2019/08/09

抗MRSA薬アップデート

 抗MRSA薬の第一選択と言えばバンコマイシンであり、それは血液透析患者においても例外ではない。むしろバンコマイシンは「1グラムのローディング+透析ごと0.5グラム」と、連日投与が必要な他の薬に比べて覚えやすく使いやすい薬と言える。しかし、そこで思考停止していた筆者の目を覚ます論文に出会った(CJASN 2019 14 1080)。

 まずは、バンコマイシン用量についてだ。ロー・フラックス膜のころはバンコマイシンは透析で抜けなかったので「15mg/kgを7-10日ごと」だったという。ハイ・フラックス膜になって現在の用量に落ち着いたが、その後も透析膜の性能は向上している(Neprol Dial Transplant 1997 12 2647)ので本来は量の見直しが必要だろう。また、透析の最後1時間で投与する場合にも増量が必要だ。

 透析間隔や体重・Kt/Vなどを考慮した「バンコマイシン用量計算機(Vancomycin Dose Calculator)」を用いて効率よく透析患者でトラフ15-20mcg/dlを得たという報告もあり(Clin Infect Dis 2011 53 124、図のPhase 3)、バンコマイシンが第一選択であり続ける限りはこうした計算機が有用かもしれない。




 「バンコマイシンが第1選択であり続ける?」・・それが次の問題である。

 よく効く第一選択薬も、使っていれば耐性がついてくるのが世の常。MRSAも2010年、耐性と考えるべきバンコマイシンのMIC(最小阻害濃度)が4mcg/ml以上から2mcg/ml以上に引き下げられた。いつかはVISA(バンコマイシンが「I」、つまり感受性が微妙なブドウ球菌)、VRSA(バンコマイシンが「R」、つまり耐性のブドウ球菌)が増えるだろう。

 では、バンコマイシン以外の抗MRSA薬にはどのようなものがあり、腎機能低下例にはどのように使用すればよいのだろうか?主なものを下記にまとめる。

・リポペプチド

 いまのところこのファミリーにはダプトマイシンしかないが、グラム陽性球菌の細胞膜を脱分極して殺菌作用を示す。心内膜炎・骨髄炎などに好んで用いられるが、呼吸器感染には無効だ(サーファクタントにより失活するため)。また検査試薬と反応するためPT-INRが偽性に伸びることにも注意が必要だ。

 ダプトマイシンは78%が尿中排泄されるので、クレアチニン・クリアランスが30ml/min未満の患者では48時間おきが推奨される。蛋白結合率86%であるが、透析患者でも透析ごとで投与できる(72時間あく時の増量も提案されているが、そのぶん筋障害などの副作用は増える)。

・オキサゾリジノン

 リネゾリドのみであったが、骨髄抑制などの副作用が少ないテディゾリドがファミリーに加わった。50Sリボソームサブユニットを阻害して静菌作用を示す。なおいずれもMAO-A、Bを可逆的に阻害するためSSRI、SNRIらとの併用時はセロトニン症候群に注意。

 いずれも腎排泄ではないため腎機能による容量調整は不要だが、リネゾリドの代謝産物は腎機能低下例で蓄積する(その害は明らかではない)。リネゾリドは30%が透析で除去されるので、透析患者でも用量は同じだ(ただし1日2回なので2回目は透析後)。

・リポグリコペプチド

 テラバンシンに、ダルババンシンとオリタバンシンが加わったファミリー。バンコマイシンに似た細菌細胞壁への静菌作用(ただし細胞壁への結合力は強い)に加え、ダルババンシン・オリタバンシンはダプトマイシンに似た細胞壁脱分極による殺菌作用を備えている。

 テラバンシンは76%が尿中排泄であり、クレアチニン・クリアランスが50ml/min未満の例では減量が必要だ。腎障害の警告があるが、薬自体の作用か、スタディの患者群がグラム陰性桿菌感染を合併していたためかははっきりしない。透析患者への用量は明記されていないが、透析ごとの使用が多い。

 ダルババンシン・オリタバンシンはどうか?ダルババンシンはクレアチニン・クリアランス30ml/min未満で減量だが、透析性があるため透析患者では減量は必要ない。いっぽうオリタバンシンは透析性もなく、クレアチニン・クリアランス30ml/min未満と透析患者では試験されていない。

・セフタロリン

 抗MRSA活性を付加されたセファロスポリン(第5世代とも言われる)。細菌性市中肺炎と急性皮膚感染にしか用いることができない。クレアチニン・クリアランス30−50ml/minで1/3の減量、15−30ml/minで1/2の減量、透析を含む15ml/min未満で2/3の減量となっている。
 

 このようにさまざまな新薬があるのは結構だが、こんな薬が「ガツンと鋭い切れ味、新発売!(下図は酒類のうたい文句)」などと宣伝され節度なく使用されては、耐性ができて大変だ。




 しかし、創薬した企業は投資家にいち早く利益をリターンしなければならず、そういう売り方もやむを得ない(売れなければ、次世代アミノグリコシドのプラゾマイシンを上市したのち今年4月に倒産したAchaogen社の二の舞いだ)。そんなわけで、こうした新規抗MRSA薬は米国で売れまくっている(下表は2018年10ヶ月間の売上、doi:10.1056/NEJMp1905589)。

セフタロリン    1.15億ドル
ダルババンシン   0.31億ドル
オリタバンシン   0.18億ドル
テディゾリド    0.32億ドル
テラバンシン    0.18億ドル

 前掲のニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン論文は、こうした商業モデルでは必要な新薬が持続的に作れず耐性をいたずらに増やすだけであるとして、非営利組織による開発モデルを提案している。今後、抗MRSA薬がどのように開発され処方されるようになるかにも、注目したい。