2019/08/02

人を指差すときは

 維持透析を受ける70歳男性。透析を受けに来院した際、前日から四肢がガクガクし、増悪して歩くのもままならなくなったと訴えた。透析スタッフによれば、透析室に入ってきた様子はまるで、「生まれたての仔鹿」のようであった。


Q:診断は?


 診察すると、脳神経や四肢に運動麻痺はないが、歩行が不安定で、指鼻指試験や踵膝試験が拙劣に思える。しかし、梗塞を疑って撮影したMRIに所見はない。稀な神経疾患ではないかと脳神経内科にコンサルトしたところ・・・


A:高カリウム血症(7.9mEq/l)


 あらためて診察いただくと、上記小脳の診察所見は正常(不随意運動のため震えているだけで、位置の把握は正確にできていた)。慢性疾患にともなう不随意運動が考えられ、この場合腎不全によるものが最も疑われた。前回透析から2日あいており、定期検査での透析前カリウムは6mEq/l。以前から食事のアドヒアランスに不安がみられていた。透析により症状は軽快。

 カリウムと筋肉と言えば、低カリウム性周期性四肢麻痺をまず思い出すかもしれない。しかし、高カリウム血症でも(筋のチャネル遺伝子異常などがなくても)筋力低下や麻痺を起こすことがある。影響されるのは心筋だけじゃないということだ(そして、心電図変化と同様に、全例に起こるわけでもない)。

 
 米国法廷弁護士・作家のルイス・ナイザー(1902-1994)は『私の法廷生活(My Life in Court、1964年)』のなかで「人を指差すときには、残りの4本の指が自分のほうを向いていることを忘れてはならない」と説いた(実際は親指は人差し指と同じ方向なので3本と思われるが、下図)。

 こんな時、人を指差す前にまず「自分達の科の病気じゃないですか?」と自問する必要性を、心から痛感させられる。