2022/10/10

尿路結石の治療の知識と最近の話題(サクサクと短く)

お世話になっています!

期間がまた空いてしまっていますが、今後も少しずつ投稿していきたいと思います。


今日の話題は、尿路結石について。

尿路結石に関しては、数年前のTEDでとても五分くらいでいい動画があったので、貼り付けておきます!

尿路結石の動画(TED-ED)

尿路結石には、治療と予防があります。


治療は結石の大きさに左右されます。

5mm以下:自然排石が期待できるので、水分をしっかり取ってもらいます。

5mmより大きく10mm以下:4週まではタムスロシンなどを用いて、石が排石しやすいようにします。タムスロシンが使用できない場合は、他のα阻害薬を用います。

→4週経過しても石が落ちない場合などは泌尿器科にコンサルトします。

結石が10mm以上や上記のように改善しない場合:治療手段としては、下記があります。少しだけ簡単に説明します。

・ESWL (体外衝撃波結石破砕術:extracorporeal shock wave lithotripsy)

体の外より衝撃波をあて、体に傷をつけることなく結石を粉々に砕き、体の外に流しだす治療法です。


・URS (経尿道的腎尿管結石破砕術):本邦ではTUL (経尿道的尿管砕石術:Transurethral ureterolithotripsy)と言われます。

下半身麻酔または全身麻酔をした後に内視鏡(硬性あるいは軟性尿管鏡)を尿道から挿入し、内視鏡の先端を尿管あるいは腎盂内の結石にまで導き、結石を直接観察しながら結石を破砕し、破砕された結石を体外に摘出する手術方法です。破砕には細い内視鏡でも使用でき、硬い結石でも破砕効果の高いホルミウム・ヤグレーザーを用います。




・PNL(経皮的腎結石砕破術:Percutaneous nephrolithotripsy)

背中に小さな穴を開け、そこから内視鏡を入れ、腎臓の結石を砕石し、取り出します。比較的大きな腎結石に対して行われることが多いです。



・腹腔鏡下結石除去

行われることは稀です。


予防は、下記のものが挙げられます。

・水分を十分に摂る(1日尿量を2L以上にすることで結石再発リスクを減少できる)

・カルシウムを摂る(カルシウムは腸管内でシュウ酸と結合して便に排泄させ、尿中シュウ酸を減少)

・クエン酸を摂る(シュウ酸とカルシウム、リン酸とカルシウムが結合するのを抑制、また尿中pHを上昇させ酸性尿を是正させ尿酸結石、シスチン結石の予防に有効)

・シュウ酸摂取量を抑える(ほうれん草、キャベツ、ブロッコリー、竹の子、バナナ、玉露や抹茶や煎茶などのお茶、ココア、チョコレート、コーヒー、紅茶などを控える)

・ブリン体の多く含まれる食品や飲料を控える(プリン体は体内で代謝され尿酸となり、過剰摂取で高尿酸血症や酸性尿を引き起こす。)

・動物性のタンパクや脂肪の摂取を控える。(動物性タンパク質が多くなると尿中尿酸が多くなる、動物性脂肪が多いと腸内脂肪酸が増えてカルシウムと結合し、シュウ酸がカルシウムと結合困難になり、尿中にシュウ酸が多くなり結石ができやすくなる)


前置きが長くなってしまいましたが、今回TULを行った際に主要な大きな結石だけでなく、小さな腎結石もしっかりと回収したほうが、患者さんのアウトカムとしてはいいのか?というのが、NEJMに出ました。

わかりやすい短いビデオは、こちらを参考にしてください!


小さな腎結石をとることで、再発率の低下に寄与することが証明されています。ただ、除去のための処置時間は長くなり、救急外来に来る頻度は変わらないという形でした。

ただ、結石の患者さんにとっては痛みが一番辛いので、再発を防げることは重要かもしれません。


内科医が、泌尿器科の先生に結石除去のコンサルトをお願いする際に、小さな石を見つけた際に、これも取るのか?聞いてもいいかもしれませんね。



2022/03/06

これは尿細管障害ですか??

すごく久しぶりの投稿になってしまってすみません。

この記事を書いている時は、コロナ感染も多い状況で皆さまも本当にお忙しい時期だなと思っています。何年後かに、この時の記事を見て、そんな忙しい時期もあったんだなと振り返れればなと思っています。


腎機能障害とどのように判別していますか?

多くは血清CrからのeGFRを用いて判断していると思います。CKD評価に用いられる尿Alb/Cr比も用いることはありますが、これらの評価は糸球体の障害などを反映している場合が多いとされています。

既知のように糸球体の障害だけが、決して末期腎不全の予後に関わっているわけではないです。


尿細管間質の障害や繊維化も腎不全の予後に関連していることが知られています。ただ、この部分の障害は腎生検によって確定診断される場合が多いと思います。しかし、腎生検ができない症例もいて、尿細管間質障害の判断に血清や尿中バイオマーカーが何十年もの間研究されています。

今回は、AJKD2021の論文が非常によかったので、それを踏まえてまとめたいと思います。


皆さんは、このバイオマーカーを日常臨床でどのように使用していますか?主には、疾患の診断や予後予測、治療適応の可能性の決定に用いられると思います。



尿細管バイオマーカーは2つのカテゴリーに分かれます。

・組織障害や修復を直接的に反映するバイオマーカー

 ーKIM-1(kidney injury marker-1)、EGF (Epidermal Growth Factor)、MCP-1(Monocyte Chemoattractant -1)など

・尿細管細胞に関与するものを測定するバイオマーカー

 ーα1-マイクロアルブミン(A1M)、馬尿酸、ウロモジュリンなど

このバイオマーカーに関しては、AJKD 2021/5の論文でも触れられています。


尿細管マーカーに関しては、2018年にSPRINT試験のコホートデータを用いて、978人のeGFR<60mL/min/1.73m2の参加者に対してみているものがあ理ます。この研究では、8つの尿中バイオマーカーをみていますが、厳密に血圧コントロールを行なった群でeGFR低下が認められたが、尿中バイオマーカーに関してはeGFR低下があるにも関わらず増加はしませんでした。また、これはACCORD試験のコホートデータでも同様の結果でした。


尿中マーカーに関しては一つの尿中バイオマーカーを使用しての診断意義や予後予測に関しては難しいとされています。ただ、複数のマーカーを用いることで意義が出る可能性はある可能性があるとされています。


なかなか使い分けが難しく、今後も臨床にどのように生かせるかを考えながらおこなえるようにしていきたいと思っています。





2021/11/26

症例から考える電解質異常

 今回は症例から酸塩基平衡異常と電解質異常について考えてみる。


症例:

50歳男性、経口血糖降下薬使用中で、COVID-19による呼吸不全で救急搬送。挿管管理が必要と判断され、救急外来で施行。胸部CT所見上は、両側肺野の陰影を認めARDS(急性呼吸急迫症候群)の所見が有り、集中治療室に入院。ノルエピネフリンとバソプレッシンを血圧維持に使用、鎮静目的でプロポフォールを使用した。

入院3日目に腎臓内科医が急性腎不全と代謝性アシドーシスにてコンサルト。

入院3日目データ (入院初日)

Alb 4.0g/dL (4.2)、Na 133 mEq/L (134)、K 3.8mEq/L(3.7)、Cl 97mEq/L(97)、HCO3 17mmol/L (23)、BUN 31 mg/dl (14)、Cr 1.7mg/dl (0.8)、血糖 133mg/dl (123)


コンサルトを受けて、何が異常と考えるか?

まずは、代謝性アシドーシスの悪化と新規の急性腎不全があることを異常と捉える。そして、おそらくは循環不全もあるので、その影響?と考える。


続いて何を検査するか?

*血液ガス検査を行う。

pH 7.14、pCO2 39mmHg、pO2 80mmHg、HCO3 17mmol/L


では、この血液ガス異常の解釈は?

① pH 7.14でありアシデミアの状態と判断。アシデミアの原因として、HCO3 16mmol/Lであり、代謝性アシドーシスによって起こされている。

② アニオンギャップはどうか? アニオンギャップ= Na- (Cl + HCO3)

なので、AG = 133 - (97 +17) →19

AG開大と判断する。

③ 代謝性アシドーシスに対しての呼吸性代償はしっかり働いているか?

予想pC02 = [(1.5 × HCO3) +8] ±2 なので、予想pCO2は30~34となり実測が39であり、呼吸性アシドーシスの併存があることがわかる。

④補正HCO3の計算(ΔAG/ΔHCO3でも可)。隠れた酸塩基平衡異常がないか?

補正HCO3 =実測 HCO3 + ΔAG

補正HCO3 = 17 + 7 →24であり、他の隠れた電解質異常はなし。


この症例の電解質異常はAG開大性代謝性アシドーシス+呼吸性アルカローシスとなる。


この症例のAG開大の原因は?

AG開大性代謝性アシドーシスの鑑別にGOLDMARK (LANCET 2008)がある。

Glycols (ethylene, propylene)
Oxoproline
Lactic acidosis
D-lactic acidosis
Methanol
Aspirin
Renal Failure – sulfate, phosphate
Ketoacidosis
Propofol Infusion Syndrome


この症例の場合の鑑別は?

・腎不全

・プロポフォール注入症候群(PRIS)

・糖尿病ケトアシドーシス

この症例では、血糖131mg/dLであり急性腎不全に加え、硫酸塩やリン酸塩の蓄積はなかった。βヒドロキシ酪酸: 2.9mmol/L。そのため、PRISが原因?と考えられた。

また、呼吸性アシドーシスに関してはCOVID19感染による影響が考慮された。


では、PRISとは何か?(参考資料はこちらがわかりやすい)

PRISは稀ではあるが、高容量のプロポフォールの使用によって引き起こされるものになる。48時間以上4mg/kg/hr以上の使用はリスクとなる。症状としては、徐脈や横紋筋融解症、代謝性アシドーシス、腎不全を引き起こし、死亡に至る。ATPが低下し、ピルビン酸が増加し、乳酸が増加する。

この症例では、乳酸の増加はなくPRISに関しては??となってしまった。



入院4日目:プロポフォールは中止

Na 148 mEq/L 、K 4.6mEq/L、Cl 108mEq/L、HCO3 16mmol/L 、BUN 33 mg/dl 、Cr 0.99mg/dl、血糖 210mg/dl 

pH 7.17、pCO2 39.2mmHg、pO2 69mmHg、HCO3 16mmol/L

Anion-Gap: 24、βヒドロキシ酪酸: 6.9mmol/L


入院3日目から4日目で変化したことは?

・AGがさらに開大した。

・プロポフォール中止し、重炭酸製剤投与にかかわらず重炭酸濃度減少

・血糖上昇

・βヒドロキシ酪酸が増加 (2.9→6.9)


この時点での鑑別:

βヒドロキシ酪酸が増加、血糖も上昇していることからケトアシドーシスを考える。


頭の中では・・・

アニオンギャップはβヒドロキシ酪酸によって開大が考えられる。プロポフォールは24時間以上中止したが、改善乏しい。患者さんはもともと糖尿病の管理でSGLT2内服していたが、入院と同時にOFFにしてしまっていた。この症例の場合は正常血糖糖尿病性ケトアシドーシスではないか?インスリン治療も開始してみよう。


インスリン投与後:

Na 153 mEq/L 、K 4.1mEq/L、Cl 111mEq/L、HCO3 26mmol/L 、BUN 43 mg/dl 、Cr 1.0mg/dl、血糖 176mg/dl 

pH 7.43、pCO2 40mmHg、pO2 108mmHg、HCO3 26mmol/L

Anion-Gap: 14、βヒドロキシ酪酸: 0.9mmol/L

となった。


この症例の最終診断は、Euglycemic DKA (EDKA)


EDKAとは?

1973年にMunroらが211症例の正常血糖のケトアシドーシスが報告された。最近の報告だと、2017年に報告がある。EDKAの定義としては、血糖が250mg/dL未満で、アニオンギャップ開大性代謝性アシドーシスがあり、ケトン血症、ケトン尿になる。EDKAの原因は、SGLT2阻害薬の使用、来院前のインスリン接種、食事摂取制限、嘔吐などがある。SGLT2使用患者のCOVID19罹患患者のEDKAの5症例も報告されている。


あまり、個人的にはEDKAの概念を知らなかった。とても勉強になった。


今回のように、血糖が正常でもケトアシドーシスをきたしている例もあるということは、是非知ってもらいたいと思う。



2021/10/11

CKDと貧血を復習〜ESA、HIFについて〜 ESA製剤について

また、前回から期間が空いてしまいました。。

今回は、ESA(Erythropoietin stimulating agents) とHIF(Hypoxia inducible factor) について書いていきます。まずは、EPOについて


EPO製剤について

まず、EPO(Erythropoietin)については、1940-50年代にKrumdieckなどが造血をおこす血漿タンパクを指摘したことから始まった。1957年にJacobsonなどがのちにEPOとして認識される腎臓から産生されるものを認識した。

EPOは組織低酸素に反応して腎臓の間質細胞(Blood 2008)から分泌されるアミノ酸糖タンパク質ホルモンである。

1977年にヒトEPOが貧血患者の尿から抽出されて(J Biol chemi 1977)、1983年に遺伝子のクローン化に成功した。1989年に組み替えEPO(ヒトEPO遺伝子のクリーン化によって作られている)がFDAで承認され使用されるようになった。現在ESAとして知られているものが、組み替えEPO製剤である。



ESAに関しての重要な研究

NHCT:NEJM1998年、1223人の透析患者をHt 42% vs 30%にするようにした場合を比較。Htが高いほうが血管の血栓、死亡率増加、心筋梗塞の比率が増加

→透析患者さんで治療目標は高過ぎないほうがいい

CHOIR:NEJM 2006年、1432人の透析をしていないCKD患者において、Hbターゲットを13-13.5g/dL vs 10.5-11 g/dLで比較。複合エンドポインント(死亡率、心筋梗塞、うっ血性心不全における入院、全ての入院)でHb 13-13.5g/dLの方で増加。

→CKD患者さんで目標Hbは高くする必要なし

・CREATE:NEJM 2006年、603人の透析をしていないCKD患者において、Hbを13-15g/dLにしても10.5-11.5g/dLにしても心血管イベントのリスクは差はなかった。

→CKD患者さんで心臓を守るという意味でも目標Hbは高くする必要なし


EPOを使用するときに効果がない場合

原因:鉄欠乏性貧血、感染やなんらかの炎症、不適切な透析、重度な副甲状腺機能亢進症、悪性腫瘍、血液疾患などを考慮する。

抵抗性であるにも関わらず、増量をし続けることで死亡率の増加(KI sup 2008)、脳卒中を含めた心血管イベントの増加、血液透析アクセスの血栓の増加、高血圧につながることがわかっているので、無闇な投与は控える!


悪性腫瘍患者へのEPO投与(AJKD 2019)

まだ、十分な検証ができていなく結論は出ていないが、多くの研究ではがん患者でEPO投与でHb>12g/dLにすることで死亡率の上昇につながることがわかっている。しかし、癌の進行との関連性はないと言われている。なので、投与に関しては、患者においてリスクとベネフィットを考えて使う必要性がある。


Hbの目標値

KDIGO ガイドラインでは透析患者でESA使用での目標はHb 10-11.5g/dLで、なるべく少ない量のESAで管理する必要がある(鉄欠乏を見逃さないことが重要である。)

しかし、治療目標は個別化する必要もある。若い人に対しては、QOLの点でも高めに設定する場合がある。


次はHIFについて記載したいと思います。少しでも多くかけるように頑張ります!


2021/10/07

3%NaCl

 低Na血症に対する3%NaClの使用といえば一度は皆さん、経験したことがあるだろう。

 低張性低Na血症の場合で中等症から重症いわゆる神経症状を呈している場合は、3%NaClで補正することになる。この投与方法に関しては様々な議論が行われてきた。例えば、どのような方法で?どれくらいの速さで?などである。これらの疑問を含めた3%NaClの使用に関しての報告があった。

 最初に一般論として、低Na血症は自由水が相対的に多い状態と考えられている。細胞1つ1つの単位としては少し膨れているイメージだ。細胞が膨れた場合、様々な臓器がむくむ。低Na血症の症状が中枢神経系に集中している理由は頭蓋骨に囲まれた脳だけは圧を「適切に」逃すことができないためであると考えられる。

 治療の基本は原疾患の治療と自由水の調整である。特に自由水の調整に関して、TargetとLimitを把握しておくことは重要である。

 Targetとは治療の目標を指し、あくまでも症状の改善に重きをおくべきであり、数字のみを治療目標としない。

 limitはNa値の変動の制限であり時間あたりの変化と1日毎の変動に関してである。table2は特に治療のlimitに関してのこれまでの報告がまとめられている。

 では次に3%NaClについて簡単に確認する。

 3%NaClを含む低Na血症への高張食塩水の歴史は意外と古く、1938年ころにHelwigらに100-300mlの高張食塩水を急速投与した報告が最初である。その後、1980年頃には安全なレベル(Na値 120-130mEq/L)を達成するために2mEq/Lずつ上げていくとする目安も報告された。

 3%NaClの合併症としては浸透圧性脱髄症候群:ODSが有名である。イメージとしては、Na値の急速な改善により、細胞の周囲の浸透圧が上昇し、急速に細胞内の自由水がなくなり、細胞が縮んでしまうことで発症する。

 当初は本当にODSは存在する病気なのか?と懐疑的な意見もあったようだが、徐々に認知されてきて、24時間で9-10mEq/Lの補正でも発症したとする報告まで認められるようになった。最終的には2000年のNEJMに症状の改善の目的であれば僅かなNa値(3-7mEq/L)の上昇で十分であり、≦8mEq/L/dayで管理すべきと報告された。

 ODSのリスク因子も同定されており、アルコール依存、肝疾患、低K血症、低栄養、血清Na<105mEq/Lがある。いわゆる慢性的に「調子が悪そう」な状態の場合を指す。

 table1に2013年に米国と2014年に西欧からそれぞれ出された低Na血症の治療の推奨を抜粋されているので参考にすると良いだろう。

 また、この文献には3%NaClに関するいくつかのテーマについても記載されている。

 1. 持続投与 vs ボーラス投与

 利点と欠点が各々存在する。持続投与の利点は投与速度を変更することが容易であり過補正とならない可能性が高いが補正が緩徐になりやすい。

 ボーラス投与は早急に目標が達成される一方で、投与量が固定されていることで過剰補正となる可能性がある。では持続投与 vs ボーラス投与の有用性は?SALSA trialも参考にする。

 2. 末梢静脈投与 vs 中心静脈投与

 施設によっては中心静脈投与のみで許可されていることが使用をためらうことにつながっている。おそらく、3%NaCl自体の浸透圧が高い (1027mOsm/L)ことが判断の根拠にこれまではなっていたが、最近の研究では静脈炎は増えないようである。

 他に、過剰補正のために3%NaClとデスモプレシンの併用療法や、K補正でNa値が上昇することに関してなど記載されており興味深い。

 繰り返しになるが、低張性低Na血症と診断した上で神経症状を呈している場合に3%NaClの使用を考える。使用の際には、ODSのリスク因子を確認した上で、targetとlimit(特にODSのリスク因子を有する症例ではより緩徐に補正)を意識して管理することが重要である。

 *3%NaClの作成方法

①0.9%NaCl 500mlから100ml廃棄し 400ml

②10%NaCl 20mlを6アンプル    120ml 

 ①+②で 3%NaCl 520ml




2021/08/08

CKDと貧血を復習〜原因、病態、鉄について〜

 大変ご無沙汰しています!

こんなに投稿できなかったのは、久々です。執筆陣は元気ですので、ご心配しないでください!


久々の内容はCKD(慢性腎不全)における貧血について少しずつ考えてみようと思います。過去にも投稿はあるので、そちらも参考にしてもらいたいです。


・貧血はCKDの進行とともに必ずくるものなのか?

・・CKD(慢性腎不全)の進行に伴い貧血の重症度は増加するが、CKDの進行と貧血の人数の関係は相関性はなく、患者によって変化する。透析前のCKD患者では約50%が貧血を有していると言われている(Curr Med Res Opin.2004)。


・CKDにおける貧血は影響があるのか?

・・貧血は組織酸素運搬の低下をもたらし、倦怠感や息切れや活動性低下につながる。また、観察研究では貧血は左室肥大(AJKD 1996)、死亡率の上昇(JASN 1999)との関連性が示唆されているが、RCT(NEJM 2009)では貧血の改善に伴い左室肥大や死亡率の改善には寄与していない。これらのことから、貧血ではない他の因子が関連している可能性が考えられている。


・何がCKDにおける貧血の原因になるのか?

・・一般的な原因は下記のものになる(AJKD 2008)。

−相対的エリスロポエチン不足

−鉄欠乏

−失血

−炎症、感染

−隠れている血液疾患

−副甲状腺機能亢進症(透析患者)

−溶血

−栄養不足


・鉄不足の場合には、経口鉄と静脈鉄はどちらがいいのか?

・・安価(経口 8円/錠 vs 60円/1A)で、投与がしやすいことや貧血の改善に効果的であることから経口投与が推奨される。

*少し深掘り

まず、鉄不足は、Absolute iron deficiency (鉄吸収低下による欠乏)とFunctional iron deficiency(機能的鉄欠乏)に分けられる。

Absolute iron deficiencyは消化管出血や手術後の出血、透析によるものなどや稀だが摂取不足によるものが原因となる。TSAT低下、Ferritin低下が特徴。

Functional iron deficiencyは貯蔵鉄はたくさんあるが、ESA製剤を用いても赤芽球への取り込みが悪くなってしまうものである。TSAT低下、Ferritin上昇が特徴。


起こる病態としては、ヘプシジン(鉄の恒常性を調整するもの)上昇に伴う2次性の鉄欠乏であると考えられている(Semin neph 2016)。ヘプシジン上昇は慢性炎症や腎臓からのヘプシジンのクリアランス低下によって生じている。ヘプシジンは細胞の内側から外側へ鉄イオンを輸送する機能を持つ膜貫通タンパク質であるフェロポーチン(Ferroportin)に結合する。それによって、ヘプシジン上昇によって、フォロポーチンの働きを抑制し、鉄の細胞の内在化と劣化を起こす。また、ヘプシジン上昇によって十二指腸や肝臓、脾臓マクロファージからの鉄の放出を抑制する。


・鉄剤の経口投与は飲めない人がいるよどうしよう?

・・一定頻度で、消化器症状で飲めない人がいる。記載時では未発売であるが、Ferric maltol(マルトール第二鉄)は消化器症状は少なめで、効果が高いとのことで、今後に期待はしたい(Ann Pharmacy 2021)。


次回にHIF阻害薬やESAなどについて少し深掘りしていく。

2021/05/05

腎臓病患者における悪性腫瘍スクリーニング

 ある透析患者の回診で、透析歴3年のAさん(50歳)のところで。

自分「Aさん、元気ですか?体調の変わりはないですか?」

Aさん「色々な問題が発生しました。転移性の乳がんが見つかってしまって。」

Aさんは体重減少と食欲低下があり、それの原因検索で疾患が見つかった。


このような経験は、腎臓内科医や透析回診する医師ではきっとある。ただ、その一方で腎臓が悪い人に対しての悪性腫瘍のスクリーニングはどうすればいいのだろうと悩むことも多いのではないか?

一般の人の悪性腫瘍スクリーニングはUSPSTF(U.S. Preventive Services Task Force)のを参考にしていただきたい。また、日本語で2015年のものであるが、J Hospitalistのものでまとめていただいている。ここにおいては、やはり定期的に健康診断を受けることが本当に重要であると考える。

では、腎臓病の人に関してはどうか?

まずは、透析患者からみていこうと思う。これに関しては、2020年のAJKDのまとめがおすすめである。また、日腎会誌2017でも特集されているので参考にしていただきたい。

健常者の場合、本邦では40歳〜90歳において死因の第一位が悪性腫瘍になっている。

透析患者の場合には死因の原因では、心不全・感染症が多く、第3位に悪性腫瘍となっている。悪性腫瘍の割合としては、全死亡の1割ではあるが、予期できる死亡を避けるということは重要である。

ここから、少し小見出しで検討していく。

・透析患者では悪性腫瘍の発生率は何が多いのだろうか?

これに関しては、さまざまな報告がある。

本邦の報告では、消化器癌に関しては、肝臓癌の発生率が一番高く、大腸癌、胃がんがそれに次ぐ。また、腎臓癌の発生率も多く、ACD(Acquired cystic disease)関連のものは有名である。

下表にAJKDの報告をまとめた。やはり、各悪性腫瘍は頻度が増加していることがわかる。


・透析患者はなぜ悪性腫瘍の発生率が高くなるのか?
明確にはわかっていないが、次のものが言われている。
慢性炎症に伴うもの、悪性腫瘍の成長抑制や認識の低下、ヒトパピローマウイルスやB型肝炎、C型肝炎などの癌発生に寄与するウイルスの影響を受けやすいことが原因としてあげられる。
また、先にも述べたACDが腎細胞癌の発生のリスクになっている。

・悪性腫瘍は透析導入後、いつが起こりやすいのか?
これは、各国でさまざまな検討がされている。本邦では消化器癌に関しての報告があり、導入後1年未満が高く、6年目以降には減少することが報告されている。本邦の報告では1年以内が多いが、海外では3-4年での発生が多い報告もある。
これを踏まえても、導入後5年以内はスクリーニングにアンテナをしっかりとはっておくことは
重要であると考える。

・透析患者において、スクリーニング検査で注意することは?
やはり、悪性腫瘍のスクリーニングには検査が必要になってくる。その検査も、通常とは異なるということを把握しておく必要性がある。
下記に表で示している。検査にかなり偽陽性が多いことにも留意する必要がある。



・では、どのようなスクリーニングをしていけばいいのか?
 基本的には下表の流れになるかと思う。下述はするが、まず寿命が10年以上あること、移植候補者、スクリーニングの推奨に合致するものが対象になってくるということは念頭におく必要がある。



スクリーニングを行う際の根底としては
1:生命予後を推定する 
 これに関しては、Choosing wiselyでも生命予後の限られた症状などない人に対しての闇雲なスクリーニングは推奨していない。
2:悪性腫瘍が患者さんに与えうるリスクを推定する
3:スクリーニングをすることの利益・リスクを考える
4:患者さんの価値観や好みに関連する利点や欠点に重きを行なって検討する
5:患者が移植を行うことが可能かどうかを検討する


先の症例を振り返ってみると、透析を開始して5年以内、移植の適応もあり。また、50歳以上ではあり乳癌スクリーニングは2年毎のスクリーニングが推奨されている。

この症例では、それが行えていたのであろうか?

我々の明日からの診療にもぜひ役立ててもらえればと思う。