1.元素の当て字
中国語には元素の当て字があり、金属(釒)、固体(石)、液体(氵)、気体(气)の属性を表す部首に、元素の発音または意味を表す部分を加えてつくる。たとえば、腎臓内科に身近な元素のうち、次のものは発音を当てている。
ナトリウム 金+内
カリウム 金+甲
カルシウム 金+丐(カイ)
マグネシウム 金+美
亜鉛(zinc) 金+辛
ランタン 金+闌
いっぽう、以下のものは意味を当てている。
水素 气+圣(軽、軽い)
酸素 气+羊(養、生き物に必要)
窒素 气+炎(淡、酸素を薄め窒息させる)
塩素 气+录(緑、塩素ガスが黄緑色)
リン 石+粦(燐、リン光を発する)
炭素 石+炭
すべての元素を知りたい方は、こちらの周期表を参照されたい。なお「イオン」は「离子」(電離の離)なので、「K+」は「鉀离子」などというようだ。
2.ナトリウムとソディウム
英語でナトリウムは、ソディウム(sodium)。これは、単体のナトリウム金属を1807年に発見した英国化学者のハンフリー・デービーがそう命名したからだ。フランス語も「ソディウム」とデービーの命名を尊重しているが、これには歴史的背景が推察される。
というのも、1813年、デービーはフランス皇帝ナポレオンに功績を称えられ、当時敵国だったフランスに貴賓として招かれているのだ。彼はそこで電磁気学の祖アンペールら、フランスの科学者たちと交流している(詳細はこちらも参照されたい)。
しかし、日本を含むほかの多くの国々は「ナトリウム」だ。1809年にはドイツの化学者ルードヴィッヒ・ギルベルトがドイツ語名称を「ナトリウム」とし、1811年にはスウェーデンのイェンス・ベルセリウスが元素記号を「Na」としたため、「ナトリウム」のほうが一般的になった。
それぞれの語源である「ソーダ」と「ナトロン」は、いずれも炭酸ナトリウムなどのナトリウム化合物。名前は違うが同じという意味では、「アドレナリン」と「エピネフリン」のようなものかもしれない。なお今年は周期表ができて150周年。その歴史とドラマについて知りたい方は、こちらも参照されたい。
3.皇帝ペンギンと橈骨静脈
前腕内シャントの手術で橈骨動脈を露出する際みえる、動脈に並走する2本のヒョロっとした細い橈骨静脈。還流量もわずかで、動脈の拍動に流れを依存しているほど無力なこの静脈が、なんの役に立つのかと思うかもしれない。しかし実は、対向流熱交換(countercurrent heat exchange)の役に立っているのだ。
動静脈が対向するように流れていると、動脈が運んできた熱が静脈にうつるので、体外に逃げにくい。この仕組みがあるからこそ、皇帝ペンギンの足は氷の上でも凍傷にならないし、クジラは冷たい海水を吸い込んでも熱を奪われない(舌の動脈の周囲に6本の伴行静脈が走る、こちらも参照)。
しかし、それでもエサを摂らずにずっと卵を抱いていれば、皇帝ペンギンの身体はいずれ凍ってしまう。彼らの壮絶な生き様を知りたい方は、映画『皇帝ペンギン(2005年)』、または続編の『皇帝ペンギン ただいま(2017年)』を是非ご覧いただきたい。感動だけでなく、謙虚さと涼しさを得られるだろう。
4.腎臓の方程式
最後に、読者も大好きであろう数学のお話をひとつ。「腎臓の方程式」というのは、存在する。嘘だと思うのも無理ないので、まず載せる。
半径aの小さな円と半径2aの大きな円が接していて、小さな円が大きな円に沿って廻ったときに、接していた点が小さな円と一緒にうごく軌跡を「腎臓形(nephroid)」とよび、上の6次方程式であわらすことができる(こちらの図も参照)。さらに腎臓形を大きな円に対して反転(inversion)したのが下の式で、二つを合わせるといかにも腎臓だ。しかも、二つあるではないか!
(前掲リンクより) |
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いかがであろうか、お楽しみいただけたであろうか?読者の皆さまの何かを豊かにしたなら(「キセキ」が起きたなら)、望外の喜びである。では皆さまも、有意義な夏休みを過ごされますよう(写真は、ナトリウムなどの炎色反応を応用した花火)。