2020/09/17

BLISS-LNスタディ

 シクロフォスファミド(CYC)+アザチオプリン(AZA)にMMFにと増えてきたループス腎炎の治療選択肢(こちらも参照)に、仲間が追加されるかもしれない。BAFF(B細胞活性化因子)を阻害するモノクローナル抗体、ベリムマブの有効性を調べたBLISS-LNスタディがニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシンに報告された(NEJM 2020 383 1117)。

 スタディは中国・欧州・米国など21カ国の107施設で、ループス腎炎患者448人を対象に行われた。患者の平均年齢は33歳、女性が88%、アジア系が約50%。スタディ開始時にSLE発症から約3年、ループス腎炎発症から約0.2年が経過していた。

 腎炎については、全例が腎生検をうけ、クラスIII・IVが約6割、III+V・IV+Vが約3割、残りがVであった。平均尿蛋白クレアチニン比は3.4(41%が3以上)、平均eGFRは100ml/min/1.73m2(83%が60以上)で、eGFRが30ml/min/1.73m2未満・1年以内に透析をうけたなどの患者は除外されている。

 彼らに対して標準治療を行ったうえでベリムマブまたはプラセボを追加したわけだが、標準治療は人種を反映し「CYC(500mg点滴、2週おき6回)+AZA(目標2mg/kg/d、ただし200mg/d未満)」または「MMF(目標3g/d)」であった。また、ACEI/ARB・ヒドロキシクロロキンは約7割に処方されていた。

 ステロイドはどうか?こちらは医師の裁量で、mPSLの500-100mgパルスを1-3回おこなってもよく、PSL経口を0.5-1.0mg/kg/dではじめてもよかった。ただし、24週までに10mg/d以下に減量し、そこからの増量は不可。これを破った場合はtreatment failureと見なされた(24-76週は、SLEの腎外症状についてのみ例外的に短期間の増量がゆるされた)。

 そのうえで、ベリムマブ(またはプラセボ)が、1・15・29日目・以後は28日おき100週まで10mg/kg点滴投与された。
 
 プライマリ・エンドポイントは、104週後のPERR(primary efficacy renal response)で、尿蛋白クレアチニン比が0.7未満、eGFRの急性増悪前のベースからの低下が20%未満(または、60ml/min/1.73m2以上)と定義された。

 セカンダリ・エンドポイントはいくつかあるが、104週後のCRR(complete renal response)など。こちらは尿蛋白クレアチニン比0.5未満、eGFRの急性増悪前のベースからの低下が10%未満(または、90ml/min/1.73m2以上)と定義された。

 すると結果は、以下のようだった。

       介入群 対照群
104週PERR  43% 32%
       オッズ比1.6
 (信頼区間1.0-2.3、p=0.03) 
104週CRR   30%   20%
       オッズ比1.7
 (信頼区間1.1-2.7、p=0.02)

 さらに、腎関連イベント・死亡は以下のようだった。

        介入群 対照群
死亡       1    2
末期腎不全    0    1
Cr値の倍増       1       1
蛋白尿↑・腎機能↓ 17   39
腎関連の治療中止 16   20

 サブ解析では、CYC+AZA群・黒人群でプライマリ、セカンダリともに有意差はでず(ただしオッズ比は1以上)。MMF群・非黒人では有意差がでた。AZA・MMFは、下痢や骨髄抑制などにより「目標用量」に達しない症例がいたのかもしれないが、実際用量のデータは入手できなかった。

 また安全性は、治療関連の重度有害事象は介入群23件、プラセボ群25件だった。点滴薬にありがちな点滴後反応は、介入群26件・プラセボ群29件だった。数字上介入群のほうが多かったのは、「呼吸器、胸郭、縦隔の異常(5件)」と、がん(非メラノーマ皮膚がんを除き2件、含み3件)などだった。

 個人的には、9年前米国内科研修中にこの薬の存在を知り(こちらも参照)、できれば腎炎にも効くといいなあと思っていたので、まずはblissful(幸せに満ち溢れた)とまでは行かずともポジティブな結果でよかった。

 しかし位置づけとなると、どう使われるかは微妙と言わざるを得ない。そもそもベリムマブは、(論文著者も記しているように)腎炎を除外したSLEに試され認可された薬であり、よりハードコアな腎炎にも効くかには疑問もあったようだ。

 それもあってか、本スタディもかなり軽症の腎炎患者を集めてなんとか結果を出した感は否めない。CYC+AZA群や黒人患者で有意差が出なかったのは、治療抵抗性の腎炎が多かったからなのかもしれない(こちらも、論文著者が認めている)。

 筆者には、「腎外ループスにリウマチ内科でヒドロキシクロロキンなどと同様に使われて、腎炎を合併してもそのまま継続される」感じが想像しやすい。「初発のループス腎炎で、腎臓内科医がCYC・MMFに追加して使う」ならCNI(タクロリムス・シクロスポリン)が多いかもしれない。あくまで想像であるが・・。

 とはいえ、ステロイドでなんとかなる場合も多い腎炎領域でこうした論文に触れると、気持ちがいいのも事実である。IgA腎症ではベリムマブの仲間blisibimodが試みられ(こちらも参照;ただし治験は中止された)、今後「BAFF阻害薬(BLyS阻害薬とも)」を耳にする機会は増えるかもしれない。



ギルトフリーなお菓子、Bliss Balls
(引用元はこちら