2024/09/28

もう一つのシュウ酸腎症

  高シュウ酸尿症(hyperoxaluria)の原因には、遺伝的な代謝異常によって肝臓で異常にシュウ酸が産生される原発性と、Roux-en-Yバイパス手術後などで吸収されない脂肪酸が腸管内のカルシウムと吸着するぶんシュウ酸が遊離して吸収される腸性(enteric oxaluria)がよく知られている。

 他にはエチレングリコール、ビタミンC大量内服やチアミン欠乏などがあるが、2023年に縮毛矯正剤(hair straightening products)によるシュウ酸腎症の報告が立て続けに出ていたことを、先日知った。

 縮毛矯正薬による急性腎障害は2019年にエジプトのグループが最初に報告した(Iran J Kidney Dis 2019 13 129)が、2023年1月にイスラエルのグループが26症例を報告し話題になった(AJKD 2023 82 43)。患者はいずれも女性で、曝露から数日後に発症し、平均のクレアチニン値は5.3mg/dlで、多くは回復したが3例は透析を要した。

 そして、腎生検を受けた7例のうち5例の尿細管内に、多数のシュウ酸カルシウム結晶が観察された。

(出典は後述のKI Reports、偏光顕微鏡でpositive bifringent)

 縮毛矯正薬は、以前はホルムアルデヒドが用いられていたが、刺激が強く発がん性の懸念があることなどから、グリコール酸を主成分とする製品に切り替わっているという。

 ただ、グリコール酸はエチレングリコールと同様シュウ酸に代謝されるが、経皮的にそこまで吸収されるかには疑問もあった(38%に頭皮の皮疹があったので、吸収が高まったのかもしれないと推察された)。

 また、使用者の全員が発症するわけではないことから、使用時のpHが低すぎた可能性や、シュウ酸代謝に関わるHOGA1、輸送に関わるSLC26A1、SLC26A6などの遺伝子多型との関連も推察された。

 続く2023年3月には、フランスのグループが縮毛矯正剤を背部に塗布したマウスとワセリンを塗布したマウスを比較した報告が、NEJMのcorespondenceに投稿された(NEJM 2023 2024 390 1147)。

 それによれば、縮毛矯正剤を塗布されたマウスでは尿にシュウ酸カルシウム1水和物の結晶が検出され、28時間後のクレアチニン値が有意に上昇し、腎の3次元CTでシュウ酸カルシウム結晶が広汎に沈着していた。

 そして、この縮毛矯正剤にはグリコール酸は含まれておらず、代わりにグリオキシル酸が含まれていたことから、グリオキシル酸が原因の可能性が高まった(同じ矯正剤を使われた女性が治療のたびにAKIを3度発症したことから、上記の動物実験に至った。なお彼女も頭皮に潰瘍ができており、遺伝子検査は陰性だった)。

 続く2023年6月には、スイスのグループがKI Reportに同様の報告を発表し(KI Report 2024 9 2571)、まとめとして、エチレングリコール・ビタミンCと縮毛矯正薬を統合する下図のような病態生理が提唱された。

(出典は前掲KI Reports論文)

  縮毛矯正やグリオキシル酸を鑑別診断として頭の片隅に置いておくことが大切だ(報告は南米、中東などで施術されたケースがほとんどで、濃度やpHなども関係しているのだろう)。ただ、もっと大事なことは、いつどこで発生するかわらない未知の物質による腎障害に備えておくことだろう。

 2022年には小児用せき止めシロップにエチレングリコールが混入し、ガンビアで急性腎障害が多発した(のちにインドネシア、ウズベキスタンなどでも多発した)。そして、最近日本でペブルル酸によるとほぼ確定されたサプリメントによる腎障害が多発したのは周知のとおりである。

 診断のカギは、曝露歴の聴取と病態生理の理解である。