先日のRenal Grand Roundで発表したフェローに感心した。彼女は臨床のなかで生じた疑問、しかも答えが簡単にでない疑問を流してしまわずに、既存のエビデンスを深く解釈して現段階での理解を明らかにした。不確定な領域で息の長い議論を展開する様子は、模範となった。私はついつい答えが分かっているものを学んでそれをおもしろく分かりやすく伝える方に流れてしまうから。
彼女の疑問は、私も診療に加わったある患者さんから生まれた。患者さんは腎炎でnephrotic-rangeのタンパク尿が出ており、結果として肺塞栓症になった。ここで「ネフローゼ症候群の患者さんに塞栓症のriskが高い」という表層的な知識だけで終わらせないのが彼女の素晴らしいところだ。
「ネフローゼ症候群のなかでもどれが多いか?」「リスク因子は?」「塞栓症というが肺塞栓、深部静脈塞栓、腎静脈塞栓、軽症から致死的なのまであるがどれが多いのか?」「誰が予防を受けるべきなのか?」など踏み込んだ質問を生み出した。そして新鮮な(2012年の)エビデンスを取って来てこれらの質問を当てはめながら検証した。このように質問に対する答えを探すように論文を読むのは批判的な考察力がつく有益な方法だ。
このやり方だと、一つ目の論文(KI 2012 81 190)にしてもまずタイトルを読むなり「idiopathic glomerulonephritisっていうがどういうこと?primaryってこと?例えば癌に関係した膜性腎症は除外されたってこと?」という突っ込みが入れられる。論文を読む限り著者は癌の有無に関係なく膜性腎症がFSGS、IgA腎症に比べて塞栓症(PE、DVT、腎静脈塞栓症)が多いと言いたいらしい。
またこの論文のunivariable analysisでは他にタンパク尿の程度とアルブミン濃度の程度はともにリスク因子であったが、二つ目の論文(CJASN 2012 7 43)では後者のみがリスク因子だった。タンパク尿の程度がリスク因子として統計的に有意でなかったことは、この号の雑誌のeditorial(CJASN 2012 7 3)でも驚きとともに取り上げられていた。
彼女のパワーポイントスライドは素朴だが、内容がthoughtfulで小手先の仕掛けなどなくても聴衆を引き込む力があった。生のデータをスライド一杯に張り付けるのはフォントが小さくなりスライドがbusyになるので私は嫌いだが、皆が一生懸命みるので内容を吟味するには却って有効なのかもしれない。
治療方針やエビデンスが確立していない内容を題材にしただけあって、彼女は最後に「皆さんどうしてますか?」と聴衆(スタッフ達)に質問することも出来た。それによってスタッフの経験を聴くことができて有益だった。議論の末にに塞栓予防をしないというinformed decisionをした人が一週間後に致死的な塞栓症で帰ってきたこともあるという。Riskはindividualizeしなければならない。