2019/04/29

尿から色々と考えてみよう (理解が難しい尿中アンモニウムについて)

尿電解質を少し複合的に考えてみよう。
尿電解質はアンモニアの排出が腎臓からどのくらい出ているかを判断する情報を与えてくれる。

アンモニア?急にこのワードが出てくると身構えてしまうのは自分だけであろうか?
まず、簡単になぜアンモニアが話に出てくるのかを説明する。

まず、体は常に酸負荷の環境にさらされている。食事から酸も発生する。
その環境下で、酸を排出して酸が溜まらないようにするかは非常に重要になってくる。

排泄する方法には様々な方法があるが、肺からCO2として排泄される揮発性酸と腎臓から排泄される不揮発性酸がある(緩衝系ももちろん忘れてはいけない)。

その中で、腎臓から不揮発性酸として排泄する方法として、
①HCO3-にH+がくっついて中和する方法
②H2PO42-にH+がくっつき、尿から排泄する方法
③NH3にH+がくっつきNH4+として尿から出す方法がある。



http://fblt.cz/en/skripta/vii-vylucovaci-soustava-a-acidobazicka-rovnovaha/7-acidobazicka-rovnovaha/より引用


http://fblt.cz/en/skripta/vii-vylucovaci-soustava-a-acidobazicka-rovnovaha/7-acidobazicka-rovnovaha/より引用


http://fblt.cz/en/skripta/vii-vylucovaci-soustava-a-acidobazicka-rovnovaha/7-acidobazicka-rovnovaha/より引用



あくまでも、すべての方法は尿からH+を出すための方法である。

この中で、①、②の方法は限りがあるため、③の方法が腎臓から酸を排泄するという方法で非常に重要かつ有用となる。

ちなみに、アンモニウムイオンは近位尿細管で生成され、尿細管に分泌される。その後ヘンレ上行脚で再吸収され、細胞内でアンモニアを生成し、腎髄質の間質で高濃度に蓄積され、集合管のα介在細胞のチャネルから分泌されH+と結合しアンモニウムイオンとして排泄される。

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3041479/#!po=56.2500 より


話がかなり脱線してしまったが、尿アンモニアイオンの排泄が尿からどれだけ酸を排泄しているかの指標になっていることはわかっていただけたかもしれない。


そこで、非アニオンギャップ開大性代謝性アシドーシスの原因が腎臓か腎臓でない場所が原因かを判断する材料として酸の排泄部位の理解が重要となる。

腎臓が原因の場合は、腎臓からうまく酸の排泄ができない=尿中アンモニウムイオン排泄は低下し、腎臓以外が原因の場合は尿中アンモニウムイオンは増加する。


尿中アンモニウムイオンの測定をすれば原因は判明する!しかし、測定できない施設が多い。その場合は間接的な方法で測定する。その方法が尿AG(Anion Gap)である。


UAG=Usodium + Upottasium - Uchloride


UAGは正常では30-50mmol/Lである。これは、測定されないような尿中陰イオンがあるためである(尿中の主な陽イオンはNa+、K+、NH4+、主な陰イオンはCl-、HCO3-、リン酸、硫酸である)。


代謝性アシドーシスの際に、尿中アンモニウムイオンが増加するとNH4Cl(アンモニウムクロライド)として出てくるため、尿AGは陰性になる(下図A)。

尿AGが陽性であれば腎臓からのアンモニウム排泄ができていない=腎臓がアシドーシスの原因と考えられる。







では、直接尿中アンモニアなんて測定せずに、UAGを使えばいいのでは?と思うかもしれないが、このUAGの弱点を知っておく必要がある。

弱点としては、

一つは遠位尿細管に達するNaが極端に少ない場合にH+排泄が障害されるためUAGは当てにならない。目安として尿Na>20mEq/lが必要である。

もう一つは、測定できないような陰イオンがあった場合にUAGの数値が異なる値になってしまうことである。

測定できないイオン:例えばDKAやAKAの時に出るナトリウムケト酸塩、ナトリウム馬尿酸、トルエン中毒などで出る安息香酸ナトリウムなどでは尿中アンモニアが適切に排泄され、本当はUAGが陰性になるはずなのを陽性にしてしまう。これは、測定できない陰イオンがNH4+にくっついて、NH4Clとして排泄されないため、UAGを陽性にしてしまうためである。D乳酸アシドーシスでも同様なことが生じる(上図B参照)。


このような時に有用になるのが尿浸透圧ギャップである。




尿浸透圧ギャップ=測定された尿浸透圧-計算で求められた尿浸透圧

となる。





上の図が非常にわかりやすい。尿浸透圧ギャップは正常値は10-100mOsm/kgである。

ちなみに尿中アンモニアは尿浸透圧ギャップ÷2で求めることができる。

尿浸透圧が陽性になっている理由はNH4Clが一般的には尿中浸透圧を構成しているものであるためである。

代謝性アシドーシスの際に

尿浸透圧ギャップが150mOsm/kg未満であれば、尿中アンモニア排泄障害を考え、RTAなどの疾患を想起する(アシドーシスなのにしっかり腎臓から排泄できていない。)。


尿浸透圧ギャップが400mOsm/kgより多い場合には、尿中アンモニアが過剰に排泄されている病態を考え、慢性下痢による高クロール性代謝性アシドーシスやトルエン中毒などを考慮する必要がある。



precious boy fluid より引用


尿浸透圧ギャップが使用の限界としては細菌などによ尿路感染などでは尿浸透圧と尿アンモニア排泄との相関性が失われる、尿の濃度が濃い場合には尿浸透圧ギャップは尿アンモニア排泄を過小評価する、アルコール(メタノールやエチレングリコール)、マンニトールなどの使用は尿中アンモニア排泄が高くない場合でも尿中浸透圧ギャップを増加させることなどがある。アルコール中毒の際には血中と尿中浸透圧ギャップが非常に診断の役に立つことは重要である。


ちょっと長くなってしまって申し訳ない。少しでも理解の助けになれば嬉しいなと思う。