2013/03/27

ネフロンの大冒険 1/3

 19世紀後半から20世紀前半にかけて続いた、糸球体ろ過/再吸収と尿細管分泌の論争。しかし、糸球体と尿細管の間で揺れ動いてきたのは研究者だけではない。じつは生命そのものが、進化と適応の過程で両者の間を行ったり来たりしているのだ。どういうことか?ここで、5億年の間にネフロンが遂げた変化を追いかけてみよう。

 原始生物の腎臓には糸球体はなく、尿細管分泌による毒や老廃物の排泄を行っていたと考えられている(Am J Physiol Renal Physiol 2002 282 F1)。原始脊椎動物である円口類の腎はいまでもそうだし、amniotes(有羊膜類:爬虫類、鳥類、哺乳類の総称)が胎生期に利用するpronephros(前腎)も尿細管だけで糸球体はない(Dev Biol 1997 188 189)。

 糸球体があるとどう良いのか?例として淡水魚を考えてみよう。浸透圧が1mOsm/kgH2O未満の淡水では、浸透圧の高い体内に水がどんどん浸透してくる。その一方で、拡散により溶質は体外に出て行く。そんな環境で生きていくには、大量の水を捨ててしかも塩を保つ仕組みが必要だ。

 糸球体で体液をごっそりろ過すれば、水をじゃんじゃん捨てることができる。しかし体液をじゃんじゃん捨てたら死んでしまうので、貴重な溶質は尿細管(正確には遠位尿細管と膀胱上皮)でほとんど再吸収している。最終的な尿は40mOsm/kgH2O以下まで溶質フリーにできる(Am J Physiol Renal Physiol 2004 286 F811)。

 糸球体により淡水でも内部環境を維持することができるようになった脊椎動物。このあと彼らはネフロンの頭に糸球体を載せて岸から上陸し進化を遂げる一方、海水にも戻っていく。まず海の話をしよう。浸透圧が1000mOsm/kgH2O以上ある海水では体外に水がどんどん逃げ、塩が体に入ってくる。さて今度はどうやって体内環境を維持しよう?つづく。