2018/11/26

どうするDKD

 61才女性、糖尿病の既往あり(HgbA1cは7.2%)。かかりつけ医の血液検査で47ml/min/1.73m2のeGFR低下を指摘され、みずから予約して腎臓内科を受診。ARB内服中、アルブミン尿は30mg/日未満。




Q:(潜血・網膜症の有無にかかわらず)腎生検しますか?

 
 上の例は、日本糖尿病学会・日本腎臓学会が2014年に発表した腎症ステージ(下図)のピンク、1期に該当する。両学会はこれを「腎症早期」とも呼んでいるが、これが本当に早期なのかは、議論のあるところだ。




 第一に、2期・3期と進行していく(上図で右に向かう)のか分からない。DKDと言う言葉が出てきた時にも紹介したが、1型糖尿病とちがって2型は従来の腎症モデルがあてはまらないかもしれない。蛋白尿が増えずに4・5期に至る(上図で下に向かう)例もあるかもしれない。

 あるいは、ずっと1期のままかもしれない。大規模CKDコホートCRICでこの群(正確にはeGFRが20以上なので、上図で1期の真下まで含む)を6年余り追跡したところ、eGFRの低下は年にマイナス0.17ml/min/1.73m2で、末期腎不全に至ったのは5%だった(AJKD 2018 72 653、下図はGFR50%以上低下・末期腎不全をあわせた累積ハザード)。




 第二には、「糖尿病患者の蛋白尿のないeGFR低下」は、糖尿病性腎症でないかもしれない。腎硬化症、軽度のIgA腎症なども混じっているかもしれない。

 それで、冒頭の「腎生検しますか?」という問いが出てくる。やってもやらなくても予後が変わらないのなら、生検リスクを重く考えて見送る施設が多いかも知れない。しかし、病態解明には生検したほうがいいのかもしれない。尿細管病変中心とか(蛋白尿と尿細管といえば治験薬バルドキソロンも思い出されるが、こちら)、いろいろ情報が得られるかもしれない。

 ただでさえ糖尿病性腎症は「やっても治療が変わらない」と腎生検が避けられる傾向にあり、腎病理分類が確立したのもごく最近のことだ(JASN 2010 21 556、糸球体病変の診断フローは下図)。それからも、「8例生検しました」という報告で論文にできるほど(Diabetes Care 2013 36 3620)。




 そんなわけで、まだ「糖尿病患者の蛋白尿のないeGFR低下」を表す言葉は、正式に決まっていない。ただ、それを包含する考え方としてDKDが生まれたからには、NP-DKD(non-proteinuric diabetic kidney disease)、NA-DKD(normoalbuminuric diabetic kidney disease)など、DKDに関連した派生語になるかもしれない。

 この群を病態解明のために積極的に生検すべきか?腎予後の極めてよい群であり不要なリスクは避けるべきか?

 これが「がん」なら、早期癌でも前がん病変でも癌のように見える正常組織でも、比較的迷わず生検されるかもしれない。心血管死や腎不全はがんとは少し違うが、議論のポイントとしては似ている。患者さんもまじえて議論すべき、難しい問題だ。