2024/09/14

FGF23アップデート

 FGF23が心肥大を起こす機序が発表されて、はや13年。また、FGF23に対するモノクローナル抗体ブロスマブのX-linked hypophosphatemic ricketsに対する効果が発表されて、はや6年。いま私たちはFGF23についてどれくらい知っているのだろうか。

◇FGF23の作用

 心肥大を起こす機序については、FGF23がFGFR4という心筋細胞の受容体を利用してカルシニューリン/NFATシグナリングを活性化することがわかり、FGFR4をノックアウトするとCKDモデルのラットに心肥大が起らないことが分かった(Cell Metabolism 2015 22 1020)。

 FGF23のモノクローナル抗体をCKDラットに注射すると、FGF23のリン利尿作用まで抑制してしまうため、激しい石灰化と高リン血症が起きて死亡率が増悪する(JCI 2012 122 2543)。しかしFGFR4をターゲットにすれば、選択的に心肥大を抑制できるかもしれない。

 FGF23は心肥大だけでなく炎症も惹起することが分かっている。たとえば、肝細胞のFGFR4を介してIL-6やCRPの産生を(KI 2016 90 985)、マクロファージのFGFR1を介してTNFαの産生を(FEBS Letters 2016 590 53)高める。

 また貧血とも関連することがCRICコホートの解析で分かっている(CJASN 2017 12 1795)。相関はカルシウム、リン、腎機能、炎症などと独立して有意にみられた。鉄欠乏との関連については、後述する。

 FGF23産生元である骨への影響を直接調べることは困難であったが、FGFR1を介して骨前駆細胞(osteoprogenitor cells)の前骨芽細胞(pre-osteoblasts)への分化を抑制することが昨年示された(JCI Insight 2023 8 e156850)。

◇FGF23の調節

 CKDにおいては、FGF23(またはその受容体)を直接ブロックする選択肢がまだないので、間接的にアプローチするしかない。

(出典はJASN 2010 21 1427)

 CaSRアゴニストについては、シナカルセトが血液透析患者においてFGF23濃度を低下させ、心血管系イベント・心不全・心血管系死亡の低下と相関していた(Circulation 2015 132 27)ほか、エテルカルセチドも血液透析患者においてアルファカルシドールに比較してFGF23と左室重量の低下に相関していた(Circ Res 2021 128 1616)。

 リンについては、メタアナリシスでリン吸着薬がおおむねFGF23を低下させることが示された(Ann Palliat Med 2022 1264)が、heterogeneityが大きい。たとえば、炭酸タンランは厳格なリン制限を併用しなければCKD3-4期のFGF23を下げることができない(CJASN 2013 8 1009、IMPROVE-CKDスタディを思い出した方もいるかもしれない)。

 また、鉄含有リン吸着薬は非含有リン吸着薬よりもFGF23を低下させやすい。

 近年、鉄欠乏・炎症・HIFなど、CKD-MBDによらないFGF23の亢進要素が明らかになっている。リン吸着と鉄補充の一石二鳥が狙えるため、鉄含有リン吸着薬、とくにクエン酸第II鉄は2019年にパイロットスタディ(JASN 2019 30 1495)が話題になったほか、日本でも多数の試験が行われている。

◇FGF23の切断

 おおくのホルモンがそうであるように、FGF23は251アミノ残基からなるペプチドであり、決定的に重要なことに、生理活性を持つインタクトFGF23(iFGF23)は179-180アミノ残基で切断される。そして、切断されたC末端のFGF23(cFGF23)は生理活性を持たず、多量にあるとiFGF23の作用を阻害する。

(出典はE & BP 2008 6 68)

 鉄欠乏・炎症・HIFなど、CKD以外のFGF23亢進においては、転写発現と同時に切断も亢進するため、生理活性のあるiFGF23のレベルは低く保たれる。しかし、CKDにおいては切断があまり行われない。

 その理由は・・現在解明中のようだ(Cells 2023 12 609)。転写量が多すぎて切断が間に合わないだけなのかもしれない。FGF23の切断ができないためiFGF23が亢進する遺伝疾患、autosomal dominant hypophosphatemic rickets(ADHR)が、参考になるかもしれない。


 CKD-MBD・鉄欠乏・炎症・HIFはいずれもCKD患者に併存しているため複雑であるが、せっかく同定されたのだから、FGF23(iFGF23、cFGF23)が診療にもっと活かされて、患者の役に立つ日がくるといいなと思う。まずは鉄含有リン吸着薬だろうが、個人的にはFGFR4に対する分子標的治療にも期待している。

(出典はFEBS Letters 2019 593 1879)