塩基 前編

 50歳男性、呼吸苦で救急要請。以前に過換気症候群で搬送歴あり。体温36C、血圧110/60mmHg、脈拍70/min、呼吸数28/min(SpO2 100%RA)、深く大きな呼吸。傾眠がち。検査室から、血液ガス分析の異常値が報告された:

pH          6.80
pCO2     29Torr
HCO3    4mEq/l



Q1:アシドーシスは、代謝性ですか?呼吸性ですか?


 呼吸数が多いときには、過換気症候群や呼吸不全だけでなく、代謝性アシドーシスの呼吸性代償(二次性変化)も疑う必要がある。アドルフ・クスマウル先生(1822‐1902、写真)が糖尿病性ケトアシドーシスの症例で報告したことでもお馴染み、Kussmaul呼吸だ。


(出典はこちら

 
 本例も、著明な代謝性アシドーシスがあり、pCO2も正常範囲から下がっているので、呼吸性代償が起きていると思われる。しかし、代償が不十分なことは、あまりにも低いpHからも明らかだ。

 代償で期待されるpCO2は、ウィンターの式をつかえば14Torr(4×1.5+8)。ΔHCO3とΔpCO2との関係から求めても、16Torr(40-20×1.2)であり、それ以上にpCO2がたまっている。このことから、呼吸性アシドーシスも合併している。


Q2:アニオン・ギャップは開大していますか?いませんか?

Na     144mEq/l
K       4.4mEq/l
Cl      104mEq/l
Alb    4.7g/dl 

 アニオン・ギャップは、Na+ClーHCO3とすれば、36mEq/lで開大している(カリウムを含める方もいる;低アルブミン血症はないので、その補正は不要だ)。ΔAGは24、ΔHCO3は20だから、ほぼAG開大代謝性アシドーシスといってよさそうだ(こちらも参照)。

 pHが7未満でショックも心肺停止もない、意識障害を伴う、AGの著明開大・・。なにか飲んだのだろうか?患者に聞いても、答えてくれない。様子を知る付き添いの方もいない。酒臭くもない。中毒に詳しい救急スタッフもいない。狭める方法はないか。
  

Q3:浸透圧ギャップは、開大していますか?いませんか? 

BUN      23mg/dl
血糖      197mg/dl
血清浸透圧(実測)   366mOsm/kg

血清浸透圧の基準値は280-290mOsm/kgであるから、あきらかに実測の血清浸透圧が高い。そして、それに見合ったナトリウムやBUN、血糖上昇がないことから、血中に未測定の浸透圧物質が存在すると考えられる。

 計算してみよう。予測される血清浸透圧は、327mOsm/kg(144×2+23/2.8+197/18)。したがって、実測浸透圧とのあいだに、39mOsm/kgのギャップがある。

 アニオンギャップと浸透圧ギャップがどちらも開大する物質として代表的なのは、メタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコールなどだが・・。





Q4:これ、どういうことですか?

尿馬尿酸  1.29g/l

 つづく。



(hippoはギリシャ語ではウマ、英語ではカバ)



2017/05/26

Na-Clを使って得た教訓

 個人的には、Na-ClではAGとHCO3-の和しかわからないので不十分と思っている。しかし生化学のTCO2が測れない以上、Na-Clをスクリーニングにして、正常範囲(36-38mEq/l)からの隔たりで血液ガスをとるしかない。

 Na-Clをスチュワート法のSIDaiとして考える人たちの間には、Na-ClがひくければSIDアシドーシス、高ければSIDアルカローシス、と考える向きもある(こちらも参照)。スチュワート法は優れて流行のよい方法だ、SIDaiで世界は回る、Na-Cl万歳…という考えを取り入れてみて、最近落とし穴にはまった。二度。

 1つ目、高ナトリウム血症のコンサルト。

 Na 155mEq/l
 Cl 125mEq/l

 おや、Na-Clが30しかない。アシドーシスか?しかし水分が摂れず脱水状態にある患者さんで、どちらかといえばアルカローシスを疑うけれど…。病棟におねがいして血液ガスを提出。
 
 HCO3 25mEq/l
 pCO2 33mmHg
 pH 7.50

 AGが5mEq/lと低下していた。IVIG後で、陽性荷電したグロブリンがたまっていた影響と思われる。

 2つ目、高カリウム血症のコンサルト。

 Na 134mEq/l
 Cl 88mEq/l

 おやおや、Na-Clが46もある。アルカローシスか?しかし、Cr 9mg/dl、K 7.7mEq/lのAKIでアルカローシス?ガスをすぐさま取ろうかとも思ったが、緊急透析を行うことにし透析カテーテルから採血。

 HCO3 16mEq/l
 pCO2 33mmHg
 pH 7.30

 AGが30mEq/lと開大していた。AKIのほかに、メトホルミン関連乳酸アシドーシスが疑われた(乳酸がでない血ガス分析器なので、外注で結果待ち)。デルタ・デルタ(以前ふれた)を考えれば代謝性アルカローシスも併存しているが。

 ことわっておくがスチュワート法が悪いわけでは、もちろんない。本来のスチュワート法はSIDaのほかにSIDe、SIGもあわせて考えるので、解釈は可能だ。それに、Na-Clが正常範囲からずれているからガスを取ろうと思ったんだから、Na-Clを見る意義はあったといえる。

 教訓:Na-Clを用いるなら、Na-Clが下がっていてもAGが低ければアルカローシス、Na-Clが上がっていてもAGがたかければアシドーシス、と知っておけばいいい。

 困るのはNa-Clが正常でもAGとHCO3-が異常(片方が下がった分もう片方が上がっているなど)のケースだが…。これは、TCO2がないと見逃すかもしれない。



 

2015/03/03

ニッポンの酸塩基平衡

 腎臓内科学会が主催するセミナーをお手伝いしてきた。そこで、生化学のNa+とCl-だけでpH、pCO2、HCO3-を読もうとするニッポンの酸塩基平衡を習った。Na+からCl-をひくと、HCO3-とAGだ。

☆AGが正常(12)、HCO3-が正常(24)ならNa+ひくCl-は36になるはずである。この値が36からはずれている時には酸塩基平衡を疑わなければならない☆

 AGを12と仮定すればHCO3-を求めることができる。
 
 HCO3-からpCO2を求めるには、呼吸性の二次的(代償性)反応幅ΔpCO2がだいたいΔHCO3-かける1(個人的には代謝性アシドーシスでは1.2、代謝性アルカローシスでは0.7という人体実験データから得られた係数を使いたいが、面倒だから1にしてしまえということらしい)なことから、

pCO2=40-(25-HCO3-) ⇔ pCO2=HCO3-+15

 HCO3-の正常値は24だが、覚えやすいように25に水増しして、マジックナンバー15がうまれるようにしている。これは米国の高名な先生が思いついて日本に伝えたそうだが、私は米国の腎臓内科フェローシップでは習わなかった。

 次にpHを計算で求めるが、まずそのために[H+]を求める(logはぱっと計算できないから)。[H+]、pCO2、HCO3-の間にはH-Hの式から次の関係がある;

[H+]=24xpCO2 / HCO3-

 で、pH7.40のとき[H+]は40nmol/lで、この周囲でpHの小数点以下+[H+]=80が成り立っていることから、

pH=7.80-[H+]/100

 となる。なんというか、個人的にはここまでしなくても生化学でHCO3-を測ったりガスを取ればいいような気がする(静脈血でもいいから)。ただ日本の一般生化学からも酸塩基平衡をひねり出すことができるというのは発見だった。