2018/11/15

じーんとする学会

 ポスター・口演から生涯学習・人脈作りまで、学会に期待するものは沢山あるだろう。しかし、せっかく世界規模の学会に行くからには、「ビックリ・ワクワクするような発見や発表はないかな?」という蓋を開ける前のサスペンスにも期待したい。



 そんなわけで今年の米国腎臓学会にもHIGH-IMPACT CLINICAL TRIALS(RESULTS THAT COULD IMPROVE KIDNEY CARE)コーナーがあって、大事な研究成果を研究者から直接聴くことができた。一覧はもう公表されている。

・ DPP4阻害薬リナグリプチンのCKD患者に対する腎保護・心血管系の安全性について(CARMELINA®スタディ)

・透析患者で鉄を高用量静注投与しESA量を下げる試みと、その安全性について(PIVOTALスタディ、DOI: 10.1056/NEJMoa1810742)

・次世代SGLT2阻害薬(ベキサグリフロジン)のステージ3CKD患者への有効性と安全性について

・心臓手術後の輸血戦略を比較したTRICSスタディで、閾値を7g/dlにさげてもAKIは増えな
かったというサブ解析

・カナダで透析導入を遅らせる政策が施行されたあとの影響をしらべた、プラグマティック・スタディ

・炭酸カルシウムと炭酸ランタンをくらべて透析患者の心血管系死への影響を調べたLANDMARKスタディ(開始前の説明はClin Exp Nephrol 2017 21 531)

・透析のうつ病患者にSSRIと認知行動療法(透析中、あるいは個室で)を比較したところSSRIのほうが優れていたというスタディ


 PIVOTAL、LANDMARKについては別に考察したい。DPP4阻害薬とSGLT2阻害薬の話は、おそらくそのうち製薬会社の方々から説明されるだろう。透析導入の話は、カナダで巨大な透析レジストリができて、今後さまざまなプラグマティック・スタディが組めるようになったことに意義があるようだった。

 いずれも今後が期待されるし、そういう拍手に会場はつつまれた。

 しかし、最後のスタディは少しちがった。

 結果は私には意外だった。認知行動療法はすべての人には向いていない(宿題をしたり大変)し、透析中にやるのとカウンセリング室でやるのでは効果がちがうのかもしれない。ただ、リハビリなどと一緒で、長生きもさることながら患者さんが透析室に来るのが楽しくハッピーになることを意図した取り組みは、歓迎されるべきだ。

 発表のあと、聴衆の一人が「質問ではありませんが」と前置きしたうえで、「あまり誰も気に留めないこの問題に取り組んでくれて、ありがとう」とコメントした。そして、そのあとに暖かな拍手が起きた。

 それを聴くのは、2013年アトランタの米国腎臓学会で経験したのにも近い、じーんとする感覚だった。

 ワクワク・ドキドキだけでなく、(腎臓だけに?)じーんとするのも学会の醍醐味かもしれない。