2013/03/17

Conquest of land 2/2

 初めてaldosteroneを手にした脊椎動物、肉鰭類。お陰でハイギョは住む沼が乾季に干からびても生き延びることができる。しかしこの分野のレビュー論文(J Endocrinol Invest 2006 29 373)は、原始肉鰭類にとってステロイドは体液保持だけでなく低酸素に対するストレス反応に重要だったと推察している。かれらが初めて呼吸した4億年前の地球の空気には、酸素が現在の半分しかなかったのだ。

 両生類になるとステロイド代謝が大きく変化し、糖質コルチコイドのcortisolやcortisoneはCYP17がブロックされて産生が抑えられ、代わりに(17番炭素が水酸化されない代謝経路にある)aldosteroneとその前駆体corticosteroneが中心になる(なんとaldosteroneが鉱質・糖質コルチコイドを兼ねている)。これにより、両生類は皮膚と膀胱の上皮からNa+を再吸収することで体液を保持できるようになった。

 このステロイド代謝シフトはsauropsids(竜弓類、爬虫類と鳥類と恐竜の総称)で完成し、彼らではCYP17が完全にブロックされている。しかしaldosterone濃度は両生類の1/1000まで低下する。これが受容体の感度が高まったためか、前駆体のcorticosteroneに依存しているためかは分からない。いずれにせよ鉱質コルチコイドは腎臓と総排泄腔(鳥類にはダチョウを除き膀胱がない)でNa+を再吸収する。海鳥類では鼻と眼窩にある塩類腺からのNa+排泄調節も行う。

 哺乳類になっても、9600年前に分化したげっ歯類までは副腎でのCYP17が止まっている(corticosteroneがメインの糖質コルチコイド)。しかしそれ以降ではCYP17遺伝子発現が再開し、cortisolやcortisoneを利用できるようになる。ここにきて糖質・鉱質ステロイドの区別は明確になり、MR(鉱質コルチコイド受容体)のあるところでは糖質コルチコイド(MRと親和性あり)が11b-HSDにより分解される(この臨床的側面はこちら)。

 そんな哺乳類が、今度は海に戻る。5000万年前にシカのような動物がクジラ類に、2200万年前にクマのような動物が鰭脚類(アザラシなど)になる。生物の適応たるや、何でもありだ。高浸透圧の海で暮らす彼らにとってはナトリウム排泄が課題であり、ナトリウム保持のaldosteroneなど必要ない。だから、彼らの副腎を調べるとaldosterone産生が皆無か痕跡的らしい。

 "Nothing in biology makes sense except in the light of evolution"とは米国で活躍したロシア人生物学者Theosodius Dobzhanskyが1973年に発表したエッセーだ。大局的で進化論的な見方は生理学の理解を助けるし、なによりダイナミックで興味が尽きない。ここではaldosterone中心に論じたが、steroid receptorは?reninとangiotensinは?ADHは?質問が次々に生まれ、どんどん調べたくなる。