2019/07/30

膜性腎症診療の未来

 MENTORトライアルの興奮に沸く腎臓内科界だが、世界的にはその先を行っている。すなわち、原発性膜性腎症の「誰に」、「どれだけ」リツキシマブ(RTX)を投与するか、が検討されているのだ。まず「誰に」であるが、その道しるべとなるのが抗PLA2R抗体の抗体価だ(発見の経緯などはこちらも参照)。

 抗PLA2R抗体陽性の原発性膜性腎症といっても、その自己抗体が認識するPLA2Rの部位(エピトープ)は一つではない。まずB細胞はPLA2R蛋白のN末端にあるシステイン豊富領域(CysR)を認識するが、そのあと抗原分子を咀嚼し、CTLD1、CTLD7などの他部位も抗原として認識できるようになる(下図はJASN 2017 28 2579)。





 この現象は「エピトープ・スプレッディング(epitope spreading)」と呼ばれ、SLEや尋常性天疱瘡など多くの自己免疫疾患でも知られているが、こうした疾患では、スプレッディングの有無によって治療が変わることはない。しかし、原発性膜性腎症においては、変わるかもしれない。

 というのも、スプレッディングのない群(ノン・スプレッダー)は、ある群(スプレッダー)にくらべて予後がよく(JASN 2016 27 1517)、低用量RTX(375mg/m2を1週おき2回)を試して寛解率の低かったGEMRITUXスタディ(JASN 2017 28 348)においても、ノン・スプレッダーに限れば全員が寛解していたのだ(DOI: 10.2215/CJN.11791018)。

 つまり「ノン・スプレッダーには低用量RTX、スプレッダーには高用量RTX(375mg/m2を1週おき4回、あるいはMENTORのように1gを2週おき2回)」というような使い分けがあり得るということだ。そしてその見極めには抗体価が代用されるようになるだろう(前掲論文では抗体価>321RU/ml以上で95%がスプレッダーだった)。

 近い将来に日本で(抗PLA2R抗体の保険収載と)RTXの適応拡大が実現した際には、どのようなRTX用量が通るかも注目したい。用量に幅があると、現場では喜ばれるだろうが、副作用を怖れてのunder-treatmentは増える。かといって体格を考慮しない1gでは、375mg/m2に比べover-treatmentになりやすい。日本の試験ではないので、これらは市場にでてから検証していく必要がある。