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2018/10/05

SGLT2と腎臓に関して

 この話題に関しては何回もこのブログで取り上げている(CANVASとCREDENCEEMPA-REG outcome)。

 とてもいいreviewがAJKDに出ているのでぜひ参考にしてもらいたい。

 SGLT2の使用割合はおそらく全世界で増加しているだろう。

 去年の日経メディカルの記事では処方率は低空飛行とのことであるが、今後使用が期待されている。

 まずは、種類の復習。現時点(2018年)では6種類のSGLT2阻害薬が本邦ではあり、色々と差別化をはかろうと試験が行われている。




 ・スーグラ®

 最初に発売されたSGLT2阻害薬

 用法:1150mgを投与し、効果不十分な場合には1日量として100mgまで増量可

 肝機能が低下している場合などに対する低用量規格(25mg錠)も

 他の糖尿病治療薬との配合製剤に関してDPP-4阻害薬(シタグリプチン)との配合剤(スージャヌ配合錠)がある

 ・ルセフィ®

 用法:通常、112.5mgを投与し、効果不十分な場合は1日量として5mgまで増量可能

 ・フォシーガ®

 用法:通常、115mgを投与し、効果不十分な場合は1日量として10mgまで増量可能

 ・デベルザ,アプルウェイ®

 用法:通常、1120mgを投与する

 ・カナグル®

 用法:通常、11100mgを投与する

 他の糖尿病治療薬との配合製剤に関して

 DPP-4阻害薬(テネリグリプチン)との配合剤(カナリア配合錠)がある

 ・ジャディアンス®

 用法:通常、1110mgを投与し、効果不十分な場合には1日量として25mgまで増量可

 現在までの有用なもの、これから結果が出る試験のまとめとしては下図になる。


AJKD 2017より


 まだ、Dapagliflozinの結果とCanagliflozinのCREDENCEは出てはいないが、以前に示したようにEMPHA-REGやCAMVASでの結果から、有用な結果は見いだされている。

 この糖尿病性腎症に対して予防的に働く機序に関しては直接的な効果と間接的な効果に分けて考えると非常に理解しやすい。

 直接的な効果
 
 ・近位尿細管のNaCLとGlucoseの再吸収をSGLT2阻害薬が防ぐことで、tubloglomerular feedbackがかかり、輸出細動脈の収縮が生じGFRを担保する(下図参照)。
 ・近位尿細管での血糖の再吸収阻害で細胞の炎症や繊維化を防ぐことができる(PLos one 2013)。

 間接的な効果

 ・SGLT2阻害薬による体重の減少
 ・HbA1cの低下
 ・血圧の低下

 などが挙げられる。


AJKD2017より


 日常診療の中で、患者さんのことを考えながらどのように自分の処方が役に立っているのか、そしてそれを常にアンテナを張ってアップデートをしていくことは非常に重要だと感じる。




2016/06/16

LEADER and EMPA-REG OUTCOME

 最近FDAがPADリスクの調査やAKIの注意喚起を発しているSGLT2阻害薬だが、ひたすらA1cの低下と安全性・便利さを謳って宣伝される新規経口血糖降下薬のなかで、いち早く昨年にhard endpointである心血管死のリスク減少を示したのはEMPA-REG OUTCOMEスタディ(NEJM 2015 373 2117)で、その薬はSGLT2阻害薬のEmpagliflozinだった(ただしnon-fatal MIとstrokeでは有意差なし、心不全入院は有意差あり;まあSGLT2阻害薬は利尿剤だから)だった。

 DPP4阻害薬、GLP-1受容体アゴニスト(以下GLP1アゴニスト)はEXAMINE、SAVOR-TIMI53、TECOS、ELIXAなどのスタディがいずれも心血管リスクで有意差がでず、今週になってGLP-1アゴニストのLiraglutideで有意差を示したLEADERスタディがでた(DOI: 10.1056/NEJMoa1603827、心血管死に有意差あり、non-fatal MIとstrokeと心不全入院に有意差なし)。

 スタディが組まれすぎて、同じクラスのなかでEmpagliflozinとLiraglutideは特別よい薬なのか、このクラスが特別よいのかはわからない。スタディごと心血管リスクの定義やリクルートするA1cの閾値などが微妙に違うようだ。もちろん私は全ては読んでいないが、editorialによれば(DOI: 10.1056/NEJMe1607413)LEADERスタディは心疾患が比較的軽症だがA1cは高め(8.5%以上)の群を対象にしているらしい。一方EMPA-REG OUTCOMEスタディのサブ解析ではA1c 8.5%以下の群はリスク減に有意差があって以上の群には有意差がなかった。

 ただ直感で思うのは、GLP1アゴニストとSGLT2阻害薬はどちらも体重が減る(前者は食欲と身体活動性に関係し米国では2014年に肥満症の適応も受けている、後者は糖排泄と浸透圧利尿を起こす)ことだ。ADAの2016年ガイドラインでメトフォルミンに1剤追加する目安の表にも書いてある(Ann Int Med 2016 164 542、「効果」についてはDiabetes Care 2015 38 140を参照)。

SU
効果:High
低血糖リスク:Moderate
体重:Gain
副作用:低血糖
薬価:Low

TZD
効果:High
低血糖リスク:Low 
体重:Gain
副作用:浮腫、心不全、骨折
薬価:Low

DPP4阻害薬
効果:Intermediate
低血糖リスク:Low
体重:Neutral
副作用:まれ
薬価:High

SGLT2阻害薬
効果:Intermediate
低血糖リスク:Low
体重:Loss
副作用:生殖泌尿器感染、脱水
薬価:High

GLP1アゴニスト
効果:High
低血糖リスク:Low
体重:Loss
副作用:胃腸症状
薬価:High

Basal insulin
効果:Highest
低血糖リスク:High
体重:Gain
副作用:低血糖
薬価:Variable

実際LEADERスタディでは介入群で体重が2−3kg減り、収縮期血圧も4−5mmHg下がった。EMPA-REG OUTCOMEスタディでもやはり体重が2−3kg減り、腹囲が5cmほそくなり、収縮期血圧が4-5mmHg下がった。メタボが少し解除されたのかもしれない。私にはこのふたつのスタディが、心血管リスクのある糖尿病患者における心血管死・心不全増悪の予防にはA1cの低下だけでなく減量と降圧+そのための食事と運動が重要だ(が、それは言うほど簡単ではないので高くても薬で治療するしかない)と言っているように思える。

 さらに、Empagliflozinについては同じ号でEMPA−REG OUTCOMEスタディ(MDRD eGFR 30ml/min/1.73m2以上)のpost hoc解析で腎症進行を抑制すると発表された(DOI: 10.1056/NEJMoa1515920)。具体的には顕性アルブミン尿への進行、eGFRの低下、透析導入など。興味深いのは介入群でeGFRがスタディ数カ月以内に一度3-4ml/min/1.73m2さがりそのあと維持されることだ。最初は腎血流低下を反映し、以後は未知の腎保護機序が効いているのだろうか。

 EMPA−REG OUTCOMEは日本も参加したスタディだ。また新しいためか同じクラスのなかではまだAKI・PADの嫌疑がかかっていないから、Empagliflozinは売り時かもしれない。Liraglutideも日本で認可されているが、LEADERスタディに日本は参加していない(アジアでは中国、台湾、韓国、インドなどが参加している)。SecretogogueのなかではDPP4阻害薬にくらべてシェアの小さいGLP1アゴニストだが、LEADERスタディを受けて日本でもLEADER-Jみたいなのが組まれるかもしれない。なおLiraglutideは腎機能低下例に禁忌ではない(慎重投与)だからLEADERの除外基準にもeGFRは入っていないが、心血管保護が有意にみられたのはeGFRが30−60ml/min/1.73m2の群だった。