2011/11/11

慢性鉛中毒

最近は教科書に書いていない経験的な診療のpearlsを学ぶことと、またスタッフとしてどの様にレジデントと接し教育するかという観点から学ぶことが主だ。だから「この論文にこう書いてある」というような勉強は相対的に少ないが、そのうちの一つを紹介する。

 ひとつは高血圧、腎不全、高尿酸血症をみたら(適切な症例で)慢性鉛中毒を疑えという事。といっても高血圧と腎不全と高尿酸血症を持つ人はとてもたくさんいるから、鉛曝露をうたがう病歴(弾丸が身体に入っている、弾丸を自分で作る、鉛ペンキ、古い水道管、有鉛ガソリン、バッテリー工場勤務など)、腎外症状(消化器、貧血、神経症状など)がヒントになる。

 慢性鉛中毒が腎障害をおこす機序はよく分かっていない(Am J Med Sci 2004 327 341)が、直接尿細管障害を起こし線維化や炎症を惹起すると考えられている。高血圧や高尿酸血症を介して間接的に腎障害をおこしているかもしれない。

 さて疑ったらどんな検査をするか。血中鉛濃度は急性中毒には有効だが、鉛は血中からすぐに骨や組織に移り蓄積されるので慢性中毒の診断には有用でない。free erythrocyte protoporphyrinも、過去90日以内の曝露を調べるには有効だがlifetime body burdenを計ることはできない。それでEDTA lead mobilization testというのが行われる。

 このテストはchelating agentを投与し、骨や組織からmobilizeされて尿中に排泄される鉛を測定するものだ。EDTAは1g静注と2g筋注、尿中鉛の測定は24時間蓄尿と72時間蓄尿などさまざまなやりかたがある。いまのボスによれば、EDTA1g静注後に24時間蓄尿したので十分らしい(筋中は痛く、最初の24時間で90%程度のmobilizable leadが排泄される)。

 さて鉛のbody burdenが見つかったらどうするか。元来600mcg/72-hr urineが腎不全を起こすのに必要なburdenと言われていたが、80-600mcgでも腎不全を起こしているかもしれないという論文もある(NEJM 2003 348 277)。Chelationが全ての鉛中毒で行われるべきと言い切るevidenceはないが、この論文は、chelation therapy(1g EDTA/week)で鉛burdenが80-600mcg/72-hr urineの腎不全患者群のGFRが改善した(placeboでは悪化した)ことを示した。