2018/11/02

IgA腎症アップデート

「IgA腎症の治療は、かつてないほどエキサイティングな時期を迎えています。もうすこしで、よい治療がうまれると思います。」

Q:2018年の米国腎臓内科学会で、講演者の女性がこう話したのはなぜでしょう(写真は、サンディエゴでパーティを楽しむ人々)?




 IgA腎症の治療は、日本と海外で大きく異なる。そして、2012年KDIGOガイドラインの推奨に従ってしまうと、確立したものがACEI/ARBくらいしかない(こちらも参照)。糖尿病性腎臓病にしても、IgA腎症にしても、コモンすぎると原因が多すぎて、全てにあてはまるとなると最大公約数的な治療に限定されてしまうのかもしれない。

 しかし、そんななかでも近年はIgA腎症の病態解明がすすんで、潜在的な治療ターゲットもふえてきた。

 以前にも言及されたように、粘膜免疫(扁桃、パイエル板など)でつくられるGd-IgA1(二量体をつなぐヒンジ部にガラクトース糖鎖が少ないIgA1、しばしば多量体)がIgA腎症の鍵になる異常である。それに対して自己抗体(IgA、IgG)ができたり補体が活性化したりして炎症がおこると考えられている(図はNDT 2015 30 360)。




 それでステロイドが用いられるわけだが、全身投与のSTOP-IGAN(NEJM 2015 373 2225)とTESTING(JAMA 2017 318 432)では感染症の副作用が多かった(後者は中止になった)。そこで「腸溶カプセルにしたステロイドNeficon®(budenoside)を使おう」というのがNEFIGANトライアルだ(Lancet 2017 389 2117;IGANは、IGA Nephropathyのこと)。結果、8mg/dと16mg/dでeGFRに有意差が出て、16mg/dで蛋白尿(gCr比)で有意差が出た。有害事象には有意差がなかった。

 さらに、異常Gd-IgA1を作る細胞をターゲットにしてはどうかという戦略もある。しかし、RTXをもちいても(JASN 2017 28 1306)蛋白尿、eGFRには無効だった。腸管でGd-IgA1をつくる「CD20陰性CD19陽性CD27強陽性」形質細胞、骨髄で抗Gd-IgA1抗体(IgG)を作る「CD19陰性CD20陰性」形質細胞はRTXでも生き残ることが知られており、無効な理由のひとつかもしれない(CJASN 2018 13 1584に解説あり)。

 ならばと、形質細胞をターゲットにしたBortezomibも治験されている。パイロットスタディ(KI Reports 2018 3 861)では8人中3人で寛解した。なおいずれの病理像も、免疫抑制が効きやすい(というよりも、免疫抑制しなければ予後不良な)Oxford分類E1で、管内増殖ありだった。

 しかし、今日この頃は「腸管」とか「細胞」というターゲットでは大雑把過ぎる。そこで、より細かなターゲットも試されている。

 Blisibimodは、BAFF阻害薬であり、SLEに用いられるBelimumabの仲間だ。BAFFはB細胞の活性化因子のひとつで、IgA腎症においても、粘膜免疫でB細胞が異常IgA1をつくるのにAPRIL、TACIなどと同様にBAFFが重要な役割を果たしていると考えられている。じつはBlisibimodはSLEのPhase 3トライアルではエンドポイントを満たさなかった(Ann Rheum Dis 2018 77 883)が、IgA腎症のBRIGHT-SCトライアルは結果まちだ。

 さらに抗BAFF・抗APRILのAtaciceptもリクルート中(NCT02808429)で、spleen tyrosine kinase(SYK)阻害薬Fostamatinibのスタディも進行中だ(NCT02112838)。ここまでくると正直私の理解をとうに越えているが、WikipediaとJaneway's immunobiologyによればSYKはFcγRやITAMなどに関係しB細胞の成熟や活性化に関与しているらしい。

 さらに、どこかで誰かが始めているかもしれないのが、補体をターゲットにした治療だ。レクチン経路の関与(腎病理におけるC4dの病的意義を示したのはCJASN 2014 9 897)、alternative pathwayの関与(C3aを押さえているH因子を抑制する、Factor H-related protein1・5の関与を示したのはKidney International 2017 92 953)は明らかで、アバコパンなど抗補体薬の報告が見られるようになるかもしれない。