2013/03/25

腎臓解剖生理学の歴史 2/2

 糸球体における毛細血管と尿細管の連結を発見したBowman。しかし彼は、尿は尿細管から分泌されると予想した。その過程で尿細管細胞が剥離するので、糸球体は尿細管内が詰まらないように水でflushするのが役目と考えられたのだ。まあ、あれだけクネクネ長い尿細管をみればそう思わないほうが驚きだが。

 しかしMarburg(ドイツ)のCarl Ludwigは違った。1842年、26歳の彼は「尿は糸球体が大量の体液をろ過して、そこには尿の溶質すべてが含まれている」という仮説を初めて発表した。大量の体液をろ過したら、それは必然的に尿細管で再吸収されなければならない。没後100周年記念の文献(NDT 1996 11 717)によればこれは一種の学位論文だったらしいが、以後ロンドンのArthur Cushnyらに支持された。

 糸球体ろ過/尿細管再吸収モデルと尿細管分泌モデルの論争はずっと続いた。尿細管モデルは、Breslau(現在のポーランド)のRudolf Heidenhainによって洗練された。彼は従来の尿細管剥離を否定し、尿細管での分泌は細胞内を通過するプロセスによると提唱した。これは現在のトランスポーターやチャネルにつながる考えだし、実際尿細管から分泌される物質もたくさんある。

 それが20世紀になって、米国University of PennsylvaniaにいたA. N. Richardsが論争の決着を準備した。彼はカエルの糸球体ろ過尿を採取して、その成分を膀胱の尿と比較した。糸球体ろ過尿なんてどうやって採取できる?Bowman嚢に極細ピペットを刺して吸い取ればいいじゃないか!私には何ともアメリカンな発想に思えるこれが、有名なmicropuncture法だ。

 以後、micropuncture、さらに発展応用したstop flowとmicroperfusionなどにより腎生理は飛躍的に解明され現在に至る(歴史についての論文はAm J Physiol Renal Physiol 2004 287 F866)。最初の論文(Am J Physiol 1924 71 209)を読んだが、micropuncture器械の写真などあり興味深い。糖負荷で糸球体ろ過尿は糖が陽性だが膀胱尿では陰性で、糖が尿細管で再吸収された可能性が示唆された。

 腎臓は重要な臓器でありながら、失っても腎代替療法で年余にわたり生命が維持できる(心臓、肝臓など他臓器と比べてみるがいい)。その理由の一つは、腎の機能が多臓器に比べて良く理解されているからだと私は思う。機能を知らなければ、テクノロジーによって真似することもできないではないか?先人達に感謝したい。