2019/07/18

速報 MENTORトライアル

 14日間も遅れて恐縮だが、7月4日付のニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシンにMENTORトライアルがでた(NEJM 2019 381 36)。原発性膜性腎症に対するリツキシマブとシクロスポリンの比較試験で、よい中間報告を受けて世界的に結果が注目されていた(こちらも参照)のだが、やはりよい結果だった!


(NEJMのツイートより)


上図にもあるように、参加したのは北米の原発性膜性腎症(生検で確定診断、約70%が抗PLA2R抗体陽性、RTX群の1例で抗THSD7A抗体陽性)で、3ヶ月のACEI/ARBによっても5グラム/日以上(平均約8グラム/日)の蛋白尿が持続する患者。平均年齢は約50歳、男性が約7割だった。

 介入はRTXが1000mg点滴を14日空けて2回。6ヵ月後に蛋白尿が25%以上減少したが完全寛解(下記参照)していなかった場合には、もう1クールだけ追加できた。シクロスポリンはトラフ125-175ng/mlを目指し、Cr 30%以上の上昇がみられた場合はプロトコルに従い減量した(それでもCr値が戻らなければ中止となった)。

 なお、RTXがmPSL100mgの前投薬を受けたものの、両群ともステロイドはレジメンに含まれなかった。

 結果は、完全寛解(蛋白尿0.3グラム/日以下+アルブミン3.5g/dl以上)と部分寛解(蛋白尿が50%以上減少して0.3-3.5グラム/日になった)が24ヶ月経過時にRTX群で60%と、シクロスポリン群の20%よりも有意差に多かった(非劣性を前提に組んだスタディであったが、より優れている結果になった)。

 副作用報告の割合は両群とも70-80%であったが、Grade 3以上ではRTX群で17%と、35%のシクロスポリン群より有意に少なかった。RTX群の主な副作用は点滴時のアレルギー反応と皮膚のかゆみなどで、シクロスポリンの主な副作用は消化器症状と腎機能低下であった。

 なお、RTXの販売会社が薬を無償供与していること、オープン・レーベルなこと(剤形が違うので無理もない)はさておき、RTX1回量は多く(ANCA関連腎炎などは375mg/体表面積m2)、血球減少や劇症肝炎などには注意が必要だ。またコントロール群であるシクロスポリンの中止基準は厳しめかもしれない。また、治験患者は比較的若く、80歳以上は除外されていた。

 それでも、「2回注射したらネフローゼが治る」なんて、夢みたいだ。わが国のリツキシマブ添付文書には「成人期に発症したネフローゼ症候群の患者に対する有効性及び安全性は確立していない」とあるが、書き換えられる日もそう遠くないと期待される。





[2019年7月24日追記]昨日、FDAがリツキシマブのバイオシミラー、rituximab-pvvr(RUXIENCE®)を承認した。同国のバイオシミラーとしては、2018年11月に認可されたrituximab-abbs(TRUXIMA®)以来2件目になる。ただし、1件目は腫瘍領域のみの適応申請であったのが、2件目はANCA関連血管炎の適応も通った。

 じつは、欧州のFDAにあたるEMAは、すでに6件のリツキシマブ・バイオシミラーを認可している。いっぽう米国はバイオシミラーの認可に保守的で、市場にでているバイオシミラーは数えるほどしかない。オリジナル企業の利権を守っているとも、創薬インセンティブを削がぬよう配慮しているとも言われる。下図によれば、日本のほうが多いほどだ。


(出典はこちら


 そんなわけで、日本にもバイオシミラーは1件認可されており(リツキシマブBS®)、薬価は500mgで約12万円(オリジナルは約15万円)。前述のrituximab-abbsが治験中で、これが通れば2件目になるかもしれない(今回FDAを通ったrituximab-pvvrのほうは、試みられたようだが予定は立っていない)。

 ただし、少なくとも1件目は腫瘍領域のみの適応である。バイオシミラーが独自の適応を取得するとは考えにくいが、すくなくともオリジナルが持っている適応までは拡大しうる。また、オリジナルの治験がすすみ膜性腎症などにまで拡大すれば、バイオシミラーまで波及するかもしれない。今後の展開に注目したい。