2024/07/20

導入免疫抑制薬としてのベラタセプト

 1.背景

 ①抗原提示、②共刺激、③サイトカインがT細胞を活性化させる三つの柱である、という仮説を"three signal hypothesis"と呼ぶ。そして、②の代表がCD28-CD80/86(T細胞側‐抗原提示細胞側の順、以下同じ)、CD154-CD40である。

 抗CD154モノクローナル抗体は血小板のCD154と交差して血栓の副作用が多く止めになった。その後Fc部分が問題と分かり、Fab部分に似るが抗体ではないTn3という蛋白をアルブミンに結合させたdazodalibepが開発され治験中である(NCT04046549)。

 CD28をターゲットにした薬は、CD80に結合してCD28-CD80シグナルをオフにする分子、CTLA-4に着目して作られた。第一世代のabataceptはCTLA-4と抗体のFc部分を結合させた薬で、皮下注射でリウマチ等に有効なのは素晴らしいが、非ヒト類人猿では移植の有効性が確認できなかった。

 ※なお、abataceptもbelataceptが使用できなかった際(流通の問題やコロナ禍)の使用経験では有効が確認されており、belataceptから切り替える治験が行われている(NCT04955366)。

 Abataceptに2か所修正を加えてCD80により強く結合するようにした第二世代の薬が、belataceptである。残念ながら点滴の薬で、基本は1か月に1回ある。そのため、ペグ化したりCTLA-4‐CD80の作用は阻害しないようにしたりと工夫した第三世代の薬、FR104(NCT04837092)やLulizumabが治験されている。

2.BENEFITとその後

 2010年に発表された試験で、シクロスポリン群に比して術後のeGFRが高く保たれたがACR(急性細胞性拒絶)は有意に多くかつ重度であったことはよく知られているが、とにかくこれを受けて2011年に米国と欧州でbelataceptは認可された。

 同試験はbelatacept群をmore intensive dose(MI)とless intensive dose(LI)に分け、LIが認可の用量となった。それは、10mg/kgをDay 1、Day 5、Week 2、Week 4でローディングしたあとWeek 8とWeek 12にうち、そこからは5mg/kgを4週ごとというものである。

 しかし、血栓の多い抗凝固薬を使いたい人がいないように、拒絶の多い免疫抑制薬を使いたい人もあまりおらず、betalaceptを導入に使う施設はほとんどない。認可当初から意識的に使っているEmory大学でも、tacrolimusと組み合わせて、用量も「5mg/kgを術中と1ヵ月後、以後毎月」とBENEFITとは異なるレジメンになっている(KI Rep 2023 8 2529)。

 Belatacept使用中の拒絶は術後6ヵ月以内が多い。そのため、さきほどのEmory大学レジメンではtacrolimusを術後11か月用いるようにしている(9か月目からで毎月1/3ずつ漸減して終了する)。

 むしろ、belataceptの美しさは、①eGFRが保たれる、②糖尿病・心血管系イベントなどCNIの副作用を低減できる、③DSAを減らせる、などにある。そのため、使い道としては維持レジメンのほうが向いている。また、③については、AMR(抗体関連拒絶)の治療や脱感作にも試みられている。

 そこで次回は、維持療法・CNI sparing agentとしての役割について書こうと思う。


(la Bella y la Bestia、出典はDisney+)