2019/08/23

NPT2a阻害薬から見える未来

 近位尿細管トランスポーターで治療標的のものといえば、まずSGLT2を思い浮かべるだろうが、URAT1(こちらの追記も参照)、NHE3(こちらも参照、ただし腸管のNHE3に対する薬だが・・)なども実用化にむけて治験が進んでいる。そして今月はJASNに、NPT2aの阻害薬の報告が載った(DOI: 10.1681/ASN.2018121250)。

 NPT2aとは聞きなれないかもしれないが、近位尿細管にあるナトリウム(Na)とリン(iP)の共輸送体だ。NPT2aというからには他のファミリーメンバーもいて、NPT2bは腸管にあり、NPT3cはやはり近位尿細管にある(図はCJASN 2015 10 1257)。なお近位尿細管には別にPiT-2というナトリウム・リン共輸送体もあり、いずれも再吸収をおこなっている。




 今回でた実験は、PF-06869206というNPT2a阻害薬を、5/6腎摘したCKDモデルマウスに静注したものだ。NPT2aだけを阻害しても、上述のようにリンの再吸収は複数のトランスポーターによるので、リン排泄は増えないようにも思われる(おそらくそれが、いままでNPT2a阻害薬が作られなかった背景にあるのだろう)。

 しかし、蓋を開けてみるとリン排泄は増え、血中リン濃度は低下した。組織をみると、近位尿細管でのNPT2a発現が低下したのに対して、たとえばNPT2cの発現は代償性に増えていなかった(ただし定量化はしていないが)。また、NPT2aはナトリウムの共輸送体でもあるので、尿ナトリウム排泄も増えていた。

 つまり、この世にまたひとつ、新しい利尿薬の候補と、高リン血症の治療薬の候補が生まれたということだろうか?

 たしかにそれも大事だが、この実験から予見されるのはそれだけではない。筆者にとっては、少なくとも2つある。

 1つ目は、単にリンを下げるだけでないかもしれないことだ。腸管からのリン吸収を阻害する吸着薬とちがい、NPT2a阻害薬は近位尿細管細胞に直接作用する。そして、近年はFGF23・KlothoとPTHがNPT2a発現を調節する仕組みも解明されつつある(図はKI 2009 75 882、Front Endocrinol 2018 9 267)。NPT2a阻害薬は、こうしたCKD-MBDのホルモン軸に、独自の影響をおよぼす可能性がある。





 そして2つ目は、「(SGLT2阻害薬につづき)近位尿細管の負担を軽減して腎機能低下を抑制する薬」が生まれる可能性である。この実験は注射も1回だし、24時間後の変化しか見ていないが、おそらく連用した場合の腎機能への影響もとっくに調べられているに違いない。「NPT2a阻害薬による腎保護」がコンセプトとして通用すれば、剤形や安全性を高めるなどの課題は工夫すれば解決できるだろう(SGLT2阻害薬がそうであったように)。

 
 やはり、フロンティアというか、いま近位尿細管には「きてる」感がある。今後も勢いよくさまざまな標的分子が治療対象となってゆくだろう。きっと今頃、試行錯誤と努力を続けるどこかの研究室で、未来が生まれているに違いない(写真は伝説的なSF作家、ウィリアム・ギブソンの引用句、「未来はここにある、ただ均等に行きわたっていないだけだ」)。