70歳女性。うっ血性心不全・ステージ3CKDの既往ありARBを内服していたが、ある日の外来でeGFRが29ml/min/1.73m2に低下。
Q. どうしますか?
KDIGOガイドラインはGFRが60ml/min/1.73m2未満で「AKIリスクをあげる重症の併発疾患をもつ患者」にACE阻害薬・ARB(以下ACEI/ARB)の中断を示唆する一方、「GFRが30ml/min/1.73m2未満の患者でルーチンに中止しない」よう強調している。
しかし実際はそうもいかず、AKI後に中止してしまう害(そのまま再開できなくなることも多い)、CKD進行時に「透析依存までの時間を稼ぐため」に中止することの害(eGFRは一瞬あがるが、心・腎保護作用はなくなってしまう)が問題視されてきた。
これについて、現在RCTのSTOP-ACEiスタディ(ISRCTN62869767、NDT 2016 31 255)が進行中である。しかしその前に2本の大規模な観察研究結果が発表されたため、それぞれ紹介したい。まずは昨年発表された米国の報告(JAMA Intern Med 2020 180 718)から。
1.スタディ・患者
研究はペンシルベニア州にあるガイジンガー・ヘルス・システムの患者データを用いた。2004年から2018年までに162654人にACEI/ARBが開始されていたが、そのうち開始後(内服中)にeGFRが30ml/min/1.73m2未満に低下したのは5408人。
さらに、eGFR低下から6ヶ月後(T0)までに中止かつ再開された例、カリウム値や血圧のデータがない例、T0までに末期腎不全に至るか死亡した例などを除く、3909例(T0までに中断された1235例と、継続した2674例)が観察対象となった。
患者は両群とも平均年齢は約73歳、6割が女性、2%が黒人。受診頻度や腎臓内科への紹介率に有意差はなかった。
平均eGFRは約23ml/min/1.73m2、eGFR低下直前の収縮期血圧は約125mmHgだった。4割に冠動脈疾患、3割にうっ血性心不全、5割に糖尿病、2割に脳梗塞の既往があり、約半数が抗血小板薬・スタチン・βブロッカーを内服していた。
2.アウトカム
プライマリ・アウトカムはT0から5年間の死亡率、セカンダリ・アウトカムは同期間のMACE(死亡、心筋梗塞、PCI、CABG;心不全と脳梗塞は含まない)と末期腎不全だった。実際の平均観察期間はプライマリについて2.9年。また、AKIと高カリウム血症(5.5mEq/l以上)についても調査された。
3.結果
死亡・MACEは中断群で高かった(下表、*はプロペンシティー・マッチング後のハザード比と95%信頼区間)。脳梗塞・糖尿病・うっ血性心不全・冠動脈疾患の有無による相関はなかった。中断群の28%でT0以降にACEI/ARBが再開されていたにもかかわらず、である。
中断群 継続群
死亡 35.1% 29.4%
1.39(1.20-1.60)*
MACE 40% 34%
1.37(1.20-1.56)*
それに対して、末期腎不全には有意差がなかった。糖尿病の有無で結果に差があり、糖尿病患者では中断群の末期腎不全リスクが高かった(ハザード比1.56)。非糖尿病患者では0.61(信頼区間は表示がなく、糖尿病患者との有意差はp=0.01)。
中断群 継続群
末期腎不全 7% 6.6%
1.19(0.86-1.65)*
また、5.5mEq/l以上の高カリウム血症は継続群で有意に高かったが(22.2% v. 15.6%、ハザード比0.65、95%信頼区間0.54-0.79)、病名コード上のAKIには有意差がなかった(中断群の27.8%・継続群の30.1%、ハザード比0.92、95%信頼区間0.79-1.07)。
4. まとめと感想
あくまで相関ながら、結果からは「死亡・心臓病のリスクを負ってACEI/ARBを中止したところで、透析を遅らせることにはならない(ただし、高カリウム血症にはなりにくい)」の一文が示唆される。
「eGFRがとても低い群はちがう結果では」「AKIで中止したあと再開されなかった患者をみているだけでは」といった仮説についても感度分析が行われ、以下のような条件で解析しても結果はかわらなかった。
・Fine-Grayモデル(競合死亡リスクの影響を排除するしくみ)
・T0時点でACEI/ARBを6ヶ月以上内服していた群に限る
・eGFR低下時に低血圧や高カリウム血症のあった患者を除く
・AKIがステージ2以上の患者を除く
・がん患者を除く
・eGFRが20ml/min/1.73m2未満に低下した群に限る
しかし後ろ向き観察研究である。「なぜACEI/ARBが中止されたのか」がまずわからない。さらに、「フォロー中に他の薬はどのように変更されたか(利尿薬・MRA・カリウム吸着薬・重曹など)」、「フォロー中に両群間の血圧はどうだったか」、「どれくらいの患者がいつごろ腎臓内科に紹介されたか」なども、わからない。
こうした点はアウトカムに影響するし、次に述べるスウェーデンのスタディ結果との比較においても大事になってくる。つづく。
(米国メイン州、スウェーデン) |