2020/09/04

速報 IN.PACT AVスタディ

 バスキュラーアクセス領域に、ビッグ・ニュースだ。パクリタキセル被覆バルーンIN.PACT AV®による内シャント狭窄への効果が示され、先週のニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシンに報告された(NEJM 2020 383 733)。二部構成で紹介したい。


引用元はこちら


1. 概要


 このスタディは米国・日本・ニュージーランド29施設で(日本からは4市中病院と2大学病院)おこなわれ、血液透析患者330人(日本からは112人)の、内シャント狭窄(狭窄率50%以上、新規か再狭窄かは問わない)が対象だった。

 シャントの内訳は:

前腕(橈骨動脈-橈側皮静脈)166人
肘(上腕動脈-橈側皮静脈)120人
肘(上腕動脈-穿通枝)32人
その他 12人

 標的となった狭窄の部位は:

吻合部 84人
動脈流入路 11人
橈側皮静脈本幹 66人
穿刺部 37人
吻合部静脈側* 26人
(*swing point、周囲組織から剥離し「ぶらぶら」させた皮静脈の基点)
静脈流出路 106人

 とある。論文には国ごとのシャント種類・狭窄部位の内訳はないが、肘シャントの多くは「上腕・ファースト(こちらも参照)」の米国で、その多くが静脈流出路の狭窄であったろうと推察される(狭窄前後の静脈径は、平均7.2ミリもある)。


肘シャント(引用元はこちら


 こうしたシャント狭窄に対し、介入群・対照群のいずれもpre-dilationで拡張を行い(平均バルーン径:7.2ミリ、平均拡張回数:2.1回、平均最高拡張圧:18気圧)、両群ともに狭窄率は10%程度に改善した。

 そのうえで、介入群は0.035インチガイドワイヤー対応の薬剤被覆バルーンで、対照群は標準バルーンで、それぞれ追加拡張をおこなった(平均バルーン径:7.3ミリ、平均バルーン長:54ミリ、平均拡張回数:1.3回、平均最高拡張圧:10気圧)。

 なお、スタディの性質上どうしようもないことだが、標準バルーンと薬剤被覆バルーンは見た目が異なるため、バイアスを排除できない。それでなのかは分からないが、介入群は全例が180秒以上拡張していたのに対し、対照群は64%しかしていなかった。いずれにせよ、両群とも申し分なく狭窄を解消し、手技を終えた。


 それで、どうなったか?


 プライマリエンドポイントは、手技後6ヶ月間の開存率。つまり、再手技(①シャント不全徴候をともなう50%以上の再狭窄、または②シャント不全徴候を伴わない70%以上の再狭窄があった場合)がなく、シャント流路内に血栓もできないことだった。

 その結果、対照群の6ヶ月開存率は59.5%だったのに対し、介入群は82.2%だった(p<0.001)。ワースト・ケース・シナリオ解析(フォローできなかった介入群は全例再手技となり、フォローできなかった対照群は全例開存していたと仮定)でも、充分に有意差がでた(62.5% v. 73.5%、p=0.02)。


再手技減少の宣伝(引用元はこちら


 なお、国ごとや病変部位ごとのサブ解析データは入手できなかったが、「米国」と「米国以外(ニュージーランドは4症例なので、ほぼ日本)」のサブ解析ではどちらも遜色ない結果だった(米国の開存率は介入群で81%・対照群で65%、米国以外は介入群で83%・対照群で50.8%)。

 安全性は、手技後30日以内のシャント関連有害事象に有意差はなく(介入群4.2%、対照群4.4%、p=0.002)、12ヶ月後の死亡率にも有意差はなかった(介入群9.4%、対照群9.6%)。ただし、あえて挙げると手技後12ヶ月以内の肺炎が介入群で高かった(介入群7.1%、対照群3.1%、有意差データはなし)。


2. 感想


 パクリタキセル被覆バルーンといえば、末梢動脈疾患にはすでにLUTONIX®(こちらも参照)とINPACT®が用いられ、どちらも遜色ない印象で用いられているようだ(ドイツのリアルワールドなデータ・インタビューはこちら)。

 バスキュラーアクセス治療ではまずLUTONIX®が認可されたが、その根拠となる報告がやや残念(こちらも参照)で、「やっぱりシャントは別なのか・・」というペシミズムが拭えなかった。だから、今回申し分のない結果がでて、よかった。

 なお安全性については、末梢動脈疾患では被覆バルーン群で死亡率が対照群よりたかく心配された。しかし因果関係は明らかでなく、少なくともバスキュラー・アクセス領域のメタ・アナリシスでは有意差がみられなかった(J Endovasc Ther 2019 26 600)。
  
 ひきつづき短期・長期の有害事象には留意が必要なのはもちろんだが、バスキュラーアクセスの場合、論文著者もいうようにシャントの頻回狭窄や早期再閉塞による害(入院、再手術、不十分な透析、カテーテル関連合併症など)との兼ね合いも考慮すべきなのだろう。

 また本スタディは、日本の施設も参加しているので親しみやすいだろう。実臨床では得てして、「遠くのhigh-qualityスタディ」よりも「近くのnot-so-high-qualityスタディ」のほうが結果を受け入れやすいものだ。「近くてhigh-qualityスタディ」の今回、日本側の詳細な情報がわかると、より参考になるだろう。


  そのうえで、どうするか?


 日本のシャントPTA医療は、今年の医療報酬改定で点数が引き下げられる以前から「1処置1バルーン」の原則で成り立っている。よって、被覆バルーンを追加するのは、いまのところは頻回狭窄のケースなどに限定されるだろう。

 その意味では今回、新規より再狭窄病変で有意に開存率がすぐれていたのは、朗報かもしれない(新規病変は介入群90.7%・対照群75.6%で信頼区間[-0.1%~30.4%]、再狭窄病変は介入群78.9%・対照群52.4%で信頼区間[14.2%~38.8%])。

 今後、その有効性がリアル・ワールドで確認されれば、「被覆バルーンを追加すればPTA1回分(+再手術、入院、カテーテル・・・)が節約できる」といった議論が進むかもしれない。

 医療費の問題は複雑だが、いわゆる「ステークホルダー」それぞれが納得できるとよいだろう。なおその際には、「患者」という大切なステークホルダーのことも忘れてはならない。PTAの痛みに耐えるのも、新しい機器の関連有害事象を被りうるのも、結局は患者だからだ。