2019/07/26

夏休み「腎」由研究

 いよいよ世間は夏休み。時には気分転換に、普段と違う「ふっ切れた」話をしてみたい。そこで、自由研究ならぬ「腎」由研究と題し、腎臓とゆるく関連するいくつかのトピックをまとめてお届けしたい。


1.元素の当て字


 中国語には元素の当て字があり、金属(釒)、固体(石)、液体(氵)、気体(气)の属性を表す部首に、元素の発音または意味を表す部分を加えてつくる。たとえば、腎臓内科に身近な元素のうち、次のものは発音を当てている。

ナトリウム  金+内
カリウム   金+甲
カルシウム  金+丐(カイ)
マグネシウム 金+美 
亜鉛(zinc)  金+辛
ランタン   金+闌

 いっぽう、以下のものは意味を当てている。

水素 气+圣(軽、軽い)
酸素 气+羊(養、生き物に必要)
窒素 气+炎(淡、酸素を薄め窒息させる)
塩素 气+录(緑、塩素ガスが黄緑色)
リン 石+粦(燐、リン光を発する)
炭素 石+炭

 すべての元素を知りたい方は、こちらの周期表を参照されたい。なお「イオン」は「离子」(電離の離)なので、「K+」は「鉀离子」などというようだ。


2.ナトリウムとソディウム


 英語でナトリウムは、ソディウム(sodium)。これは、単体のナトリウム金属を1807年に発見した英国化学者のハンフリー・デービーがそう命名したからだ。フランス語も「ソディウム」とデービーの命名を尊重しているが、これには歴史的背景が推察される。

 というのも、1813年、デービーはフランス皇帝ナポレオンに功績を称えられ、当時敵国だったフランスに貴賓として招かれているのだ。彼はそこで電磁気学の祖アンペールら、フランスの科学者たちと交流している(詳細はこちらも参照されたい)。
  
 しかし、日本を含むほかの多くの国々は「ナトリウム」だ。1809年にはドイツの化学者ルードヴィッヒ・ギルベルトがドイツ語名称を「ナトリウム」とし、1811年にはスウェーデンのイェンス・ベルセリウスが元素記号を「Na」としたため、「ナトリウム」のほうが一般的になった。

 それぞれの語源である「ソーダ」と「ナトロン」は、いずれも炭酸ナトリウムなどのナトリウム化合物。名前は違うが同じという意味では、「アドレナリン」と「エピネフリン」のようなものかもしれない。なお今年は周期表ができて150周年。その歴史とドラマについて知りたい方は、こちらも参照されたい。


3.皇帝ペンギンと橈骨静脈

 
 前腕内シャントの手術で橈骨動脈を露出する際みえる、動脈に並走する2本のヒョロっとした細い橈骨静脈。還流量もわずかで、動脈の拍動に流れを依存しているほど無力なこの静脈が、なんの役に立つのかと思うかもしれない。しかし実は、対向流熱交換(countercurrent heat exchange)の役に立っているのだ。

 動静脈が対向するように流れていると、動脈が運んできた熱が静脈にうつるので、体外に逃げにくい。この仕組みがあるからこそ、皇帝ペンギンの足は氷の上でも凍傷にならないし、クジラは冷たい海水を吸い込んでも熱を奪われない(舌の動脈の周囲に6本の伴行静脈が走る、こちらも参照)。

 しかし、それでもエサを摂らずにずっと卵を抱いていれば、皇帝ペンギンの身体はいずれ凍ってしまう。彼らの壮絶な生き様を知りたい方は、映画『皇帝ペンギン(2005年)』、または続編の『皇帝ペンギン ただいま(2017年)』を是非ご覧いただきたい。感動だけでなく、謙虚さと涼しさを得られるだろう。


4.腎臓の方程式


 最後に、読者も大好きであろう数学のお話をひとつ。「腎臓の方程式」というのは、存在する。嘘だと思うのも無理ないので、まず載せる。




 半径aの小さな円と半径2aの大きな円が接していて、小さな円が大きな円に沿って廻ったときに、接していた点が小さな円と一緒にうごく軌跡を「腎臓形(nephroid)」とよび、上の6次方程式であわらすことができる(こちらの図も参照)。さらに腎臓形を大きな円に対して反転(inversion)したのが下の式で、二つを合わせるといかにも腎臓だ。しかも、二つあるではないか!


(前掲リンクより)


 いかがであろうか、お楽しみいただけたであろうか?読者の皆さまの何かを豊かにしたなら(「キセキ」が起きたなら)、望外の喜びである。では皆さまも、有意義な夏休みを過ごされますよう(写真は、ナトリウムなどの炎色反応を応用した花火)。