2021/03/15

満額回答、ADVOCATEトライアル

  アバコパンといえば、本ブログでも2017年から注目してきた経口C5a受容体阻害薬である。ANCA関連血管炎に対するADVOCATEトライアルが行われ、色よい速報結果が出ていたことは2019年にも紹介した

 当時からよい最終結果が予想されていたが、先月公式にNEJMから発表され(NEJM 2021 384 599)、「満額回答」といってよい結果であった。そこで、本ブログでも3度目になるが簡単に紹介したい(詳細は2019年の投稿を参照されたい)。

1. 患者

 参加したのは日本をふくむ20カ国で、対象はMPO-ANCAまたはPR3-ANCA関連血管炎で18歳以上(国によっては12-17歳も含む)の患者330人。BVASスコア主項目1つ以上、または副項目3つ以上、または血尿と蛋白尿の腎項目2つ以上が条件であった(ただしeGFRは15ml/min/1.73m2以上)。

 除外項目には、肺胞出血、腎代替療法を受けている、血漿交換や免疫抑制薬の治療歴、がん(5年以内)・感染症(結核・HBV・HCV・4週以内の生ワクチン)・心血管系イベント(12週以内)の既往、肝酵素上昇(正常上限の3倍以上)などが含まれた。

 患者の平均年齢は約60歳、女性は約4割、白人が約8割(アジア系は約1割)。約7割が初発(約3割が再発)だった。MPO-ANCAは約6割、BVASスコアは平均16点、臓器症状では腎が約8割と最も多く、平均eGFRは約45ml/min/1.73m2。次に全身症状・耳鼻咽喉・胸部・神経などが続いた。 

2. 治療

 寛解導入レジメンは①RTX4週間(375mg/m2、「半年おきの追加」はなかった;こちらも参照)、②点滴シクロフォスファミド14週間(15mg/kgを0・2・4・7・10・13週)、③内服シクロフォスファミド14週間(2mg/kg/d)。②と③は15週目から内服アザチオプリン(2mg/kg/d)。内訳は①が約65%、②が約30%、③が約4%であった。

 そのうえで、介入群はアバコパン(30mg1日2回)とプレドニゾンのプラセボ、コントロール群はプレドニゾン(60mg/dから20週で漸減;55kg未満では45mg/dから)とアバコパンのプラセボを投与された。

 ・・・が、じつは両群とも「隠れ」ステロイドが投与されている。RTX群はアレルギー反応予防に点滴されるし、スクリーニング前から入っていた患者もいる(4週で漸減中止された)。その量はプレドニソン換算で654mg(介入群)、727mg(コントロール群)であった。

3. 結果 
 
 「BVASスコア0」と「4週以上ステロイドOFF」で定義されたプライマリ・エンドポイントは、26週で標準治療群と非劣性、52週では有意にすぐれていた。

   介入群 対照群
 26週 72.3% 70.1%
 (非劣性についてp<0.001)
 52週 65.7% 54.9%
 (優性についてp=0.007)
 
 さらに、セカンダリ・エンドポイントのひとつであるeGFRは、26週・52週ともに介入群のほうが有意に上昇していた(単位はml/min/1.73m2、カッコ内は95%信頼区間)。

   介入群 対照群
 26週 +5.8 +2.9
  差2.9(0.1-5.8)
 52週 +7.3 +4.1
  差3.2(0.3-6.1)

 それだけでなく、ステロイドによる副作用をまとめた毒性指数(Glucocorticoid Toxicity Index、こちらの追記も参照)を両群で調べてみると、介入群で有意に低かった(26週時点、スコアは最小二乗平均で表示)。

      介入群 対照群
 GTI-CWS 39.7  56.6
  差-16.8(-25.6から-8.0)
 GTI-AIS 11.2  23.4
  差-12.1(-21.1から-3.2)

 また、患者QOLをSF-36とEuroQOL-5D-5Lのスコアリングで計測したところ、52週時点で量スコアとも介入群で有意に高かった。

 ・・ジャジャーン!という結果ではあるが、ここまでは2019年の速報値とほぼ同じである(「満額回答」と言われる所以である)。問題はステロイド毒性以外も含めた有害事象であるが、こちらも件数は対照群のほうが多かった。

    介入群 対照群
 全件  1779 2139
 重度  71   94
 致死的 8  22
 死亡  2   4
 
 有害事象のカテゴリー別内訳でも、対照群よりも多かったものはなかった。また、補体制御で気になる(エクリズマブ投与前にはワクチン接種しなければならない)髄膜炎菌感染は1件もなかった。

4. まとめと感想

 Steroid-sparing agent(ステロイドなしでやる薬)として、腎炎・ネフローゼ領域ではCNI・アザチオプリンなどがよく用いられ、最近はRTXもある。しかし、ほとんど誰も「寛解レジメン後はステロイドなし!」という診療をしようとはしなかった。

 だから今回、寛解レジメン中にプレドニゾン約600mg相当のステロイドが入ったとはいえ、その後ステロイドなしで寛解が維持できたのは、とても画期的なことである。コロンブスの卵みたいなことである。


こちらより引用


 もちろん、いくつかの懸念については考察しなければならない。

 まずは安全性である。有害事象がステロイドより少なく髄膜炎菌感染もなかったのは朗報であるが、比較的若い患者を対象にしてTB・HBV・HCV感染者を除外していることには注意が必要だ。RTX後のHBV劇症化も考慮すると、認可時に既感染者がどう扱われるかにも注目したい。

 また、いつまで使うかについてもきちんとした何かが今後必要になるだろう。長く内服するほど再発率は下がるだろうが、長期投与による「アバコパン毒性」がでてくる可能性もなくはないし、当然ながら高価な薬でもあるからだ(半年に1回のRTX追加が不要になるなら「トントン」なのかもしれないが)。

 とはいえ、時代を変える論文である。今後のANCA関連血管炎治療だけでなく、腎炎・ネフローゼ診療全般に強いインパクトを与えることだろう。

 アバコパンは日本でも今月に国内製造・販売・承認の申請が行われた。ADVOCATEには日本も参加しており、使えるようになるのはほぼ確実だろう。認可後に「コロンブスに続け」とステロイドのない海に漕ぎ出す医師がどれくらい腎臓内科にいるか、注目である。



フランシス・ベーコン『ノヴム・オルガヌム』表紙
(旧弊の学問からの脱却を説いた。こちらより引用)