2012/03/11

Oxalate nephropathy

 先日、oxalate nephropathyについての講義があった。講義したのは、なんとレジデント時代の先輩だった(うちのスタッフ枠に応募し、面接の一環で講義していた)。この人は一緒にいた当時は威張ったところがあったが、そのあとMayoで修行しただけあって、レクチャの様子といい質問を受ける様子といい、あふれる知性に謙虚さが同居する様子で、「変わったなあ」と感心した。

 さて内容だ。Oxalateは腸管から吸収される分とendogenousに作られる分がある。腸管からの吸収には脂肪酸、カルシウムなどが関係しているが、それ以外にもSCL26A familyと呼ばれるトランスポーターや、oxalobacter formigenesという細菌などが関係していることが分かった(関係文献:Nature Clinical Practice Nephrology 2008 4 368)。

 Endogenousなほうは、glyoxylateからLDHによってoxalateになる(関連文献:JASN 2001 12 1986)。Glyoxylateはperoxisomeとcytosolのあいだを往き来できるが、peroxisomeではglyoxylateが出来過ぎないように、alanine + glyoxylate → pyruvate + glycineという反応が起きている。これを司る酵素がalaine/glyoxylate aminotransferase(AGXT)で、主に肝臓に存在している。補酵素はvitamin B6。

 Cytosolでも、glyoxylateが全てoxalateにならないようにglyoxylate → glycolateという反応が起きている。これを司るのがglyoxylate reductase(GR)だが、この酵素には他の活性(hydroxypyruvate reductase, HPR)もあって、合わせてGRHPRと呼ばれる。これも主に肝臓に存在している。

 AGXTの異常による高oxalate血症をprimary hyperoxalosis type 1(PH1)、GRHPR異常によるものをPH2という。確定診断には肝生検、DNA検査などが必要になる。治療は、尿路結石がチョコチョコでているうちは支持的でよい(食事、補水、PH1には大量Vitamin B6療法)が、腎機能が低下するとそうではない。

 というのも、PH1、PH2の患者さんではGFRが30ml/minを切ると身体でどんどん作られるoxalateが行く場を失い、どんどん溜まる。これをsystemic oxalosisと言って、calcium oxalateが骨など(基本的に全ての臓器)に沈着し痛み、貧血、神経症状などが起こる。だからoxalateを除くため早期に透析導入する(場合によっては長時間透析や持続透析が必要)。

 腎移植は成績が良くない、というのも身体中にcalcium oxalateが大量に溜まっている限り、そして酵素異常のために肝臓がどんどんoxalateを作り続ける限り、せっかく移植した腎もすぐさまoxalate nephropathyに掛かってしまうからだ。なので肝腎同時移植が推奨される。oxalateの血中濃度が戻るには時間がかかるので、大量の輔液とalkali citrateで腎を洗い流す必要がある。


[2020年1月6日追記]高シュウ酸血症には二次性もあり、脂肪酸やbile saltが吸収されない患者さんではenteric hyperoxaluriaが起こりcalcium oxalateの結石ができやすい。カルシウムが脂肪酸に捕捉されてそのまま吸収されずに流出してしまうことと、小腸(回腸末端)で吸収されずに流れてきたbile saltにより大腸の小分子透過性が亢進することが主因という。

 ・・そしてそれが、NEJMの人気コーナー、"Clinical Problem Solving"の先週号で取り上げられた(doi:10.1056/NEJMcps1809996)から、もはや世界の常識になってしまった(写真はテネシーでデビューしたガーナ出身の歌手・Ruby Amanfuによる1998年のファーストアルバム、"So Now The Whole World Knows")!




 症例は、ベースのCrが1.4mg/dlだった55歳女性が、数日間の食思不振や倦怠感のため受診したところ、Cr 11.8mg/dlであったという。腎前性・腎後性腎障害を除外されたあと、CVVHDFを行いながら腎生検したところ、シュウ酸カルシウム結晶がメザンギウムに沈着し、周囲に軽度の炎症を伴っていた。

 それだけなら非特異的だが、BMIが43kg/m2で、数ヶ月前から肥満治療薬・オルリスタット(リパーゼ阻害薬、日本では未承認)を開始された病歴が鍵になった。

 さらに、尿中シュウ酸排泄が1.06mmol/d(正常値は0.04-0.5)なこと、一次性高シュウ酸血症を疑わせる代謝異常がみられず(尿中glyoxalate・glycerate・hydroxy-1-oxoglutarateは正常)、遺伝子異常もみられなかった(上記のAGXT・GRHPRだけでなく、PH3の原因遺伝子HOGA1も正常)ことから、二次性の診断にいたった。

 本例はオルリスタットを中止してビタミンB6を投与したが腎機能は戻らず、腹膜透析依存となった。オルリスタット投与開始後は頻回に腎機能をフォローするなどの予防・早期診断が望まれる。さらに知りたい方は、レビュー論文(NDT 2016 31 375、World J Nephrol 2015 4 235など)も参照されたい。


 ・・それにしても、タイトルを"When the Cause Is Not Crystal Clear"とつけるあたり、アートだ(こちらも参照)。Cで頭韻を踏み、さらにクリスタル・クリア(とても明らかなことを意味する英語イディオム、下図も参照)と、結晶のクリスタルを掛けている。さすが、英国の著者だ。


(出典はこちら