2019/04/05

他山の石

 先月、ガイドワイヤーの重要性と危険性について論じたが、「抜き忘れ」については論じなかった。しかし、医療事故情報収集等事業がおこなった調査の第34回報告書(透析関連の事故をあつかったIII、2【1】)によれば、2004年から2013年までに、穿刺時の「外套(注:外筒の意味だろう)・ガイドワイヤーの残存」の事例が9件あった。うちガイドワイヤーは5件だが、リアルな数字だ。

 報告書には具体的な事例が二つ挙げられているが、ひとつは:

血液浄化用のダブルルーメンカテーテルを鼠径部から挿入留置した。その後血液浄化装置にて血液透析を開始したところ送血管の圧が高く、脱血管に切り替えた。送血管の圧の高さを調べるためにエックス線撮影したところ、ガイドワイヤーの遺残を発見した。小切開にて、ガイドワイヤー、カテーテルを抜去した。改めてカテーテルを挿入し透析を開始した。

 「遺残」とあることから、ガイドワイヤー抜去時にガイドワイヤーが途中で切れた可能性がある。幸い筆者にはその経験がないが、逆に言えば同じ事故に遭遇しても知らなければこの報告同様に気づくのが遅れたかもしれない。

 ただし背景には「カテーテルを留置した際に、ガイドワイヤーを抜くことを失念した」とあり、遺残ではなく全部だった可能性もある。脱血・送血用のルーメン以外にもうひとつ(通常のCVカテーテルとしての)ルーメンがあって、そこからガイドワイヤーがでてくる仕組みだったのかもしれない。

 また、大腿静脈から挿入するのはたいてい緊急なことがおおく、反省点として「早く透析を開始したいと焦りがあった」と挙げられているのを見ると、(その気持ちはよくわかるので)他人事ではないなと身につまされる。

 もうひとつの具体例はICUで、内頚静脈に入っていた中心静脈カテーテルを切って、そこからガイドワイヤーを挿入して透析用カテーテルに入れ替えを試みた際に、断端が静脈内に入ってしまった・・・というものだ。

 これについて報告書は「医師が過労のため体調不良であり、注意力が落ちていた可能性が高い」などと考察している。「過労」、「体調不良」などと聞かされると、働き方と体調を管理することも「カテ道」にとって大事な要素だなと改めて痛感する。


 報告書は、こうした事例を受けての改善点に「院内で事例を共有する」を挙げている。それはもっともだし、じっさい報告書がPDFとして(建設的な意味で)院外に共有されている(リンクはこちら)のは本当にありがたい。ぜひ、他山の石として肝に銘じたい(下図は日本医療機能評価機構ウェブサイトより)。