2018/11/29

「じん」をめぐる冒険

 このところ、投稿の最後にTwitterのことが書いてあるので、もうサイト(https://twitter.com/Kiseki_jinzo)に行ってくださった方もいらっしゃるかも知れない。そして、下図のプロフィール写真にも目を留めてくださったかもしれない。




 これはもちろん、「今年の漢字」のパロディだ。いつかはこんな日が・・と、私はずっと「キセキ」に期待している。腎臓病の治癒ができたら、あるいは、新しい人工腎臓ができたら、叶うかな。しかし今年の応募期間は12月5日までだから、まだ「腎」にもチャンスはある。12月12日の京都・清水寺での発表が待ち遠しい。

 そんなわけで、きょうはこの「腎」という言葉について考えてみたい。まずは、空港でのこんな会話スキットに注目してみよう。




入国審査官「あなたは何をしていますか?」

私「医師です」

入国審査官「専門は?」

私「Nephrologistです」

入国審査官「え、何?」

 
 腎臓内科・腎臓病・腎不全は日本語ではすべて「腎」だが、英語だとそれぞれネフロ(nephro)・キドニー(kidney)・リーナル(renal) と異なる。そしてネフロはギリシャ語、リーナルはラテン語だから、一般には通じにくい(リーナルは、フランス・スペインなどのラテン語圏なら通じるかもしれないが)。

 それで、さきほどのスキットでは「キドニー・ドクターです」と言ったほうが通じやすい。中期英語でよりアングロサクソンな「キドニー」は、豆の名前にもなるくらい誰でも知っているからだ。CRF(chronic renal failure)をCKD(chronic kidney disease)にした米国腎臓財団タスクフォースK/DOQIの2002年宣言にも、名称変更の理由にその旨が明記されている。




 つぎに、「腎」という漢字についてはどうか。左上の臣は「目を見開いた」、転じて「従う・家来」の意味があり、右上の又は「手」の意味がある。そしてこの二つが合わさると、「かたい・しっかりした」という意味になるそうだ。神のしもべの瞳を傷つけ身体を硬くする、家臣がひざまずいて身体を固くするなど諸説ある。

 だから「腎」は、「かたい・しっかりした臓器」ということだ。たしかに、かたい。そして、しっかりしている。余談だが「腎」の「にくづき」を「貝」にした「賢」も同様に、「しっかりした通貨・宝を持っている」から「かしこい」の意味になったという。

 ここまできたから、韓国語と和語についても触れておく。韓国語では、「腎臓」のハングル読み신장(シンジャン)も用いるが、より一般に使うのは콩팥(コンパッ)で、콩は「まめ」、팥は「あずき」だ(あずきカキ氷として日本でもお馴染みなパッピンスの「パッ」)。




 そして和語は、「むらと」だ。平安中期に編纂された辞書「倭名類聚抄(わみょうるいじゅしょう)」に記載があるらしい。おそらく、身体の各部について説明した形體部だろう。解釈によれば「むら」は「まわる」、「と」は「ところ」に通じ、あわせて「循環するところ」という意味だそうだ。

 循環する臓器はたくさんあるが、腎臓を「むらと」と名づけた先祖はすごい。

 話はめぐってめぐりますが、最初のとおり、Twitterともども今後ともよろしくお願い申し上げます。

https://twitter.com/Kiseki_jinzo