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2020/06/25

FEATHER、PERL、CKD-FIXスタディのあとで

 今日付けのニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシンに、尿酸降下薬によるeGFR低下の抑制を意図した2つのスタディ、PERL(NEJM 2020 382 2493)とCKD-FIX(NEJM 2020 382 2504)が出た。もうご覧になった方もおられるだろうが、どちらも否定的な結果であった。

 PERLは、1型糖尿病の早期CKD患者約530人を対象にした米国のスタディ。彼らの平均尿酸値6.1mg/dlを、アロプリノールで2.5-4mg/dlにさげたら、GFRの年低下率を抑制できるかを調べたものだ。アロプリノールは、最初の月に100mg/d、以後は最大で400mg/dまで増量可能であった(GFR低下例では程度に応じ200mg/d、300mg/dまで)。

 なお患者の平均年齢は51歳、男性が66%、白人が84%。糖尿病の平均罹患歴は34年、平均HgbA1cは8.2%。イオヘキソールによる平均実測GFRは74ml/min/1.73m2、平均尿アルブミン排泄速度は41mcg/min(59mg/d)、90%がRAA系阻害薬を内服していた。
 
 その結果、164週の観察で、尿酸値は介入群で平均3.7mg/dlに維持されたが、GFRの平均低下率は3ml/min/1.73m2/年で、2.5ml/min/1.73m2/年のプラセボ群と有意差がなかった。むしろ、尿アルブミン排泄速度は介入終了時に47mcg/min(68mg/d)と、プラセボ群の37mcg/min(53mg/d)より有意に高かった。

 いっぽうのCKD-FIXは、CKD3-4期またはeGFRが3ml/min/1.73m2/年以上低下した患者約360人を対象にしたオーストラリアのスタディ。彼らの平均尿酸値8.2mg/dlを、アロプリノールで5mg/dl程度まで下げてeGFR低下を抑制できるかを調べたものだ。アロプリノールは100-300mg/dとされた。

 患者の平均年齢は62歳、男性が63%、白人が75%、DKDは45%(糖尿病の病歴じたいは58%)。平均eGFRは31ml/min/1.73m2、尿アルブミンクレアチニン比は約700mg/gCr、40%がACE阻害薬を、36%がARBを内服していた。
 
 その結果、104週の観察で、尿酸値は介入群で平均5.1mg/dlに維持されたが、eGFRの平均低下率は3.1ml/min/1.73m2/年で、3.2ml/min/1.73m2/年のプラセボ群と有意差がなかった。尿アルブミンクレアチニン比、血圧などにも有意差はなかった。


 これにより、PERL、CKD-FIX、そして日本でフェブキソスタットを試したFEATHER(AJKD 2018 72 798)の3スタディは、いずれも腎機能低下についてのプライマリ・エンドポイントでよい結果を示せなかったことになる。だから、おそらく次のKDIGOガイドラインは、こんな風にかかれるだろう。

推奨■.■ CKDにおける無症候性(痛風や尿酸結石のない)高尿酸血症の、腎機能低下抑制を目的にした治療については、行わないことを推奨する(レベル□□)。

 それで、どうなるのか?治療薬があるので、尿酸値が赤字のまま治療せずにいるのは、臨床家には勇気のいることかもしれない。しかし、こうしたスタディが出た以上は、使用にいっそう正当化が求められるだろう。

 そのために、まずはスタディのサブ解析(一部の患者には効くのかを調べる)やポスト・ホック解析(別のエンドポイントでは効くのかを調べる)が行われることは、想像に難くないし、筆者もそうすべきと考える。

 たとえば、FEATHERスタディは蛋白尿の陰性群に限ると介入群でeGFRは有意に「上昇」し(p=0.005)、PERLスタディでもアルブミン尿のない群はよさそうだった(信頼区間のまたぎ方がもっとも介入群寄り、図矢印)。


NEJM 2020 382 2493より


 こうした所見は、統計が生んだ「残念賞」なのかもしれない。しかし、もしかしたら、本当に尿酸値低下による(RAA系阻害薬などとは別の機序の)腎保護作用があるのかもしれない。そういった作用を強調した別の治療が、限られた群に有効なのだとしたら、上記3スタディも無駄ではなかったことになる。

 
 できれば、そっちのほうが前向きだ。



出典はこちら
(ライブ動画は、こちら!)



 
 

2019/10/18

虎ノ門みやげ 後編

 前編のあと、先生は腎性低尿酸血症のお話をされた。

 腎性低尿酸血症といえば、URAT1またはGLUT9の異常により尿酸が再吸収されず、極端な低尿酸血症・尿結石・運動後AKI(悪心嘔吐・ひどい腰痛が特徴で、来院時Crが5mg/dl程度のわりに非乏尿で尿酸値が低め)・GLUT9異常では脳梗塞を合併する疾患だ。詳細は先月の投稿も参照されたい。

 ここでは、講演で得られた感動を二つ共有したい。

 1つ目は、ウリカーゼの進化史だ。先生は「尿酸といえば(痛風や脂肪肝など)害が多く、大悪党ではなくても小悪党くらいに思う方が多いだろう」とお話したうえで、生物が進化の過程でいかにウリカーゼを不活性化(同遺伝子を偽遺伝子化)してきたかを概述された。

 ヒトのウリカーゼ遺伝子は、①コドン33がストップコドンに、②イントロン2の2塩基AGがAAに(スプライシングが不可能に)、③コドン187がストップコドンになっているという。講演では、霊長類でこうした異常がどう共有されているかを示す、以下のような図が提示された(出典の記載がなかったので、ここにはPNAS 2014 111 3763)!


列記された動物は上から、ヒト、チンパンジー、ゴリラ、
オランウータン、テナガザル、カニクイザル、アカゲザル
(網掛け部分が偽遺伝子化している)


 さらに興味を持って調べてみると、哺乳類は長いあいだ徐々にウリカーゼ活性を落としてきたことがわかった(図はPNAS 2014 111 3657)。まるで「哺乳類補完計画」だが、ウリカーゼ活性を止めて血中に尿酸を増やすことには、果糖を代謝しての脂肪蓄積作用や抗酸化作用などの進化論的利点ががあったと推察されている(Semin Nephrol 2011 31 394)。


時間軸上段は白亜紀、第三紀、第四紀
下段は暁(ぎょう)新世、始新世、中新世、鮮新世

 
 2つ目は、腎性低尿酸血症がAKIや脳梗塞を合併する機序についてだ。先生は推察だとしつつも、血中に尿酸がないと、運動などで酸化ストレスが増えたときに、血管を拡張しておくことができないのではないかとおっしゃった。

 先生によれば、腎臓で消費されるATPは全身の10%に及ぶという。調べてみると、たしかに腎臓の安静時エネルギー消費量は440kcal/kg/dで、心臓と並んで臓器の中で最も高い(Marinos Elia先生による、検証はAm J Clin Nutr 2010 92 1369)。そう考えれば、運動時AKIは「一時的な腎梗塞」であり、ひどい腰痛がおきる点も符合する。


 尿酸がどのように血管収縮を抑制しているか、どうして心筋梗塞にならないか、ウリカーゼのある他の哺乳類はどうしているのか、・・など疑問は尽きない。しかし、こうして得られた感動こそ「キセキ」。その意味でも、人間でよかった(図は、まんが日本昔ばなしエンディングテーマだった、『にんげんっていいな』より)。





2019/09/18

尿酸値が低いことは問題ないですか?

我々は高尿酸血症の診断・治療は色々な知識があり、選択肢がある。
実際、患者さんも高尿酸血症に伴う痛風発作では疼痛も強く、尿酸が高くなることを恐れる人もいる。

では、尿酸が低い人はどうであろうか?
「尿酸が低いですが、大丈夫ですね。異常なしです!」
で帰してしまうのか?

今回は、その話題を少し取り上げようと思う。

低尿酸血症は定義上、血清尿酸値が 2mg/dL未満のものをいう。
1991年と昔の報告ではあるが、入院患者の2%、一般人口で0.5%と頻度は低い。

機序としては
・尿酸の産生低下
・尿酸の酸化
・尿酸の尿細管再吸収障害
にわかれる。

☆産生低下には、先天性障害・後天性障害に分かれる。
 先天性のものには、遺伝性キサンチン尿症やプリンヌクレオチドホスホリラーゼ欠損症
 後天性のものには、キサンチンオキシダーゼ阻害(アロプリノールやフェブロキサットなど)、重度肝障害
などがある。

☆尿酸の酸化
 人間は他の動物とは異なり尿酸酸化酵素を持っていない(つまり、酸化させることができない)。
 腫瘍崩壊症候群における急性腎不全の予防や治療に使用されるラスブリカーゼは尿酸を酸化させアラトインという物質に変換させる尿酸酸化酵素として作用する。
このラスブリカーゼの使用などで低尿酸血症になる。

実験医学オンラインより引用

☆尿酸の尿細管再吸収障害
これに関しても、先天性障害と後天性障害に分かれる。
 先天性のものには家族性低尿酸血症がある。家族性低尿酸血症は本邦で腎性低尿酸血症(RHUC)として知られ、ガイドラインがでている。
 これは、近位尿細管における尿酸再吸収トランスポーターの欠損で、URAT1/SLC22A12、GLUT9/SLC2A9の欠損が報告されている。


Up To Dateより引用
後天性のものには
  Fanconi症候群、体液過剰(近位尿細管の再吸収低下)、頭蓋内疾患(尿酸クリアランスが増加)、AIDS、薬剤(ベンズブロマロン、プロベネシド、高用量ST合剤、高用量サリチル酸など)※、炎症、妊娠、経静脈栄養管理、ホジキンリンパ腫などの悪性腫瘍、タマゴテングタケ中毒などがある。

※ちなみにARBのロサルタンなどは心臓移植でシクロスポリン使用に関連する高尿酸血症に対して尿酸を下げる作用として働く(URAT1の阻害)

では、結論の部分であるが低尿酸血症は多くの場合は無症状ではあるが、合併症では
・急性腎不全
・尿路結石形成
・可逆性後頭葉白質脳症
があり、これは知っておく必要がある。

・急性腎不全に関しては、RHUC患者の男性に多い。
起こるシチュエーションとしては激しい運動後、6-12時間以内に腰背部痛、腹痛、嘔吐が生じる。平均Crは5.5mg/dL 程度と言われ中には透析や慢性腎不全に移行するものも数は少ないが報告されている(NDT 2004)。
この病態は運動後急性腎不全(EIAKI:Exercise induced AKI)として知られている。

・尿路結石症に関しては、頻度は尿酸排泄が亢進する疾患で多くなる。RHUC患者では尿酸結石とシュウ酸カルシウム結石の形成合併が多い。

・PRESは頻度は非常に低いがRHUSの患者での報告はある(pediatrics 2011、 Eur J pediatrics 2013)。

なので、低尿酸血症は頻度はそこまでは高くはないが、出会ったらしっかりと鑑別を考える必要があるし、合併症の併発はないかの精査を行うことは重要である。


2018/10/30

新規尿酸降下薬

 1706年、マサチューセッツ州生まれ。質素・勤勉で、28歳時は著作で痛風予防のために節食節酒を勧めたこともある。しかし立身出世し生活が変化したこともあり、中年以降に痛風発作、腎結石を繰り返す。74歳時に散文詩「痛風との対話」を著す。84歳、胸膜炎のためフィラデルフィアで病没。

Q:これは、誰ですか(写真は彼が使っていた歩行杖)?




 腎臓で尿酸を下げたほうがいいかというのは結論がまだでていないけれど、下げないほうがいいのだろうか?先日紹介したFEATHERトライアルでもちいられたfebuxostatは、実はFDAに心血管系死などの警告が出ている(相関であり、因果関係は調査中)。アロプリノールは生命に関わるSteven-Johnson症候群を起こすことがあり、安価で昔からあるがこのために敬遠されることがある。

 とはいえ、痛風や結石の慢性管理ではさすがに尿酸値を下げたほうがいい。そして、これらを扱うリウマチ内科は新薬がどんどん生まれている分野だから、尿酸についても新しい薬がでてきている。以前紹介した(存在を予言して的中した)Lesinuradは近位尿細管のトランスポーターURAT1を阻害して尿酸排泄を促進する薬だが、今回紹介するPegloticaseは尿酸を分解するウリカーゼそのものだ。

 ウリカーゼはヒトにない酵素(なぜないかについては、進化や適者生存の観点からさまざまな仮説がある)だが、ラスブリカーゼとして既に商品化され腫瘍崩壊症候群に用いられている(こちらも参照)。Pegloticaseはそれをペグ化して半減期を伸ばしたもので、2週間に一度の注射薬だ。

 適応は既存の尿酸降下薬に不応の痛風結節(tophi)をともなう慢性痛風だ。使えばたちまち尿酸値が下がるし、結節も消える。こういうテキメンな下がり方は、コレステロールに対するPCSK9モノクローナル抗体にも似ている(こちらも参照)。

 ただしPeglosicaseはペグ化しているので、人によって抗ペグ抗体ができることがあり、その場合は効果が減弱する(10mg/dl以上のひとが、7くらいまでしかさがらない)。また、副作用としてはinfusion reactionが最も多い。 
 
 米国とカナダの治験(JAMA 2011 306 711)後、2010年にFDAが認可し、2013年にはEUで認可された。2016年にEUの認可が取り消されたが、その理由はメーカー側のcommercial reasonとされている。ちなみに冒頭の患者は、ベンジャミン・フランクリン(写真はスミソニアン博物館サイトより)。もし彼が現在も生きていたら、役に立ったかもしれない。

 Peglosicaseは薬としてまだ完璧ではないけれど、こういう研究の積み重ねで新規クラスの薬がうまれてよい治療につながっていく感じが、腎臓内科でも感じられるようになればいいなと思う(写真は、ファージを用いた方法でモノクローナル抗体技術に革命を起こし、2018年ノーベル化学賞を受賞したGreg Winter卿。抗TNFα抗体、adalimumabの開発者でもある)。




2018/10/09

ある外来の症例から

 65歳男性。健康診断でクレアチニンと尿酸の高値を指摘され受診。eGFRは45ml/min/1.73m2、尿蛋白・尿潜血は陰性。尿酸値は7.8mg/dl、痛風の既往はない。




Q:高尿酸血症の治療を推奨しますか?


 上記のような症例は日常よく経験されるし、尿酸値をさげてCKDの進行が遅らせられればよいなと思う。FEATHERスタディ(doi: 10.1053/j.ajkd.2018.06.028)は、そんな思いを確信にしてくれるはずの研究だった。

 しかし、2年間観察して介入群の尿酸値を4mg/dlにしっかり下げても、eGFRのスロープに有意差は見られなかった。両群ともにCKDの進行がゆっくりすぎて有意差がつかなかったのだとすれば、患者さんにとってはよかったのかもしれないが。

 ただし、CKD3a期・Cr値が全コホートの平均より低い・蛋白尿陰性などの例では介入群のeGFRスロープに右肩上がりの傾向が見られた。だから、これらの群では尿酸をさげる治療が正当化されやすいかもしれない。

 高尿酸血症の薬にはそれぞれにさまざまな売りと弱みがあるが、そもそも治療するかどうかの部分で「推奨する、しない、いずれのエビデンスも不十分(KDIGOガイドライン)」だ。がっかりされるかもしれないが、治療するにせよしないにせよ、患者さんにはそれを知ってもらう必要がある。

 

2017/05/18

火星だより 4

 同じ食塩量を摂っていても、アルドステロンとコルチゾンの1日排泄量(それぞれUAldoV、UCortisoneV)には波がある。高い日と低い日の差は、6g/d食でも9g/d食でも12g/d食でも大体同じで、UAldoVは7.6mcg/d、UCortisoneVは33.8mcg/dだった。

 UAldoVが多い日は、少ない日にくらべて飲水量がおおく、尿量がすくなく、水がたまった(体重も増えた)。ここでも、以前に書いた、尿浸透圧と尿量の変化から自由水どれだけたまった(または、捨てられた)かを計算する方法をつかっている。


 いっぽう、6g食から12g食にするとUAldoVは減る(平均5.1mcg/d)。上記変化はUAldoVが7.6mcg/d増えた結果なので、UAldoVが5.1mcg/d減った影響は上記に5.1/7.6を掛けて正負を反転させたものになるとグループは考えた。


 同様のことをUCortisoneVでもおこなうと、次のようになる。6g/d食から12g/dになってコルチゾンはふえるので、今回は正負が反転しない。ここでUAldoVの時と違う点のひとつは、体重が減らなかったことだ。コルチゾンがふえて自由水が捨てられたのに、飲水量がかわらないのだから、体重は減りそうなものだが減っていない。


 これをみてグループは、捨てられた自由水は内因的に作られた水、つまり代謝水だと推察している。食べ物から余計に水が作られれば、飲み水が増えなくてもいい。たしかに糖質コルチコイドには異化を亢進する作用があるから、それでいいのかもしれない。

 では、アルドステロンはどのように尿量をへらし、コルチゾンはどのように尿量をふやすのか?それを調べるのに、グループはそれぞれのホルモンが高い日と低い日の尿中溶質排泄と浸透圧をくらべてみた。

 するとアルドステロンが低い日は、高い時にくらべて尿Na排泄量(UNaV)がふえたが、尿K排泄量(UKV)は減り、尿素排泄量(UUreaV)も減ったので全体の溶質排泄量はかわらず、尿浸透圧はさがった。いっぽう、コルチゾンが高い日は、低い日にくらべてUNaV、UKV、UUreaVいずれもふえたが尿浸透圧はさがった。

 これらの現象でいまのところわかっているのは、アルドステロンがさがるとENaCによるNa再吸収がおちて、それに付随しておこるROMKによるK排泄も減ることくらいだ。これをグループはTraditional natriuretic conceptと呼んでいる(図)が、伝統的というだけあって目新しいことではない。RAA系ということだ。



 いっぽう、アルドステロンと尿素、糖質コルチコイドとNa、K、尿素の関係は、これから調べられるフロンティアだ。これを説明するのに、このグループは伝統的なコンセプトにかわるAlternative natriuretic-ureotelic conceptというコンセプトを提唱していて興味深い(図)。


 なお「-telic」はテロメアのテロと同語源で終末を意味するから、ureotelicとは尿素で終る、つまり「尿素排泄の」ということ。それに対して窒素の最終排泄物がアンモニアの場合をammonotelic、尿酸の場合をuricotelicという(それぞれ魚、鳥など;図はJournal of Experimental Biology 1995 198 273を改変)。


 Alternative natriuretic-ureotelic conceptは、ふえた塩分を排泄するとき一緒に水を失わない合理的な仕組みといえる。RAA系だけでは、塩分がふえるとENaCを介したNa再吸収が減って水が失われてしまう。しかしそれに平行して腎髄質の間質に尿素が蓄積し水を引き、抗利尿に働くかもしれない(推測)。また糖質コルチコイドの働きで代謝水がふえ、飲水量をふやさずに済むかもしれない(推測)。

 これらのメカニズムはいまだ不明だが、糖質コルチコイド作用がたかまってたんぱく異化により尿素が増えているのかもしれない(推測)。髄質への尿素の汲みだしには、UT-A1が関与しているかもしれない(推測)。

 さらに、鉱質コルチコイドと糖質コルチコイドが自由水の管理を互いに拮抗する働きを持ち、どちらも周期的にゆるやかに上下を繰り返していることから、両者はあたかも交感神経と副交感神経、RAA系とプロスタグランジンのように調節しあっているのかもしれない(推測、図)とグループは提唱する。


 このモデルによれば、鉱質コルチコイドがふえると塩と水が身体にたまる(図の環が6時から12時にまわる)。すると今度は糖質コルチコイドが増えて塩と水を捨てる(環が12時から6時にまわる)。塩分摂取がすくなければ塩と水を守る方向、すなわち鉱質コルチコイドが優位になる(図の左半分)。塩分摂取がおおければ逆で、糖質コルチコイドが優位になる(図の右半分)。

 推察ばっかりだが、糖質コルチコイドが体液バランスにおよぼす影響や、尿濃縮に大事な役割をもっているのにいままで(電解質でないためか)あまり掘り下げられてこなかった尿素の仕組みについて考えるきっかけになった。バソプレシン(と血漿浸透圧)を考えなくてもここまで説明できるのは、目からウロコだった。

 ここまで推論したら、あとは実証すればいいというわけで、JCI5月号にもうひとつ載った論文(JCI 2017 127 1944)がそのアンサーソングになっている。これは、べつに紹介する。もしこれからこの領域の知見が増えてくれば、高血圧や腎疾患などの診療が別次元に深まるのかもしれない。UT-A1阻害薬(Nat Rev Nephrol 2015 11 113)とかそういうレベルではなく、それこそ「火星に人が着陸する」くらい、変わるかもしれない。それにしても、宇宙開発はその過程でいろんな科学の副産物をもたらしてくれる。






2017/04/17

近位尿細管はいま

 ネフロンで治療のターゲットになってきたのは主に遠位だ。そこが最終的なファインチューニングを行うので調節するのにちょうどよいからと思われる。いっぽう、再吸収のほとんどを担当し、腎臓でもっともエネルギーを消費するところでもある近位尿細管は調節するには難しい。近位尿細管で脱炭酸酵素を阻害するアセタゾラミドも利尿薬として使い勝手のよい薬ではない(代謝性アルカローシスで利尿薬を切れないときの最後の手など)。

 しかし、近位尿細管というフロンティアも研究でさまざまな標的分子がみつかっているからこれから薬ができるかもしれない。たとえば最近Kidney NewsのDetective NephronにeDKAが取り上げられた(エピソード18)SGLT2阻害薬は近位尿細管がターゲットだ。近位尿細管は尿酸の再吸収もおこなっているから、昔からあるベンズブロマロンにかわるあたらしい再吸収阻害薬なんかも開発されるかもしれない。

 という流れで読むと興味深い論文が、JASNにでていた(doi;10.1681/ASN.2016080930)近位尿細管でのHCO3-吸収はreclamationと呼ばれ、再吸収と呼ばれない。HCO3は、直接再吸収するのではなく、内腔の脱炭酸酵素によってHCO3がCO2になって細胞内に入り、それが細胞内の脱炭酸酵素CA2によってHCO3になり、NBCe1から身体に入る(いっしょにできるH+は尿に排泄されアンモニアやリン酸にバッファーされる、図は論文から)。




 論文では、上記の過程と別に、ろ過されたHCO3の15%程度は新しく見つかったNa/HCO3共輸送体であるMCDL-NBCn2を介して直接尿細管細胞に再吸収されているかもしれないという仮説を、数学的には証明した(図、論文から)。Na/HCO3共輸送体は何種類もあるから闇雲にブロックするわけにもいかないだろうが、近位尿細管の生理学が新たにわかることで新しい治療につながることを期待したい。





 [2017年6月追加]本文で予言した、URATに働きかける新しい尿酸降下薬は、実在する。Lesinurad(商品名Zurampic®)がそれで、URAT1の阻害薬だ。第3相試験で、Febuxostatとの併用群(400mg/d)がFebuxostat単独より尿酸値をさげ、痛風結節を縮小した(DOI:10.1002/art.40159)。200mg/dでは尿酸値の追加効果に有意差がなかった。やはり、近位尿細管はフロンティアだ。


2013/03/31

ネフロンの大冒険 3/3

 陸に初めて上がった両生類。彼らのネフロンには、近位尿細管の先に水を通さずNaClを通す管が新たに取り付けられた(後のヘンレ係蹄上行脚)。しかしこれだけでは尿希釈はできても尿濃縮はできない。つまり彼らの腎はまだ淡水適応時代の流れを継承しており、陸上で水と塩の吸収と再吸収を司るのは主に皮膚と膀胱だ(これらがアルドステロンに依存していることはに述べた)。

 爬虫類もまた両生類同様の水排泄を得意とするネフロンを持っているが、水から離れて生きるには必要ない。それで海水魚と同じように尿細管分泌の役割に多くを依存している(Am J Physiol Renal Physiol 2002 282 F1)。その証拠に、彼らはrenal portal system(腎門脈システム)をもっている。これは腎が静脈還流を受け、尿細管分泌により老廃物を排泄してから心臓に返すシステムだ。さらに彼らは腎だけでなく、salt gland、lower GI tract、膀胱などでも水と塩類を調節している(Seminars in Avian and Exotic Pet Medicine 1998 7 62)。

 爬虫類から進化した鳥類はどうか。彼らは温血動物だから代謝レベルが圧倒的に高まり、老廃物をごっそり捨てるのに糸球体は欠かせない。しかし既存のネフロンでは水排泄過多で干上がってしまう。そんな彼らに、脊椎動物で初めての尿濃縮システムが取り付けられた。尿管芽(ureteral bud)由来の集合管と、vasa recta、ループ係蹄が腎髄質(medullary cone)を縦に並んで走る、哺乳類型のネフロンだ。

 しかしネフロンの70-90%はいまだループのない爬虫類型だし、鳥類は尿素でなく水に溶けない尿酸を窒素排泄に用いているから哺乳類ほどosmotic gradientがでない。だから濃縮力は哺乳類に比べてずっと弱いが、彼らにはそれでいいのである。というのも尿濃縮は主に直腸で浸透圧勾配にしたがい行われる(余り腎で濃縮したら、逆に直腸内腔へ水が失われてしまう)し、鳥類も爬虫類同様にsalt glandを持っている。

 温血で生じる大量の老廃物をろ過しつつ水を保持する難題は、哺乳類に至って解決された。ここでは全てのネフロンが尿濃縮機構を持し、窒素排泄に水溶性の尿素を用いることで得た高いosmotic gradientにより尿濃縮能は飛躍的に上がった(それはAVPの支配下にあるurea recyclingによって維持されている、JASN 2007 18 679)。これらによって、体液調節のほぼ全てを腎が引き受けるようになった。

 幾多の試みの果てに、哺乳類は淡水で生まれた糸球体ろ過/尿細管再吸収システムに、陸上に適したループ係蹄/vasa recta/集合管システムを融合して最強のネフロンを作り上げた。しかしその間に、5億年前から伝わる糸球体分泌機能が捨てられることはなかった。現に哺乳類のネフロンにもそれは残されているし、私達が思っている以上に大きな役割を果たしているかもしれないのだ。その役割とは一体?それは別のコラムに書く。


2011/11/11

慢性鉛中毒

最近は教科書に書いていない経験的な診療のpearlsを学ぶことと、またスタッフとしてどの様にレジデントと接し教育するかという観点から学ぶことが主だ。だから「この論文にこう書いてある」というような勉強は相対的に少ないが、そのうちの一つを紹介する。

 ひとつは高血圧、腎不全、高尿酸血症をみたら(適切な症例で)慢性鉛中毒を疑えという事。といっても高血圧と腎不全と高尿酸血症を持つ人はとてもたくさんいるから、鉛曝露をうたがう病歴(弾丸が身体に入っている、弾丸を自分で作る、鉛ペンキ、古い水道管、有鉛ガソリン、バッテリー工場勤務など)、腎外症状(消化器、貧血、神経症状など)がヒントになる。

 慢性鉛中毒が腎障害をおこす機序はよく分かっていない(Am J Med Sci 2004 327 341)が、直接尿細管障害を起こし線維化や炎症を惹起すると考えられている。高血圧や高尿酸血症を介して間接的に腎障害をおこしているかもしれない。

 さて疑ったらどんな検査をするか。血中鉛濃度は急性中毒には有効だが、鉛は血中からすぐに骨や組織に移り蓄積されるので慢性中毒の診断には有用でない。free erythrocyte protoporphyrinも、過去90日以内の曝露を調べるには有効だがlifetime body burdenを計ることはできない。それでEDTA lead mobilization testというのが行われる。

 このテストはchelating agentを投与し、骨や組織からmobilizeされて尿中に排泄される鉛を測定するものだ。EDTAは1g静注と2g筋注、尿中鉛の測定は24時間蓄尿と72時間蓄尿などさまざまなやりかたがある。いまのボスによれば、EDTA1g静注後に24時間蓄尿したので十分らしい(筋中は痛く、最初の24時間で90%程度のmobilizable leadが排泄される)。

 さて鉛のbody burdenが見つかったらどうするか。元来600mcg/72-hr urineが腎不全を起こすのに必要なburdenと言われていたが、80-600mcgでも腎不全を起こしているかもしれないという論文もある(NEJM 2003 348 277)。Chelationが全ての鉛中毒で行われるべきと言い切るevidenceはないが、この論文は、chelation therapy(1g EDTA/week)で鉛burdenが80-600mcg/72-hr urineの腎不全患者群のGFRが改善した(placeboでは悪化した)ことを示した。