2020/06/02

1/2の魔法(速報 MAINRTSAN3スタディ)

 ANCA関連腎炎の治療一覧でよく目にする、下図。内科学会誌5月号の腎炎特集(日内会誌 2020 109 886)にも、『専門医を目指すケース・メソッド・アプローチ 腎臓疾患(3版、2017年)』にも出てくるので、これが日本の標準的なケアなのだろう。


最下段は、追加治療や第二選択


 今回は、それを尊重しながら、以下の2点を考察したい。


1. 点滴シクロホスファミドの量


 「0.75g/m2」と聴くと、ループス腎炎のNIHレジメンを思い出す読者も多いだろう(Ann Intern Med 1996 125 549、こちらも参照)。もちろんANCAでこのレジメンを試したスタディはある(Arthritis Rheum 1998 41 1835)し、2012年のKDIGOガイドラインも以下のようになっている。


  • 0.75g/m2、3-4週ごと
  • 初回は0.5g/m2に減量(60歳以上、GFR 20ml/min/1.73m2未満も)
  • 投与2週後の白血球数が3000/mm3以上になるよう用量調節


 しかし、RAVEスタディ、RITUXVASスタディなどの代表的なスタディはいずれも、CYCLOPSスタディで用いられたレジメン(Ann Intern Med 2009 150 670、経口CYとの毒性・効果比較が目的)を使っている:


  • 15 mg/kg、2週あけて3回
  • そのあと3週あけて寛解後3ヶ月まで
  • 年齢・腎機能で減量(下図)


出典はこちら


 NIHレジメンは回数が少なくて済むが、体表面積の算出が手間だ。また日本のはKDIGOの「0.5g/m2に減」を半分にした、「0.25-0.75g/m2」と減量幅が大きい。

 医師の裁量と経験が反映しやすくなっているともいえるが、その根拠は不詳だ。日本人患者に欧米量のクスリを投与すると効きすぎることは確かに多く(フロセミドなど)、経験的な「1/2の魔法」なのかもしれない。


公開が待たれるディズニー映画、『1/2の魔法』
(出典はこちら

 
2. リツキシマブによる維持療法


 ANCA関連血管炎に対するリツキシマブの維持療法を延長したMAINRITSAN3スタディの結果が、きょう米国内科学会誌に発表された(doi:10.7326/M19-3827)。フランスの39施設が参加したものだ。

 対象は、ANCAの種類(PR3-ANCA:MPO-ANCAは約7:3)、初期治療の種類(シクロフォスファミドが6割、リツキシマブ約4割、1例がメソトレキセート)を問わず、リツキシマブ維持療法(6ヶ月ごと0.5gを4回)を受けた97例。約半数がPSL 5mg/dを処方されていた。

 彼らをランダム化し、介入群は同様のリスキシマブ維持療法(4回、18ヶ月)を延長した。なお、介入群もプラセボ群もmPSL100mg・アセトアミノフェン1000mg・クロルフェニラミン5mgの前投薬をうけた。すると、延長28ヶ月後の無再発率は以下のようであった。




 有害事象の総報告数に有意差はなかったが、敗血症性ショックの発症は介入群にのみ2件あった(肺炎の発症は介入群で1件と、プラセボ群の4件より少なかった)。延長を正当化できるか、リスクと利益は考えなければならない。

 またスタディ患者は若く(平均63歳)、寛解後で腎機能も良好(eGFRは約60ml/min/1.73m2)、RTXの忍容性も高かった。やはり、日本でよく診る症例には、なんとなく「ステロイド±アザチオプリン(ミゾリビン)」が安全なようにも思える。

 しかし、同じ時代に「それで本当にいいんですか?」という文脈で行動し発表している人たちがいるのもまた確かである。その流れのなかにアバコパンがあり(こちらも参照)、リツキシマブがある(アザチオプリンと比較したスタディは、NEJM 2014 371 1771)。

 米国内科学会誌は「標準的なケアがまた変わる(again, changing the standard of care)」と題するエディトリアルを載せているが、こうした流れが日本の標準的なケアに(どんな魔法をかけて)波及するか、注目したい。

 


2020/06/01

それぞれの人生を歩む

 とある日の慢性腎臓病の外来

 1人目、55歳男性, 糖尿病性腎臓病でeGFR 12 ml/分/1.73m2
 2人目、58歳男性, ADPKDでeGFR 10 ml/分/1.73m2
 3人目、98歳男性, 糖尿病性腎臓病でeGFR 8 ml/分/1.73m2
 
 3人とも、腎代替療法を考える時期である。

 皆が全く別の物語の中で生きているなと感じるのが、腎代替療法の説明の時だ。腎代替療法とは血液透析、腹膜透析、腎臓移植である。この説明の時に、これら腎代替療法のそれぞれの利点や欠点を話しながら徐々に方針を決めていく。

 患者さん本人はもちろん身の回りの人も含めた話し合いになり、普段の外来では窺い知れなかった患者さんの一面も知ることができることが多い。

 ただし、具体的な療法選択の話をする前に最初に確認しなければいけないことがある。

 そもそも患者さんの治療のゴールは何かということである。ここを意識して確認しておかないと、皆で同じ目的に向かって進んでいくことは難しい。

 中には、「腎代替療法をそもそもやるつもりがない。」という人もいる。

 ただ、「やりたくないのであれば、やらない。」ではなく、「どうしてやりたくないのか?」を具体的に確認していく作業が必要だと思われる。実は単なる勘違いだった、質問の意図が理解できていなかったということもある。

 単純にやりたくない→ではやらないという形にならない、非常にナイーブな問題を抱えている。これまでも日本透析医学会から「透析の開始と継続に関する意思決定プロセスについての提言」が2014年に発表されていたが、今回その情報がupdateされた(透析会誌 2020 53 173)。

 いろいろと考えることや得ることがあるので、この提言を隅々まで見ることをお勧めする。

 透析の選択に関わる人は必読と思われる。






提言に記載されている、考え方のフローチャート

2020/05/29

電解質異常は好きですか? 代謝性アルカローシス+低カリウム血症

今回も電解質・酸塩基平衡異常について考えてみたいと思う。

症例:
34歳男性(マリファナ常習者)
嘔気と嘔吐で来院。嘔吐は5回/日で4日間持続。吐物に血清のものはなし。
食事はこの2日間取れてない。下痢はなく悪心を伴う腹痛のため入院。
マリファナは入院2日前に使用したのが最後で、それまでは2−3日ごとに使用していた。

身体所見
血圧:131/87mmHg、心拍数:142回/分、呼吸数:20回/分、体温:36.5℃、SpO2:97%
体重:58kg
倦怠感、質問は答えられるが無気力、軽度意識混濁、病院に居ることは言えるが、名前や曜日をいうことは困難、年は答えられる。
咽頭は問題なく、粘膜は湿潤、皮膚のツルゴールは正常、下肢浮腫を認める。

救急外来で1L補液投与

採血検査:(来院時補液投与前)
BUN 46mg/dL、血清Cr:4.3mg/dL、Na 121mmol/L、K 2.3mmol/L、 Cl <50mmol/L、CO2 43.6mmHg、血糖 88mg/dL、白血球 3400/μl、Hb 15.3g/dl、Ht 45.2%、血小板 41万/μl

採血検査:(3ヶ月前)
BUN 7mg/dL、血清Cr:0.91mg/dL、Na 137mmol/L、K 3.2mmol/L、 Cl 105mmol/L、CO2 26mmHg、血糖 81mg/dL

ここまでである異常所見としては
急性腎不全、低カリウム血症、低ナトリウム血症

心電図:

心電図は前のと比較することが最も大切であるが、この心電図では比較対象はない。所見としては、
・U波出現(T波の後に出現する陽性波で、基本的にT波を超えることはない。T波の半分を超えて高くなる場合は低K血症を考える。)
・T波の陰性化
が認められる。

低カリウム血症でみられる心電図としては、
U波(胸部誘導で見られる、血清K 3mEq/L未満ではU波の方が高くなる)、QT延長、T波の平坦化/陰転化 、ST-T低下、異所性心室興奮(VT、VF、PVC。AVブロックに関してはまれ)
がある。

その他の検査所見(補液投与後)
血液ガス(静脈):pH 7.61 HCO3 56 CO2 7.1
乳酸 >15mmol/L、血清浸透圧 263mOsm/kg、尿中浸透圧 211mOsm/kg、尿Na 37mEq/L、尿K 36mEq/L、尿Cl <20mEq/L、Uurea 150mg/dL、Ucr 71.4mg/dL
FeNa 1.8%、FeUrea 19.6%、FeK 9.4%、Urine K/Cr比 5.7mmol/mmol

*FeNa<1%は腎前性を示唆、しかし前提として乏尿を呈するAKIの場合。FeNaはGFRに反比例して基準値が増加する。なので、GFRが仮に100であれば、純粋に腎前性の場合には0.1%未満が腎前性を示唆する。また、利尿剤使用下では影響を受けにくいFeUreaを用いる。FeUrea(FeUN)<35%で示唆する。
*UK/Cr <1.5mmol/mmol(13mEq/g)は正常値である。FEKの基準値は4~16%であるが、腎機能低下すると反比例にFEKの基準値は上昇する。

話が脱線したが、症例の現時点でのものを分析してみる。
・代謝性アルカローシス
・AG開大性代謝性アシドーシス(乳酸アシドーシス )
・低カリウム血症
・低ナトリウム血症
・急性腎不全

では、この患者の病態に関して少し解説:
①:嘔吐によってなぜ代謝性アルカローシス?の理由
通常は胃酸のH+を十二指腸でHCO3が産生され、中和をしている。
嘔吐では、
嘔吐によるH+喪失→緩衝作用のあるHCO3が増加し代謝性アルカローシスが生じる。

②:この症例では、なぜ低カリウム血症になったのか?
嘔吐によって失われたのか?と思うかもしれない。
下記の図を見ていただきたい。腸管液に含まれている電解質は、NaClとHClがほとんどで、Kの含有はわずか5-20mEq/L程度である。
この患者は血清Kが2.4mEq/Lなので、200~400mEqのKを失う必要があり、これには仮に消化管液のKが20mEqだとしても10~20Lも嘔吐をしないといけない。これは現実的には考えられない。

ではどこからと言うと、この症例では、カリウムは尿から失われている。尿でのカリウム喪失は遠位尿細管や集合管で行われる。その中心となるのはアルドステロンである。高アルドステロンによって、ENacやNa/K ATPaseが働き、Kの排泄が促進される。また、アルドステロンはPendrinやH/K ATPaseも活性化させる。
Roy et al, CJASN 2015.
この症例で低カリウム症例を引き起こした原因としては、下記が考えられる。
・代謝性アルカローシスで、多くの重炭酸が濾過され近位尿細管での最大再吸収量を上回るとNaHCO3として遠位尿細管にいき、Na流入量増加で尿にK排泄が増加する(フロセミドなどで低カリウムになる原理と同じ。)
・低クロール血症もvoltage gated Kチャネルによって、電位平衡を保つためにK排泄を惹起する。



③:代謝性アルカローシスと低カリウム血症の関連性は?
両者とも密接に関連している。
これは、代謝性アルカローシスの原因と維持する機構を再認識する必要がある(詳細な解説は聖書を参考にしていただきたい)。
原因としては、
・消化管からのH+喪失
・尿からのH+喪失
・細胞内へのH+移行
・アルカリの投与

維持としては、
・有効循環血液量減少
・低カリウム血症
・低クロール血症
・急性腎不全
・高アルドステロン血症
がある。

非常に関連が強いことがわかる。

④:代謝性アルカローシスの治療目標と症状
重度代謝性アルカローシスで生じうる症状の痙攣、意識混濁、心血管拍出量低下や血管狭窄などがある。これらの症状が、代謝性アルカローシスよりも低Cl血症によって惹起されていると考えている人もいる。代謝性アルカローシスに関しては、治療目標として早期にpH7.55未満、血清HCO3 40-50未満にすることを推奨している。


⑤:この症例の治療に関してはどうすればいいか?
→安易にNaCL+KCLの補液と選択してしまっていないか?

この場合に注意なのは、低ナトリウム血症の存在である。
低ナトリウム血症の補正の際にカリウム補正はナトリウム過剰補正のリスクになる。つまり、この症例でカリウムも補正しつつ、NaCLでNaの補正もすれば、ODSのリスクが増してしまう。なので、この症例ではKCLのみを治療選択して用いる必要がある。

□この症例の診断は?
カンナビノイド過多症候群(日本国内でもカンナビノイドは大麻やマリファナ、脱法ハーブとしても使用されている。)に伴うCl喪失性代謝性アルカローシス、低カリウム血症、低ナトリウム血症、急性腎不全である。

カンナビノイド過多症候群は朝方の嘔吐が7割を占める。暖かいシャワーを浴びることで90%の患者が症状改善すると言う特徴がある。

代謝性アルカローシスのこと、低カリウム血症のことナトリウム過補正のことを含め盛り沢山に学べるケースであった。



2020/05/22

電解質異常は好きですか?代謝性アシドーシス症例を検討。

腎臓内科領域でどこが好きかに関しては人それぞれだと思う。
私は全然できていないことは承知しているが、電解質異常が大好きである。

皆さんもご存知のようにSkeleton Key Group(全世界の腎臓内科フェローが電解質異常に対して症例を出しているグループ)が、いくつか電解質異常について症例を提示している。
とっても教育的で興味深いのでぜひ参考にしてもらいたい。

今回は、このグループからの症例で自分なりにも解釈を加えながら解説していきたい。

症例:
30歳女性で鎌状赤血球症がありハイドロキシウレアで治療、HIVがあり抗レトロウイルス薬で治療。2年前のCD4は410 cell/microL。現在、急性の腹痛、胸痛、両側のすねの痛みで入院中。
内服薬:テノホビル(HIVの薬)、ラミブジン(HIVの薬)、エファビレンツ(HIVの薬)、ヒドロモルフォン(オピオイド系鎮痛薬)、市販薬の内服はなし
痛みは高流量酸素投与とヒドロモルフィンでコントロールされていた。痛みはSick cell crisisによるもの(Sick cell crisisは血管閉塞によって疼痛が生じるものである。)

入院時採血
Alb 4.0mg/dL、BUN 10mg/dL、血清Cr:0.7mg/dL(GFR 78mL/min/1.73m2)、Na 140mmol/L、K 3.0mmol/L、 Cl 115mmol/L、HCO3 15mmol/L、血糖 90mg/dL

血液ガス検査
pH 7.38、pCO2 30mmHg、pO2 138mmHg(nasal 5L)、HCO3 14mmol/L

まず、この症例にある電解質異常と酸塩基平行異常を見てみる。

採血検査からは、低カリウム血症、高クロール血症

血液ガス検査からは、代謝性アシドーシスがあり、AG(Anion gap)はNa-(Cl+HCO3)で計算すると10となり、AG非開大性の代謝性アシドーシスがあるとわかる。
代償に関しては、予想pCO2=1.5×HCO3+8±2で計算すると、29±2となり実際は30であり予想範囲内である。
なので、この症例ではAG非開大性の代謝性アシドーシス、低カリウム血症となる。

皆さんはこの症例から何故このような電解質異常が生まれたのかわかるだろうか?

代謝性アシドーシス+低カリウムの原因として一番多いのは、下痢であるがこの症例では下痢は有していない。次の鑑別としては尿細管性アシドーシスがあがる。
内服薬の中でテノホビルはproximal RTAを起こし、鎌状赤血球はdistal RTAを起こしうる。

非AG開大性代謝性アシドーシスの原因として語呂での覚え方がある。
一つはHARD UP(生活が苦しいという意味)
Hyperventilation(過換気)
Acetazolamide(アセタゾラミド)
 Renal tubular acidosis(尿細管性アシドーシス)
Diarrhea(下痢)
Ureterosigmoidostomy(尿管S状結腸瘻)
Parental Saline(NaCl大量輸液)


もう一つはUSED PART(中古という意味)
Utero enterostomy(尿管結腸瘻)
Small bowell fistula(小腸瘻)
Extra chloride(NaCl大量輸液),
Diarrhea(下痢)
Pancreatic fistula(膵液瘻)
Addison's disease(アジソン病)、Acetazolamide(アセタゾラミド)
Renal tubular acidosis(尿細管性アシドーシス)
Tenofovir and topiramate(テノホビルやトピラマート(抗てんかん薬))

続いて、非AG開大性代謝性アシドーシスの際は尿中アニオンギャップ(尿AG)と尿浸透圧ギャップの計算は鑑別に重要になる。

尿AGは尿中アンモニアの排泄の指標となる。
尿AG=尿Na+尿K−尿Cl
    =未測定陰イオン−未測定陽イオン(アンモニアイオンも未測定陽イオンに含まれる)

つまり、代謝性アシドーシスの際には尿から酸がしっかりと排泄される(=尿アンモニアが排泄される)ので、尿中AGは負(<0)になる。正常は−20〜−50μEq/Lである。


尿中AGが正(>0)になる場合には、遠位型RTAなどの尿アンモニア排泄障害を考えなければならない。

この有用な尿中AGであるが、限界があるということも知っておく必要性がある。
・未測定陽イオン(ケトン、重炭酸、馬尿酸(トルエン中毒)など)の存在が尿AGを上昇させている場合
・リチウム高値が尿AGを低下させている場合
・腎機能低下でアンモニア排泄が抑えられている場合
などは、尿中AGの信頼性が落ちることも認識しておく。

その場合には尿中浸透圧ギャップが非常に鑑別に有用な手段になる。

尿浸透圧ギャップ=測定尿浸透圧 − [2×(UNa+Uk) + UGlu/18 + Uua/2.8]
となり、正常は10〜100mOsm/kgである。尿中アンモニアは尿浸透圧ギャップの半分であり、正常は5〜50mmol/Lになる。
なので、
尿浸透圧ギャップ/2 < 150では、尿アンモニア排出ができていないので腎臓由来の遠位型RTAを鑑別にあげる必要がある。
尿浸透圧ギャップ/2 > 400では、尿アンモニア排出が問題なく腎臓以外の原因(下痢など)を考える必要がある。

なので、トルエン中毒や糖尿病性ケトアシドーシスでは積極的に尿浸透圧ギャップを用いる必要がある。

尿浸透圧ギャップの限界としては、
・ウレアーゼ産生菌がいる場合には尿中アンモニアと尿浸透圧ギャップの関連が乏しくなる。
・アルコールやマンニトールなどの浸透圧物質の尿中排泄がある場合に尿アンモニアが増加していない割に尿中浸透圧ギャップは大きくなる。
・尿中Naや尿中Kが異常な場合


今回の尿所見としては
尿pH 7.1、尿糖 2+、尿蛋白定量 100mg/dL、尿蛋白/Cr比 0.42 mg/mg、尿Na 130mmol/L、尿K 42mmol/L、尿Cl 94mmol/L

今回の症例では尿糖や尿Uaなどはなく尿浸透圧ギャップは計算できなかったが、
尿AG=尿Na+尿K−尿Cl
          =130+42-94
          =78
となった。つまりアンモニア排泄がうまくできていないことがわかる。

ここで、想起される疾患は尿細管性アシドーシスである。

尿細管性アシドーシスの際に
尿AGが正になるのは基本的にdistal RTAである。

distal RTAでは尿中pH >5.3で、尿中AGが正になる特徴がある。
Proximal RTAでは尿中pH <5.3で尿中AGは負である。重炭酸などの治療で尿中pHが上昇し、尿中AGが正になる。

この症例では、尿中pH7.1で尿AGが正であり、distal RTAと判断する。

採血で下記のものが追加された。
尿酸:2.1 mg/dL
血清リン:2.9mg/dL

ここで、ふと疑問が出る。尿糖陽性、尿酸低下、血清リン低下があり、近位尿細管での再吸収が阻害されているのでは?と考える必要がある。つまり、proximal RTAの存在も考える必要がある。

この症例では画像検査で両側の腎結石を認めた。
distal RTAではアルカリ尿であり、かつ尿中カルシウム 排泄が亢進。それによってリン酸とカルシウムが結合してリン酸カルシウム結石ができたと考える。また、結石形成を阻害するクエン酸が代謝性アシドーシスと低カリウム血によって減少する。それによって、より結石を形成しやすくなる。

最終的に今回の症例は

・鎌状赤血球によるDistal RTA
・テノホビル±鎌状赤血球によるProximal RTA

によって生じていると考える。

今回の症例のように深くアニオンギャップ正常代謝性アシドーシスを考える機会も少ないのではないか?
なので、個人的には非常に勉強になった。


2020/05/21

SIADHの診断、6つの質問

 79歳男性、高血圧と高脂血症にサイアザイド・ACE阻害薬・スタチンを内服中。数週つづく倦怠感と左上肢・顔面の不随意運動あり、精査目的に入院。発熱なし、血圧156/76mmHg、脈拍56/min。体重74.8kg(2.2kg増)、浮腫なし。検査所見は以下のようであった。

Na 123mEq/l
Cr 0.89mg/dl
BUN 14mg/dl
血糖 103mg/dl
尿酸 3.1mg/dl
血清浸透圧 256mOsm/kgH2O
尿浸透圧 720mOsm/kgH2O 
尿Na 124mEq/l

Q:診断は?


 本例はマサチューセッツ総合病院のケースカンファ症例(NEJM 2020 382 1943、バイタル・身体所見は入院前のもの)だが、腎臓内科医なら「SIADHっぽい、不随意運動もあるから脳疾患か?」と診断すること自体は難しくないだろう。

 しかしこのカンファで学ぶべきは、症例提示の後に登壇したシンシア・クーパー先生の明快で美しい診断過程にある。腎臓内科医として、思考過程を(研修医や他科の先生方に)分かりやすく伝えていますか?と問われているかのようだ。

 それもそのはず、クーパー先生は腎臓内科医だが、マサチューセッツ総合病院の総合内科でinpatient clinician educatorとして研修医を教え、ハーバード大学医学部の臨床教育も司る、教育のプロだ(賞も多数受賞している、こちらも参照)。

 そんな先生は、どんな低ナトリウム血症であっても、原因を調べ鑑別を絞るときには、系統的にいくつかの質問に答えていくことにしているという。まずそれらを紹介すると:


1. 高血糖はあるか? 尿素と違ってグルコースには張力(tonicity)があるので、著明な高血糖があれば細胞内液から水を引き込み低ナトリウム血症になる。本例は血糖は100台mg/dlであり、除外できる。

2. 血清浸透圧はどうか? グルコースだけでなく、マニトールやIVIGも張力があるので、細胞内液から水を引き込む。こうした物質があれば血清浸透圧は高くなるが、本例は256mOsm/kgH2Oと低く、除外できる。

3. 腎に異常はあるか? 上記を除外した低浸透圧性低ナトリウム血症では、細胞内外を問わず水・ナトリウムのバランスが崩れている。腎臓は水分摂取量に応じて尿を希釈(濃縮)するが、それには十分な糸球体ろ過量と希釈(濃縮)能が必要だ。

 本例は腎機能正常で、サイアザイド中止後もナトリウム値は不変なことから、除外できる。

4. ADHはでているか? 尿浸透圧が血清浸透圧より高いので、ADHがでている。ADHは通常血清浸透圧が高くないと出ない(センサーがある)が、本例のように血清浸透圧が低くても出ているのは異常だ。その原因としてまず、体液減少(volume depletion)がないか確認しなければならない。

5. 体液量はどうか? 本例では、バイタル・体重・身体所見に明らかな体液減少はみられない。微妙な体液減少と適切体液量(euvolemia)を見分けるのは難しいが、もし体液減少があればRAA系が亢進して尿Naは低くなり(本例は100mEq/l以上)、尿酸値も高くなるはずだ(本例は4mg/dl未満)。また、入院後の輸液でもナトリウム値は上がらなかった。

6. 副腎不全・甲状腺機能低下症はないか? 血清浸透圧が低く体液減少がないにもかかわらずADHが出ているのだから、不適切ADH分泌症候群(SIADH)に矛盾しない。ただし、ここに挙げた2疾患は同様の所見を呈することがある。本例でも検索され、除外された。


 このあと先生はSIADHの原因を①悪性疾患、②肺疾患、③脳疾患、④薬剤、⑤その他(痛み・嘔吐・激しい運動など)に大別した。本症例では③が疑われたが、脳MRI所見は非特異的で、不随意運動はナトリウム値でも説明がつかなかった。

 そこで、"face"、"arm"、"dystonic"、"hyponatremia"の4語でPubMed検索し、こちらの診断に至ったことは、すでによく知られている通りだ(日本腎臓学会のメーリングリストでも、先週紹介された)。




 
 いかがであろうか?よく目にするアルゴリズムを正統的に解説してくれる安心感、そしてPubMed検索というクライマックスで迎える衝撃の結末。筆者のように「キラキラ星変奏曲がじつはどれだけ凄い曲か」をプロのピアニストに解説されたかのような感銘を受けたかはともかく、こう思った方は多いだろう。


 クリニシャン・エデュケーターって、かっこいい!



Lang Langさんによる解説
動画はこちら


 

2020/05/20

CKDにとって高カリウムの食事をすることは良いこと!?

今回は、Consの立場にたって前回とは違った立場で見てみたい。
前回、CKDの高カリウム血症を改善させるための手段として、内服薬にフォーカスを絞って話をしたと思う。今回は、CKDにとって高カリウムの食事を取ることが悪くないのでは!?ということについて触れたいと思う。

まず、前提としてカリウムが豊富な食事摂取が健康にとっていいという観察研究や介入研究が多数存在している。
− Hypertension 2014:カリウム 摂取により高血圧の頻度を減らしたという報告。
NEJM 2014:カリウム 摂取量が多くなると高血圧の割合改善。ナトリウムも検討
NEJM 2014:カリウム 摂取量が多くなると死亡率・心血管疾患割合減少。ナトリウムも検討
Stroke 2014:閉経後女性でカリウム 摂取量増加とともに脳卒中や虚血のリスクを減少。


このように高カリウム摂取が健康にいいと言われている反面、CKDにおける高カリウム血症の懸念は悩ましい部分である。


まず、食事でカリウムを摂取して、腎臓がどのようにカリウムの調整を行なっているか(Potassium handling)を見てみる。

下図にも提示するが、腎臓に到達したカリウムはほとんどが近位尿細管(60-80%)とヘンレ上行脚の太いところ(20-40%)で再吸収される。

尿細管にカリウムが排出されるのはアルドステロンに反応して遠位尿細管から排出される。
遠位尿細管のチャネルの主役はENacとROMKとMaki-Kがある。
・ENacでは、Na再吸収が主な働きである。Na再吸収は、①尿細管管腔の流速増加、②遠位尿細管へのNa量増加、③アルドステロン増加によって再吸収量が増加する。
・ROMKはK排泄が主な働きになる。K排泄は、①尿細管管腔の陰性荷電、②アルドステロン作用によって尿細管へのカリウム排出を増加させる。

上記から高カリウム血症の治療で、自尿がある患者でフロセミドが治療を用いる理由を考えてみる。
(フロセミドによって、ヘンレループのNKCC2チャネルの阻害にが起こりNa+とK+の再吸収が阻害。遠位尿細管への流速増加とNa量増加しENacが働き、Naの再吸収→遠位尿細菅腔の陰性荷電→K排出が生じる。尿流量の増加でMaxi-K(BK)チャネルが活性化しK排出が生じる)

ここからは数個質問形式で少しお話しする。
Q:食事摂取で血清カリウムは増加するのか?
食事でのカリウム摂取によって、血清カリウムや血清アルドステロン濃度が増加する前にカリウム尿やナトリウム尿が排出される。これは、摂取によって遠位尿細管のNCCチャネルの阻害が生じ、尿流量の増加や遠位尿細管のナトリウム量の増加が生じカリウム排泄が増えるせいだと考えられている(KI 2013:マウスの実験から)。


Q:カリウムは腎不全の人にとっていいのか?
カリウムが多い食事(フルーツや野菜など)は、繊維やアルカリや微量元素など腎不全の人にとって必要なものが豊富である。代謝性アシドーシスになることで、高カリウム血症を助長するし、腎不全の進行にも寄与することが示唆されている(CJASN 2009)。
また、カリウム含有が多いものに含まれいてるアルカリの摂取量増加は腎結石のリスクを減少させ、重要な役割を果たしていると考えられている(CJASN 2016)。

Q:カリウム摂取量は直接的に血清カリウム増加につながる?
カリウム摂取量と血清カリウムの増加は決して単純に平行というわけではない(カリウムが多いものには炭水化物も多くインスリンも働くなどのため)。

Q:カリウム摂取量とCKD進行の関連は?
The PREVEND studyは尿中カリウム排泄(カリウム摂取量の代替マーカー)の低下がCKDリスク増加と関連していると報告している。

では、尿中カリウム排泄とCKDの進行に関しての報告を別のStudyでも見てみる
CRIC study (JASN 2016):尿中カリウム排泄量低下がCKDリスク増加に関連
MDRD post hoc analysis(AJKD 2016):上記の関連性はない。
KNOWN-CKD(CJASN 2019):尿中カリウム排泄量低下がCKDリスク増加に関連
KNOWN-CKD
上記からわかるように尿中カリウムをマーカーとして、直接的にカリウム摂取量で検討している研究は少ない。現在進行中の研究のK+in CKDはCKD3b/4の人を対象に経口カリウム摂取の腎保護作用を見ている研究になる。

主旨は違うが、高血圧によるCKDの代謝性アシドーシス治療に対して、重炭酸治療と野菜やフルーツなどのカリウム摂取治療と通常治療を比較したものがある(CJASN 2013KI 2014)。この研究では重炭酸投与とフルーツ野菜など投与した群ではアシドーシスの改善と腎機能低下が抑えられたという報告がある。ただ、この研究ではカリウムが上がるリスクがある糖尿病患者、投与前にK4.6mmol/L以上は除外している。


CKD患者やESKD患者のカリウム摂取をすることの有用性は、今後のRCTを見てみないとはっきりは言えないが、個人的にはCKD患者であれば、
・高カリウム血症がない場合(Kの数値としては前の論文の4.6mmol/Lをカットオフとするのはいいかも)
・食事以外で、代謝性アシドーシス、コントロールが悪い糖尿病がある場合、組織の破壊が起きている、便秘がある、Kを増加させる必要のない薬剤を内服している場合にはそれらの介入を行う。
上記がクリアできれば、栄養相談もしながらカリウム摂取の過度な制限はかけなくてもいい可能性が高い(透析患者ではCKD患者に比べれば、高カリウム血症のリスクはあがる)。

もし、カリウムが上がっても先に述べた薬も使いながらカリウムを過度に制限しないような生活を過ごすことが、体にとっても非常に大切なことなのかもしれない。



2020/05/19

外科医の覚悟に触れる

 「覚悟」という言葉を医療で最もよく聴く分野は、心臓血管外科だろう。そうした著書や番組も多数ある。心臓も大動脈も患者に1つしかないし、失敗すれば患者はその場で死んでしまうのだから、当然だろう。

 「覚悟」には、技術の習熟はもちろん、適応や術式の決定、想定外事態へのトラブルシュート能力なども含まれる。また「ハートの強さ」や「胆力」も強調され、名心臓血管外科医はサムライに例えられることすらある。

 内シャント造設術も、手術であるからには、当然このような「覚悟」が求められる。心臓や大動脈と同じように、手術に適切な皮静脈が1本しかないこともあるし、バスキュラーアクセスの確立は患者の生死に関わる大問題だからだ。


 ・・だから、たとえ吻合するはずの皮静脈が下図のように前腕中程で破れていても、なんとかしなければならない。




 「術前評価が甘かったかな」「静脈の拡張圧が強すぎたかな」・・反省はもちろん必要だ(シャント予定肢にルート・採血禁したかの確認も!)。じっさい筆者は直ちに反省し、心と頭がフリーズしかけた。

 しかし幸いなことに、その前日に心臓血管外科医の本(書名もずばり『心臓外科医の覚悟』、山本晋著)を読んでいた。そこで、「登山と一緒で、遭難してもなんとか安全に下山してこなければならない」と気持ちを持ち直すことができた。

 で、どうするか?

 とりあえず、①他につなげる皮静脈が近くにないか探すか、②損傷部位までなんとか露出させて修復するか、③肘側で一から作り直すか、を思いついた。

 


 結局①の皮静脈はなく、③は侵襲も流量も増えてしまう。さいわい損傷部位が皮切創からアプローチ可能だったため②を選んだが・・正直初めての経験だ。でも、狭窄したら「PTAまたは③」と、覚悟を決めた。

 ベストを尽くして7-0プロリン糸で薄く単結節で縫い、漏れは止まった。血管鉗子を解放後の数時間はスリルが不安定だったが、そのあと安定し、さいわい1-2週間で穿刺使用可能となった。

 こんなことは、もちろん「ハドソン川のキセキ」くらい稀でなければならない。しかし、手術のたびに「覚悟」は必要だと痛感した。手術もできるようになりたい!という読者には、手技のコツなどの教科書だけでなく「覚悟本」にも触れることをお勧めしたい。



宮本武蔵『五輪書』を元に作成